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第3章 アジアの産業構造の変化

 

社団法人長寿社会文化協会
理事長 降矢憲一

 

はじめに

 

モンスーン地帯にあって農業生産の条件に恵まれていたアセアンなど東アジア諸国が僅々30年程度の間に大きく変貌し、1990年代に入ってからは食料の自給率の低下に悩むまでになっている。他方では、アメリカ、EUとならんで世界経済の3分の1を占めるほどの経済の規模を達成するのも時間の問題とされている。こうした大きな変化は世界経済が1980年代から90年代にかけて停滞色を強めている中で、奇蹟の成長をつづけ、70年代、80年代に比べれば若干の鈍化は否めないものの、90年代前半でもこの地域全体で5%程度の成長を持続していることで注目される。
このような奇蹟の成長は、同時に奇蹟の産業構造変化の過程であり、農工転換の速度はこれまでの世界史において経験されなかったものである。この地域の諸国の多くは、発展途上国として、先進諸国の経済援助を必要としていたが、1970年代にはアジアNIEsが要援助国を卒業し、80年代後半から90年代にかけてはアセアン諸国の中でもタイ、マレーシアなどがこれに続くまでになっている、LLDCのラオスなどインドシナ諸国のアセアン加盟によって、この地域全体としての経済規模拡大にプラスする一方で、経済発展の段階差、その速度の複雑さなど、多様化はみられるものの農工転換を軸とする産業構造の変化は、経済成長を背景に来世紀に向けてつづけられるであろう。本章ではこうした産業構造の変化の実態、特徴、その要因などについて若干の検討をすることとしたい。途上国の宿命としての資料的制約もあって必ずしも網羅的な解明はできないが、情報的な補足でカバーすることにしよう。

 

1 産業構造の変化−農工転換

 

この半世紀、アジア、とくに東アジア・太平洋地域の諸国は産業構造的には急速な

 

 

 

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