の手段の選択を無視して、ひたすら国家目標の達成のために強制や人権の侵害が起きたことも事実である。これでは現行の家族計画普及活動に限界があるとの反省も生まれた。1994年の国際人口・開発会議では、これまでの家族計画よりももっと広く、総合的視点からアプローチすることが、一見迂遠にみえてもそれが究極的には有効であるとした。それが女性のエンパワーメントであり、リプロダクティブ・ヘルスの概念である。
7 結語
女性のエンパワーメント、そしてリプロダクティブ・ヘルスというアプローチによって、世界の人口問題を解決できるだろうか。これに対して日本やアジアNIEsでは、過去に女性の地位が低くても出生率は低下した実績がある。女性のエンパワーメントだけでは、なかなか途上国に地すべり内出生率をもたらすのは難しいのではないかとのコメントが行われている。またここで“総花的に”、女性に関する社会開発に対して元来乏しい予算を配分するのは、これまで比較的少ない資金で効果のあった家族計画普及活動に水を差すことになるのではないか、という意見もある。
しかし、国際人口・開発会議でリプロダクティブ・ヘルスという漸新なアプローチが提唱されなかったら、そしてあれほどフェミニズム志向のNGOの声が聴かれなかったならば、会議は退屈なものになり、人口問題への世界中の関心は今日ほど高まらなかったであろう。それを支える開発がないままに、国家目標を全面に出し、飴と鞭で家族計画を普及させようとするアプローチには限界があることが分かったのである。このままで行けば、やがて期待される手詰まり状態から脱却するためには、リプロ・ヘルスのような新鮮なイメージと新しい発想が必要であったのであろう。
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