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界的な食料需給システムは新たな展開を見せようとしている。今や理念としての自由主義市場経済原則は全商品に及ぶものとして世界的に承認され、全世界単一の自由主義市場が成立した。この方向は1972年の世界食糧危機に端を発し、1970年代、1980年代の不安定期を経て1993年のガット・ウルグアイラウンドの終結によって完成したといえる。
1990年代以降の世界食料需給は、市場経済の国際市場及び各国国内への全面的浸透という経済システム変革期における食料需給として特徴づけられる。今後は、開発途上国を中心とする急速な人口増加とアジア諸国における経済成長に伴う食糧需要の大幅な増加に対して、地球的規模における資源・環境の制約が強まり、市場経済の全面的浸透による食糧生産・流通システムが変革が進行する。市場経済の浸透は、それが無制限に放任されれば、その否定面、すなわち需給市場の不安定性、貧富の格差拡大、自然環境の破壊などの矛盾を世界的な規模で深刻化させるとこととなろう。
21世紀に向けて、自由な市場経済を原則としつつ、その否定面をどこまでくい止め、克服することができるかが、人類にとっての課題となる。

 

6 警告としての悲観論

 

農業生産技術の開発は品種改良とそれに見合った栽培技術に見られるように十数年の歳を要する。さらに、その普及過程における現地適応技術を含めた総合技術として確立するには数十年の長期にわたる蓄積の上に成り立っている。その意味で「緑の革命」に見られるような冷戦構造の下で開発、蓄積された技術の普及過程にある限り、その慣性力ともいえる効果により、今後10年程度の間は世界的な食糧需給に大きな不安はない。
しかし、農業生産の基礎となる耕地の開発は人類の数千年にわたる営々とした努力の蓄積であることに端的に示されているように、食糧需給をわずか10年や20年の間の問題と考えることはできない。現在の状況に安心しきって長期の将来に向けた投資を怠るならばその報いを20年30年先の子孫が被ることになる。そのときになって慌てて

 

 

 

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