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高位推計に近い。このような著しい推計差は、開発途上国の出生力コントロールの成果に対する国連とIIASAの評価のちがいによるものである。しかし、いずれにしてもわずか半世紀そこそこで現在(1996)の世界人口58億が2倍に近い100億台に達する可能性を我々は前提とする心構えが必要であろう。

 

今から約200年前にマルサス(1798)は、人口と食糧の悲惨な関係論理を展開した。しかし、人類は幸運にも農業革命、産業革命を通じて食糧生産は飛躍的に増加し、低い人口増加率をはるかに上回り、人類の生活を豊かにした。特に第2次大戦後、人口増加率は急速に増大したが、食糧生産はまた近代科学の恩恵の下に増大し、人口の著しく高い増加率にもかかわらず、世界的には1人当りの食糧消費量の増大を可能にしてきた。農産物の過剰生産、価格の暴落さえ危惧された。
しかし、1990年代にはいって事態は大きく変化しようとしている。人口増加に対応すべき食糧生産の限界を示す諸徴候があらわれてきたのである。マルサスが理論的に帰結した食糧不足論は地球規模で具現されようとしている。マルサスはまた人口論の第2版以降で、食糧不足に対応する人間の側の増加抑制の知恵による救いの道の可能性を提示した。彼の提示以来、200年を経た今日、マルサスの予想を絶する地球規模的な巨大なスケールの離間として人類の生存を脅かしている。
地球は100億の人間を養なうことができるのか?という疑問がボンガーツ(1994)、レスター・ブラウン(1994)、ジョエル・コーヘン(1995)等によって提起され深刻な論争が始められた。国連は最近の推計(1994)によって2050年の世界人口を1992年の100億から98億に下方修正した。しかし、他方、IIASA(1994)は開発途上国の出生力低下の困難さを予測して2050年の世界人口を113億とした。国連の推計の高位値である119億に近い数値である。いずれにしても、100億という世界人口の規模は半世紀に予想される可能性の高い目標値として検討の対象とされる。
100億人の人口のこの地球上での生存の可能性を検討するために必要なことは、まず何よりも食糧生産力拡大の可能性である。食糧生産のための土地の拡大の余地の有無、多収穫多品種の発見、生産性増大のための化学肥料、さらにまたバイオテクノロジーによる画期的な食糧生産増大の可能性等々、プラス要因とマイナス要因が

 

 

 

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