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■事業の内容

(1)ウォータージェットシステム艇の開発
[1] 操縦性能の向上
 前年度までに実施した単艇での航走試験では検討しなかった6艇による競技形態航走試験を今年度実施するにあたり、操縦者の意のままに、また確実な操縦性能を確保することが重要であると考え、特にターンマーク進入時には艇が殺到することから、事故発生等の安全性の面からも最重要課題であるとの結論になった。対応策として、吸入ダクトフィンの改良が主として挙げられるが、他に、WJ艇の航走姿勢またWJS搭載艇にマッチした乗艇方法の研究も行った。
[2] 航走中の安定性能の向上
 WJ艇は直線航走時に左右のフラつきが起こり、旋回航走時は右舷(外側)が持ち上がるなどの現象が発生する。これはWJ艇特有の性質という面も一部あるが、より優れた安定性能の向上、競技形態での集団航走を実現するため検討及び改良を実施した。
[3] 安全性の確保
 WJSはその機構上、水中にプロペラが出ていないことから、落水時のプロペラによる巻き込みが発生せず、重大事故を起こしにくいことが指摘されている。具体的な安全性確保の研究は行わなかったが、乗艇者からは巻き込み事故発生の可能性が減少することに対する評価を得ることができた。
(2)WJS実用化設計及び主要項目の決定
[1] 冷却水配管の移設
 WJSのエンジン冷却水配管はWJポンプより分岐し、冷却水を引く構造としている。今年度はWJSが左舷側では集団航走の旋回時に接触によって破損する恐れが高いため、右舷側に冷却水配管を取り付けるよう設計。これによるポンプ圧力低下等の現象は発生しなかった。
[2] 消音型キャリーボディ
 WJSは構造の関係上より、プロペラシステムと同様の水中排気方式を採用することができず、キャリーボディから直接大気開放する方式としている。6艇による集団航走を想定した場合、騒音に対する苦情等の問題が考えられるため対策を検討した。
 消音方式として、膨張室をキャリーボディ左舷に設ける方式とし、水槽試験において騒音測定を行った。測定試験の結果、全周波数帯においては音量が低下したが、周波数帯によっては増大しており消音効果があることが確認された。
[3] 吸入ダクト
 標準型吸入ダクトの選定と、旋回性能向上を主眼に置いた吸入ダクトの開発研究を行った。
a.縦 横 比
 標準型吸入ダクトの選定において、正面投影面積を一定とし、縦横比を変えることにより3種類の吸入ダクトを製作した。
b.切り欠き型吸入ダクト
 吸入口の右舷側壁に切り欠きを入れることにより、旋回時に右方向から流れる水流を吸入し、吸入効率向上を目的として改良した。
c.可動型フリー式
 自動可動型吸入口の後端にフィンを設けることにより、水の流れ方向に吸入口を自動的に向けることができる機構。
d.可動型リンク式
 舵角に対応して機械式(リンク)に吸入口を可動させる機構。舵角0度の時、吸入口は正面を向き固定され、左舵操作を行うと舵角とは別に右側へと吸入口を向けるシステム。
e.前フィン式
 吸入口前部に水の流れに対し自由に可動するフィンを設け、整流させた水を吸入させる機構。
[4] フ ィ ン
a.吸入ダクト縦フィン
 前年度までの吸入ダクトのフィン面積16,400平方ミリメートルでは船としての機能が不十分であり、40,500平方ミリメートルに拡大した。
b.吸入ダクト横フィン
 吸入ダクト付近の水流の乱れが上記の縦フィンに与える影響が大きいと予測されることから、そのフィン面に横フィンを取り付けた。
c.吸入ダクト取付高さ
 集団航走時に引き波の上を通過した際、空気を吸い込み充分なスラストを発生できないことが指摘されており、取付高さで10ミリ、吸入口形状により10ミリの合計20ミリ、吸入ダクトの取付位置を深くした。
[5] 制動機構
 水中噴射方式及び空中噴射方式の2種類を開発した。実験により両者を比較検討した結果、水中噴射方式では構造上ポンプ内圧力が急激に上昇し、インペラ及び軸装置に影響を与える恐れがあるため、空中噴射方式を採用した。
(3)ウォータージェットシステム専用船
 WJSのスラスト高さ及び吸入口部の水中抵抗の関係(プロペラシステムとの比)により、WJSを搭載したハイドロ艇はバウトリム(船首下げ)になることが、以前より指摘されていた。このバウトリムの影響として主に、「抵抗増大による速度の低下」「直進航走時の方向安定性の低下」等が挙げられる。
 上記の問題を解決する目的として、WJ艇の開発研究を前年度より着手。WJS搭載用として艇に以下の改良を行った。
・スターン部の航走時浮力の減少によるバウトリムの改善
・デッドライズ角度の増加による直進性能の改善
・船底に前後方向の勾配を付加しスターン飛び跳ねの改善
・艇サイドのチャインライン改良による旋回時の右舷水当たり改善
これらに加え、今年度は以下の改良を実施した。
[1] スターンカット
 スターン部の航走時浮力の減少を目的として、WJ艇のスターンをカットした。カット幅は30mm、50mm、80mmの3種類。
[2] 艇センターフィン移動
 WJSを搭載したWJ艇はプロペラシステム搭載艇より重心が後方に位置するため、センターフィンを60mmスターン側に移動した。
[3] 直進用フィン追加
 スターン側左右に直進用フィンを1枚または2枚追加した。これはWJS搭載艇初操縦者の直進性に対する不安を解消するための対策である。
(4)動力試験、水槽試験
 6艇による集団航走を実施するにあたり、各エンジン・WJSの性能の均一化を図るため、動力試験・水槽試験を実施し、各システムの調整及び性能を確認した。
[1] 動力試験
 平成7年10月9日〜11日  全国モーターボート競走会連合会技術研究所
[2] 水槽試験
 平成7年12月6日  (株)大阪補機製作所鶴町工場
(5)航走試験
 今年度は以下のとおり航走試験を実施した。
・第1回航走試験
平成7年5月30日〜6月1日  桐生競走場
試験内容 [1] 競走用吸入ダクトの選定
[2] 吸入ダクトフィン形状の選定
[3] 制動機構の作動確認
[4] WJ専用艇の選定
[5] RMSによるデータ収集
[6] 操縦性能の確認と検討
・第2回航走試験
平成7年9月20日  住之江競走場
試験内容 [1] 旋回用可動型フリー式・リンク式吸入ダクトの性能確認
[2] 操縦性能の確認と検討
・第3回航走試験
平成7年10月30日  住之江競走場
試験内容 [1] 旋回用可動型フリー式吸入ダクトの性能確認
[2] 操縦性能の確認と検討
・第4回航走試験
平成7年12月13日〜14日  桐生競走場
試験内容 [1] 旋回用可動型フリー式・リンク式吸入ダクトの性能確認
[2] 旋回用前フィンフリー式・リンク式吸入ダクトの性能確認
[3] 制動機構の性能確認
[4] 集団航走時操縦性能の確認と検討
・第5回航走試験
平成8年1月11日  全国モーターボート競走会連合会技術研究所
試験内容 [1] WJ艇の直進性能の確認
[2] カタマラン艇搭載時の性能確認
・第6回航走試験
平成8年1月18日  住之江競走場
試験内容 [1] 旋回用可動型リンク式吸入ダクトの選定と性能確認
[2] 旋回用前フィン式吸入ダクトの性能確認
[3] 吸入ダクトフィン形状の選定
[4] WJ艇の航走時トリムの確認
[5] WJ艇の直進性能の確認
[6] 集団航走時操縦性能の確認と検討
・第7回航走試験
平成8年1月24日〜25日  桐生競走場
試験内容 [1] WJ艇の直進性能の確認
     [2] 旋回用可動型リンク式吸入ダクトの性能確認
・第8回航走試験
平成8年2月5日  住之江競走場
試験内容 [1] 旋回用可動型リンク式吸入ダクトの選定と性能確認
     [2] 吸入ダクトフィン形状の選定
     [3] 集団航走時操縦性能の確認と検討
・第9回航走試験
平成8年2月21日  住之江競走場
試験内容 [1] WJ艇フィン取付位置の影響確認
[2] WJ艇の航走時トリムの確認
[3] 集団航走時操縦性能の確認と検討
・第10回航走試験
平成8年3月7日〜10日 13日〜19日  住之江競走場
試験内容 [1] 操縦者による完熟航走
[2] WJS搭載艇の性能確認
[3] 集団航走実施についての検討
・第11回航走試験
平成8年3月26日〜27日  住之江競走場
試験内容 [1] 操縦者による完熟航走
[2] 6艇によ
■事業の成果

本事業は、小型高速艇の推進機構の性能向上に関し、安全性の点でプロペラシステムよりはるかに優れているウォータージェットシステムの優位性を十分に発揮でき、しかも現用のプロペラシステムと同等以上の推進機能を持つ高速艇用の安全・高性能な推進機構を開発することを目的に、システムと艇体の開発研究を実施し、集団航走試験を実施した。
 ウォータージェットシステムの開発研究では、昨年度までに開発されたプロトタイプをもとに、吸入ダクト、吸入ダクトフィン、冷却水配管等の実用化に必要な機構上の改善を行い、直進時のフラつきを解消し、旋回時におけるダクトの吸引性能を向上させることができた。制動機構についても防水対策の指摘があったが、制動・後進ともに所定の機能を有する空中噴射方式を開発した。ただし、直進性能向上のために取り付けた横フィンは抵抗の増加を招き、直線遠力を低下させるので直進安定性と速力性能の両立に対する課題が発生した。
 ウォータージェット艇の開発研究では、昨年度に開発されたウォータージェット専用艇をさらに実際の競技形態に対応できるように検討して、スターンカットによるバウトリム(船首下げ)の改善や艇センターフィンの取り付け位置の変更により直進及び旋回性能の向上を得ることができた。
 さらに、今回初めて競技形態を想定した集団航走試験を実施し、本開発研究で開発されたシステムと艇体の諸性能を競技面や安全面を含めて総括的かつ実際的に検証し得たことはたいへん大きな成果である。
 なお、今後は新たに発生した課題の克服や、操縦者の繊細な独特の操縦感覚及び長年の経験に基づくシステムや艇への微妙な要求を満たすべく改良を重ねていく努力が必要であり、理解と経験を深めてもらうために操縦者がウォータージェット艇に乗る機会を増やすことも重要であると認識された。
 以上、本開発研究の実施により、小型高速艇の推進機構及び艇体についてこれまでにない多くの貴重な成果を収めることができ、造船関係産業の発展に大きく寄与するものと思料される。





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