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■事業の内容

(1)国際規則と船舶設計等との関連に関する調査研究
[1] 国際規則と船舶設計等との関連検討
 海上人命安全条約、国際満載喫水線条約、海洋汚染防止条約等に関連するIMO(国際海事機関)海上安全委員会(MSC)、海洋環境保護委員会(MEPC)及び関連各小委員の資料、それらに対する各国の提案及びコメント、各機関の資料等をもとに検討を行い、わが国の意見及び提案資料を作成するとともに、国内法に取り入れるに際しての問題点、対策等の検討を行った。
[2] 国際規則と船舶設計等との関連検討のための調査及び試験
 IMO海上安全委員会(MSC)の下部組織として設けられている復原性・満載喫水線・漁船安全小委員会(SLF)、無線通信及び捜索・救助小委員会(COMSAR)、防火小委員会(FP)、設計設備小委員会(DE)、航行安全小委員会(NAV)、危険物、固体貨物、コンテナ小委員会(DSC)、液体貨物及びガス小委員会(BLG)、訓練当直基準小委員会(STW)、旗国小委員会(FSI)及び海洋寮境保護委員会(MEPC)等、各委員会における各種安全規則等の審議の推進並びに各規則に関連して次の調査及び試験を行った。
 さらに、最近IMOにおいて審議が行われている「RO/RO旅客船に対する安全対策」、「バルクキャリアの安全性」並びに「船舶・運航の安全管理」の課題についても調査研究を実施した。
a.1966年国際満載喫水線条約の基本的見直し
船首乾舷高さは船舶の安全航行の立場からも最も重要な要素である。1966年の国際満載喫水線条約(66’ICLL)は、この船首乾舷高さを決定する算式を示している。しかしながら、この算定式は造船工学の耐航性理論に基づいて求められたものではなく、船型要素の影響を十分に取り入れることのできない等問題が残っている。そこで、IMO復原性・満載喫水線・漁船安全小委員会(SLF)においては、この条約の将来の改正のための基本原則に関する審議が行われており、その中で特に船舶の波浪中の耐航性理論に基づく調査研究による現行条約の乾舷および舷孤の再検討が行われている。
この66’ICLL改正作業に資するため、以下の検討を行った。
(a)船首形状を考慮した船首乾舷高さの推定(広島大学)
 昨年度までは線形計算を行うことにより、船首乾舷高さの推定を行ってきたが、この計算法では、フレアー等の水面上線型形状の影響を取り入れることができない。そこで、本年度はこれらの影響を取り入れた船首乾舷高さを推定することを試みた。船体が波浪中で大幅振動揺するときの実用的な計算法として運動量理論を用いた誘導式を示し、船底露出の影響を考慮した船体縦強度の研究があり、これを更に、波浪荷重の研究や高速艇の研究に発展させたものがある。今回、これらの同様な手法を適用するに当り、波浪中で大振幅動揺する船体縦運動をポテンシャル理論より誘導を行った。この方法は、先の運動量理論を基にしたものと異なり、ポテンシャルを用いているので、船体表面の圧力分布を求めることができる等の特色がある。本検討では、まず、二次元模型による強制動揺の結果との比較により本方法の有効性を確認した後、鉱石運搬船に適用して、大波高の規則中ならびに不規則波中における船体運動、相対水位変動に対する振幅影響について検討を行った。
(b)波浪統計による海水打ち込み確率と乾舷表の関連(船舶技術研究所)
 昨年度までに、北太平洋の長期波浪統計に基づき、船体中央部における相対水位変動や波浪による縦曲げモーメントの大きさの発現頻度について考察した。特に頻度が現在の海域区分との関係でどのように変化するかに注目した整理を行った。
 本年度はこの手法により、乾燥表に示された船の長さとの関係が海水打ち込み確率の観点から見るとどのように解釈できるかを考察した。即ち、貨物船、自動車専用船、撤積船及びコンテナ船の4船型について、ストリップ法により、船体中央部の相対水位変動の応答を計算し、その結果とISSCスペクトル及び北太平洋の波浪発現頻度表と組合わせて長期予測を行った。
b.IMO復原性基準の改良(大府大、船舶技術研究所、数理計画、日立造船、日大、阪大)
 損傷時復原性基準の検討としては、現乾貨物船規則が80m未満の船に適用された場合の問題点について検討、IMOにおける損傷時復原性の調和作業に関する下記検討を行った。
(a)損傷時復原性基準の検討
イ.100m未満の乾貨物船の損傷時復原性基準
 80m〜100mまでの貨物船の要求区画指数(R)の計算式を80m未満の貨物船に適用した場合の可否についつて、小型船数隻について計算を行い、適用範囲を検討した。
ロ.損傷時復原性基準の調和
 確率変数(Pi,r)について現行規則と新提案による試計算を実施し、両者の比較を行った。また、ローカルインデックスについてもポーランド提案について試験計算を行い、比較・検討を行った。さらにRo−Roフェリーの損傷時復原性について、6600GT型、9800GT型の2船型の満載状態で損傷時の乾舷が最も少なくなる最悪4ケースの試計算を行った。
(b)追波中の非損傷時復原性基準の検討
イ.斜め追波中の転覆模型実験
 水産工学研究所角水槽において、不規則波中の出会い状態で計測し、模型実験に用いる代表的波特性の調査を実施し、コンテナ船模型及びまき網漁船模型について自由帆走実験を行い、危険現象を回避するための操船ガイダンスの検証と転覆メカニズムの解明を行った。
ロ.追波中の復原性に関する諸現象の解明
 追波航行中の模型船の転覆に至るまでの運動について、同調横揺、励振横揺、復原力損失を中心とした横揺運動方程式、波乗り現象を中心とした前後運動方程式及びプローチングを中心とした前進、横揺れ及び回頭運動方程式に分けて、シミュレーションを行った。また、運動方程式を用いて、プローチング発生条件の推定を行った。
ハ.実船による「ガイダンス」の確認実験
 東京商船大学所属の練習船「汐路丸」により、実海域における出会い群波現象を調査するとともに、これを避けるための「操船ガイダンス」が船上において運航者が実行する上で問題がないかどうかの確認実験を平成7年7月と11月に、房総沖から伊豆大島に至る海域で行った。
ニ.追波中の復原カと船型に関する調査
 線図データのある旅客船33隻、非旅客船79隻の船型データを主要目関係、軽荷状態関係、状態関係、静復原力関係、基準関係及び追波中復原力関係を収録対象とした、追波中の復原性検討用データベースの構築と整備を行った。
c.海上脱出時に生じる乗員への衝撃力に関する調査研究(船舶技術研究所・大阪支所、船舶艤装品研究所)
 乗員・乗客がシューター等の降下装置を使用して脱出する際に働く衝撃力を、年齢、体格等の異なる被験者により計測し、その計測方法と安全性に関する要件及び動的実験用人体模型による試験方法の有効性、及び負傷者等が退船する場合の問題点とその対策について実験計測データを基に検討した。
d.水計消火装置の性能基準に関する試験(船舶艤製品研究所)
 FP39までに作成したSOLAS条約第<2>−2章第12規則のスプリンクラーと同等の居住区用のスプリンクラー装置に関する性能基準案及び試験方法案(MSC64/22/Add.1/ANNEX6)に対してFP40にて新しく提案され改良案(FP40/WP.9/ANNEX4)を考慮して、規定の船室消火試験及び豪華船室消火試験を実施した。また、通常の船室の形態を模擬した消火試験を実施し、IMO性能基準の試験結果と比較して、IMOの性能基準の妥当性を検討した。また、IS06182−1に規定する速動型スプリンクラーに該当するスプリンクラーヘッドを用いて、高速船の船内形態(座席の形態、火災荷重及び配置等)を考慮して座席を配置した火災試験質において、スプリンクラーを自動または主導で作動させる2種類の消火試験を実施した。さらにこの試験を基に、高速船用のスプリンクラーの消火試験基準案を作成した。
e.高遠船等の可燃仕切り及び家具の火災安全基準に関する調査研究(船舶艤装品研究所)
 HSCコード7.4.2.1項及び7.4.3.1項に従って使用することができる可燃性の「火災を制限する材料(fire restricting material)」の仕切り材料、並びに内航船の可燃性の居住区仕切りの火災安全性の向上のための対策として、MSC決議40(64)に規定される火災試験を実施するための詳細規定案を検討した。また、内航船で使用されている可燃性の居住区仕切りの火災安全性の向上のための方策を評価する方法・基準案を検討した。
 次に、これらの試験の詳細規定案並びに評価方法案に従って試験を実施し、その詳細規定及び内航船の可燃仕切りの防火性評価方法の妥当性を検討した。
f.船舶材料の発煙・燃焼毒性試験及び安全基準に関する試験(船舶艤装品研究所)
 船舶材料(内装材料(床、壁、天井)、プラスチックパイプ、電線等)について試験方法の詳細を立案し、これと船舶用材料の発煙性及び燃焼毒性に関する暫定基準(IS05659−2を試験方法として用いる)に準拠して試験を実施して、試験方法の詳細の実施上の問題点を検討して試験方法を策定し、さらに内航船用材料に関する基準値を検討して、当該基準の国内制度への導入と当該試験方法の確立を目指し、下記試験を実施した。
○ 試験における加熱条件
 コーンヒータから試験体へ加えられる熱量及び試験体へ着火するためのパイロットバーナーの使用に関して、3通りの加熱条件で試験を実施した。
○ 試験の繰り返し数
 ひとつの試験体に関するひとつの加熱条件で3回の試験を行った。
○ 試験時間
 試験時間は10分間とするが、10分間で煙濃度の最高値が得られない場合には、20分を上限とし最高値が得られるまで試験を継続した。
○ ガスの測定
 同一加熱条件における3回の試験のうち、第2回目及び第3回目の試験において、煙濃度が最高値を示した時に、ガス吸引チャンバによってスモークチャンバからガスを吸引してプラスチックバッグに導き、このバッグ内のガスの体積濃度(ppmまたは%)をガス検知管及びFTIRによって測定した。
○ 煙の測定
 スモークチャンバ内の煙の測定は、lS05659−2に従って行った。
g.火災荷重の制限及び可燃物の使用に関する検討(船舶蟻製品研究所)
 実際の火災状況に則した火災荷重の算定方法をさらに検討するため、下記試験を行いキャビン程度の部屋に壁や床などの表面材とベッドやいす等の調度品を配置して火災を起こし、その火災の広がりや発熱量の時間変化と総発熱量を算出した。
○壁内装材を施した部屋の隅にIS09705(実大火災室試験)で規定されている火源用のサンドバーナーを設置して100(kw)の火力でLPGを燃焼させて、壁面に着火した。
○家具相当の木材5(kg)を井型に積み上げたもの(クリブと称する)にヘプタン(250ml)を用いて着火した。また、ベッドについては、65mm角で厚さ12.5mmの低密度木線維板4枚にヘプタン50mlを染み込ませたものを用いて着火した。
 試験体によっては、火災室全体にわたって燃焼が広がるいわゆるフラッシュオーバー現象を呈することがある。
 火災試験室の出口の上に設置したフードによって火災試験室から流出するガスを収集し、このフードと接続する排気ダクト内における酸素濃度を測定して、酸素消費法に従って火災室内の燃焼発熱率を求めた。さらに、このガスに含まれる一酸化炭素及び二酸化炭素の濃度も計測した。
h.火災時に発生する煙の制御方法に関する試験(船舶艤装品研究所)
 IMOではSOLAS<2>−2章改正に向けて煙の制御に関する要件について導入することが検討されている。この動向に対して煙の制御の具体的な要件を定めるための試験を実施し、IMOにおける煙の制御の基本構想の構築に資するため、下記試験を実施した。
○ 実大モデルの改良
実大居住区モデルについて、以下の改良を施した。
・防煙ドアの遠隔開閉装置の設置
・スプリンクラーヘッドの増設
・排煙装置の流量測定装置の改良
・電源の改良
○ スプリンクラーによる煙制御の効果の試験
 平成6年度は、水噴霧の煙ガス冷却効果及び煙吸収効果を調べた。平成7年度は、スプリンクラーを自動起動させる試験を実施してスプリンクラーの起動時間を調べ、スプリンクラー装置を含めた効果的な煙制御方法を実験により検討した。
○ エアカーテンの煙制御効果の検討
 エアカーテン装置を1階廊下の排煙口の真下の床に設置し、床面から天井面の排煙口に向けて空気流の幕を作り、煙の流動の抑制と排煙効果の増大への寄与の度合を検討した。
 また、このエアカーテン装置は空気とともに水を噴霧する機構も備えているので、これを使用する試験も行った。
i.防火規則に関するSOLAS条約の総合的見直し(船舶艤装品研究所、九大)
 現在のSOLAS条約第<2>−2章防火規則は度重なる改正が行われ、煩雑になっていること、またその内容が仕様的規定となっていて新しい防火技術の導入が難しいものとなっていることから、防火規則を簡潔かつ応用性の広いものとする総合的改正作業がIMO防火小委員会(EP)にて1998年を目標として開始された。
 このIMOの動向に対応してSOLAS条約第<2>−2章防火規則を総合的に検討して新しい第<2>−2章案の構築の検討を行った。
j.操縦性データベースシステムの構築(船舶技術研究所、日本造船技術センター)
IMO第18回総会で、航行安全・海洋環境保全の立場から採択された操縦性暫定基準については、次の3つの問題点が指摘されている。
1) 10°/10°Z操舵試験の第2オーバーシュート角及び20°/20°Z操舵試験の第1オーバーシュート角の基準値の妥当性。
2) 停止試験の基準値(とくに大型船について)の不明確性。
3) 基準が満載状態で定められているため、乾貨物船のように海上試運転が実際上、困難な船の場合の推定法。
 これらの問題点を検討するため、本調査研究においては、以下に示すとおりわが国で収集された海上試運転データを用いて、操縦性能データベースの構築を行った。さらに、これらのデータについての解析を行うとともに、就航船の操縦性試験データ記録システムの構築も行って、上記問題点の解決に資することとした。
(a)新造船の操縦性試験データのデータベース化
 タンカー(21隻)及びバルクキャリアー(30隻)を含む合計74隻についての操縦性試験データをとり入れ、これらのデータと操縦性暫定基準と対比して、旋回性能、初期旋回性能、変針・進路安定性及び停止性能について検討を行った。
(b)就航時操縦性試験の計測システムの構築
 就航中の船舶で実施される操縦性試験に必要な船の航跡・針路・舵角を計測する装置として、安価で操作が簡単な計測装置を開発した。さらに、本装置を使用して、10°/10°Z操舵試験、20°/20°Z操舵試験及び35°/35°旋回試験を実施するための試験方案とマニュアルを作成し、パナマックス バルク キャリアの満載状態における上記試験による計測例を得ることができた。
k.衝突予防レーダトランスポンダに関する国際共同試験(船舶艤装品研究所)
 実海域での衝突防止レーダトランスポンダ(CPRT)の有効性を検証するために、台湾漁業訓練センター、台湾海上保安庁高雄保安本部及び台湾国立成功大学の協力を得て、台湾漁業訓練センターの訓練船[魚訓2号」及び台湾海上保安庁保安艇PP803により、高雄港外約2海里の海域において性能試験を行い、CPRT信号の視認性、CPRT及びレーダアンテナの位置等について検討し、所期の成果を得た。
[3] 国際基準等の広報
 船舶関係諸基準に関する調査研究の成果について、広く海事関係者に報告するとともに、IMO等で作成された各種基準の実施に際してその円滑な導入が図られるよう、基準の内容についての十分な理解と周知に資するため下記のとおり報告会を開催した。
a.報告会の内容
○漁船の安全性と復原性
○IMOトピックス:エストニア号転覆事故について(東京地区のみ)
○基調講演(東京地区のみ)
○パネル討論:船舶・運航の安全管理(東京地区のみ)
○国連海洋法と今後の日本の漁業について(福岡・札幌地区)
b.開催場所・日時
東京地区(コクヨホール)    平成7年6月 9日(10:00〜17:00)
福岡地区(リーゼントホテル)  平成7年6月21日(13:00〜17:20)
札幌地区(札幌ガーデンパレス) 平成7年6月30日(13:00〜17:20)
c.入場者数
東京地区(300名)、福岡地区(185名)、札幌地区(132名) 計617名
[4] 国際会議出席等
 本年度IMO本部(ロンドン)等で開催された委員会に出席し、わが国の意見の反映を図るとともに、国際規則に関連して情報の収集、国際動向の調査、意見の交換等を行った。それらの審議結果については、運輸省に報告するとともに、本基準研究部会の各分科会及び小委員会に報告した。

(2)内航船の復原性基準に関する調査研究(日本造船技術センター)
 内航船の復原性について、次の事項について検討を行った。
[1] 海象条件(平均波周期)の転覆確率への影響(満載出港時の船の横揺れ固有周期に平均波周期を同調させ、ピアソンモスコビッチの式と文献とにり、NOAAの定点ブイの通年データから求められた関係式を用い、波高を変化させた場合)
[2] 満載出港状態のGM値の変化(7種類)と限定沿海、沿海、近海相当の海象条件による転覆確率の試計算
[3] 水面上の風圧面積と転覆確率の関係
[4] GZ曲線のモデル化(消失角・形状・GZmax・海水流入角の各シリーズ)による転覆確率の試計算
 また、内航船の復原性の実態調査として、非旅客船46隻について、満載出港状態の復原力曲線の有効範囲をIMO A.167基準と同様に50°までとし、波高一定で平均波周期を船の横揺れ周期と同様させた場合の転覆確率計算を行った。さらに、IMO A.167とA.562の復原性基準を内航船に適用した場合の適否及び問題点の検討を行った。

(3)漁船安全条約の導入に関する調査研究(東海大学、三保造船所)
 漁船の安全に関して1993年4月に採択された「1997年トレモリノス漁船安全条約」の議定書においては、同一海域内で操業する漁船に対しては、その地域の主管庁間で統一した規則を設定する事を求めており、長さ24m〜45mまでの漁船について、早急に「アジア地域のガイドライン」を策定すると共に、24m未満の漁船についても、条約と一貫した思想のもとで国内基準を整備する必要がある。
 このため、本調査研究においては、平成5年度から3年計画により、漁船の実態を調査し、同議定書を導入する場合の諸問題について検討を行って、地域性及び操業形態を考慮した基準試案を策定することとした。
本年度に実施した研究内容は以下のとおりである。
[1] アジア地域安全基準第3次案の策定
 昨年度に関係国に配付した「第2次案」に対する各国のコメント、域内各国の現地実情調査、並びに各国主管庁との意見交換等の結果をとり入れて「第3次案」を策定し、各国に配付した。
[2] 漁船関係現行各規則の対比表の作成
地域安全基準第3次案の策定に資するため、漁船関係現行各規則の対比表を作成した。
[3] 第2次現地訪問調査
 「地域性及び操業形態を考慮した基準の策定のために必要な調査」の一環として域内各国を訪問し、現地の実情調査を行うと共に、予め配付した「第3次案」を基に、各国主管庁担当者の意見交換を行った。訪間先は、インドネシア、タイ、香港、中国及び韓国の5ヶ国の関係主管庁である。

(4)鋼船の構造基準の見直しに関する調査研究(船舶技術研究所、NK)
 現行の鋼船の構造基準関係の規則は、鋼船構造規定が昭和15年に、小型鋼船構造基準が昭和40年代前半にそれぞれ骨格ができあがったまま全面的な見直しが遅れており、そのためその後の技術革新の成果が取り入れられておらず、最近の船舶の構造設計法や現在の船舶の構造と整合しなくなっている。これに対処するために、対応する通達の増加、検査官個人の判断への依存の増加などの問題が生じている一方、SOLAS,MAOPOLの規制が益々複雑化、細分化しており、現行の規則の体系では、もはや十分な整合性がとれなくなっており、構造基準の全面的な見直しが必要となっている。
 そこで本調査研究では、現在の鋼船の構造、設計様式について整理するとともに、最新の理論に基づく荷重推定及び構造解析並びにこれらの検証のための実船実験を行い、現在の鋼船構造規程に代わる構造規則案を作成することを目的とする。
第2年度目である本年度は、鋼船に関して以下の調査研究を行った。
[1] 規則(案)の作成に着手
[2] 波浪荷重の推定を行うために、代表的な船舶を選び、ストリップ法計算、短期予測計算、及び長期予測計算の実施
[3] 船舶に加わる荷重と応答を全般的に把握するため、有限要素法による構造解析の実施
[4] ロ及びハの妥当性を検証するため、実船実験の実施
[5] 高速船構造基準(案)についても検討を行って、その内容の主な事項についての解説の作成

(5)内航船の防火体制の検討に関する調査研究(船舶艤装品研究所、東海E)
 船舶に対する防火要件は、国際航海に従事する船舶についてはIMOの条約及び火災試験方法に関する勧告を受け入れることとし、一般に短時間、短距離の運航形態をとる内航船については、防火構造・火災探知装置・消火設備等について改めて総合的にレビューし、統一的な船舶防火体制を確立する必要がある。
 このため本年度は、海難審判採決録に基づく事故例の分析を行い、機関室火災の安全対策を考える際の指針を得るとともに、船員室等の火災における感知器及び自動消火装置の有効性についての評価を行い、かつ幾つかのアルミ構造防火仕切材について火災試験を実施することによって、防火に関する基本的考え方について検討を行った。
 また、内航のアルミ構造高速船をタイプシップに選定し、HSCコードの火災安全要件の適用に関する試設計を実施し、当該試設計を通じて内航高速船の火災安全要件の在り方に関する諸問題について多くの知見を得た。

(6)船舶の確率論的安全評価方法に関する調査研究(船舶技術研究所、日本海事協会)
 現在の安全対策の多くは、船舶のタイプ、建造方法、保守整備方法、運航形態等において過去に多くの運航実績を有する船舳を仮定して、策定されており、安全基準体系の合理性は膨大な運航実績により裏付けされているが、その反面、以下のような問題点がある。
[1] 個別事故への対応を基本としているため、船舶の安全を、総合的立場からの評価が困難
[2] 従来の船舶と用途、型式、運航形態等が著しく異なる新しい船舶に対する安全対策が困難。
[3] 安全対策について、費用対効果に関する合理的な概念の導入が困難。
[4] 各安全対策が設備要件的に規定され、またそれらの安全対策についての同等性を合理的かつ汎用的に検証する手段が確立されていない。
 そこで、将来的には、現行の安全基準体系を補完して技術革新に合理的に対応できる新しい安全体系が必要になると予想される。
 一方、海外でも新しい安全体系に関する調査研究が開始されており、第62回MSCにおいて、英国からFormal Safety Assessmentを確立してIMOに導入すべきであるとの提唱があった。
 本研究の目的は、確率論的安全評価(PSA)の概念を船舶の分野に導入し、「船舶の安全評価システム」を構築してその検証を行うことであり、この評価システムには、「総合的評価機能」の他、「予測」、「バランス」、「コスト・ベネフィット」の評価機能を備えるものとする。
 本研究では、船舶の構造及び設備について、船舶固有の安全水準の評価の手法を構築することを目的とするので、次の2点を研究の対象として調査研究を実施した。
(a)事故の発生形態、損傷の状況等が船舶の構造及び設備に及ぼす影響を確率論的に評価する。
(b)船舶の構造及び設備に大きく依存し、安全水準の評価の上で重要な要員となる「人の避難」等の現象を明らかにする。
なお、操船・操作、船舶・乗員の管理、海象・気象等の外部環境並びに捜索・救助等の外部支援等に関する要員が船舶の安全水準に及ぼす影響については、本研究の対象としない。
本年度は、下記の事項について研究を実施した。
イ.基礎理論の検討
ロ.船舶の事故事例データの入手とデータベースの検討
ハ.潜在的危険性の選定方法の研究
ニ.事故による船舶喪失確率の推定法の研究
ホ.船舶喪失事故シナリオとその発生確率の研究
ヘ.事故時の人命損失頻度分布と避難時についてのシミュレータ解析

(7)内航船の究明設備設置基準に関する調査研究
 IMOにおいては、1998年の発効を見込んで1979年SOLAS条約第<3>章(救命設備)の改正審議が行われている。
 他方、内航船に関する救命設備の基準は、昭和40年代に制定された国内基準に依拠しており、その後の関連技術の進歩発達・船舶運航形態の変遷等を考慮すれば、現行基準は必ずしも最適な基準とはいえない。
 上記の背景を踏まえ、外航船に適用される国際基準の導入に合わせて、この際、内航船の救命設備に関する基準を総合的・体系的に見直す必要がある。
 このため本年度は救命に関連する法制・実務等の実態の把握、問題点の所在の確認を主眼として、以下の項目につき、関連データーの収集及び予備的調査を実施した。
[1] 救命設備等の規制に関する現行諸法令及び運航管理規程等の検証
[2] SOLAS条約第<3>章、L.S.A.コード及びHSCコード等の導入に伴う問題点の摘出
[3] 海難審判白書及びロイド統計を基とした海難事故の分析
[4] 具体的海難事故に際して機能した救命設備の有効性評価
[5] 船舶所有者及び乗組員、捜索救助等の立場にある者からの意見の徴収等

(8)船舶のトン数測度の電算化に関する調査研究(NKK総合設計)
 本調査研究は、船舶設計等の電算化が進歩している状況の中で、トン数測度の電算化を確立するために、各社の電算システムの共通部分を調査し、できる限り汎用性が高く、かつ、各社の既存のシステムを有効に利用できるシステムを構築することを目的として3ヶ年計画で実施する。
 研究の初年度である本年度は、国内造船所及び設計各社の設計の電算システムの内容を調査し、トン数測度の電算化に関して共通する部分を見い出すために、下記アンケート調査を実施し、とりまとめを行った。
アンケート調査対象先  国内造船所及び関連設計会社 計118事業
            内82事業所から回答 (回答率約45%)
アンケート調査項目   [1] トン数測度関連作業実施部署
            [2] トン数測度関連作業時間
            [3] 各事業所電算化状況(現図部門及び設計部門)
            [4] トン数測度で利用可能な設計情報
            [5] トン数測度電算化システムヘの関心度及び要望・意見
■事業の成果

(1)国際規則と船舶設計等との関連に関する調査研究
[1] 国際規則と船舶設計等との関連検討
 IMOにおいて、規則の制定、改廃に係る検討・審議が行われている船舶関係の国際条約・規則等に関する各種の事項について検討を行い、提案資料を作成するとともに制定・改廃が行われた規則等の国内法制化に資する資料を作成した。
[2] 国際規則と船舶設計等との関連検討のための調査及び試験
a.1966年国際満載喫水線条約の基本的見直し
 IMOにおける現行条約(66’ICLL)改正作業の中の乾舷及び舷弧の再検討に関連し、船首形状を考慮した船首乾舷高さ推定について、大波高の規則波中ならびに不規則波中における船体運動、相対水位変動に対する振幅影響を検討した結果、今後の課題は残るものの、改正作業に対する技術的な裏付けができた。また、乾舷表に示された船の長さと海水打ち込みとの関係を試計算より明らかにした。
b.IMO復原性基準の改良
(a)損傷時復原性基準の検討
イ.100m未満の乾貨物船の損傷時復原性
 80m〜100mまでの貨物船の要求区画指数(R)の計算式を80m未満の貨物船に適用した場合、R80の値をそのまま小型船に使用しても差し支えないこと、及び下限は60m〜80mまでの適用範囲とすべきことが分かった。
ロ.損傷時復原性基準の調和
 現行規則と新提案の確率変数(Pi,r)について比較検討した結果、新提案ではPiの総合計値が1以上となるという欠点があり、日本側指摘の問題点が未解決であることが分かった。
(b)追波中の非損傷時復原性基準の検討
イ.斜め追波中の転覆実験
 斜め追波中の自由航走模型実験結果により、下記成果が得られた。
○同調横揺による転覆はコンテナ船模型船、まき網漁船模型船ともにフルード数が0.3以上の速度領域で起こった。
○励振横揺による転覆はコンテナ船模型がフルード数0.25以下の速度で自走しているときに起こり、まき網漁船模型ではフルード数0.2〜0.5までの全速度領域で起こらなかった。
○復原力喪失による転覆、波乗り現象及び操縦不能は両模型船ともにフルード数が0.4近傍で起こった。
○斜め追波中で模型船が転覆に至る船体運動の様相は極めて多様であるが、コンテナ船は励振横揺を起こして転覆する例が多く、まき網漁船は励振横揺は起こさなかったが、横揺、縦揺及び船首揺の達成に伴う蛇行運動をしながら横揺角が発達して転覆に至る例が多く観察された。
ロ.追波中の復原性に関する諸現象の解明
 上記(イ)の転覆実験において、模型船が転覆に至るまでの運動の時刻歴を計測したが、この計測結果を分析するために運動方程式によるシミュレーション計算を行い、次の成果を得た。
○規則波中の同調横揺れによる転覆の時刻歴のシミュレーションは実験結果と略々良い一致を示している。
○不規則波中では同調横揺れは発生せず、励振横揺による転覆が起こり、実験結果と符号していることが分かった。
○波乗現象を起こす限界船速は菅の簡易推定法によって略々推定できる。
○ブローチングの発生条件は波乗りを起こす条件と回頭運動との達成となり、両者の運動力学的性質及び運動の安定性について今後さらにこの点をつめる必要がある。
ハ.実船による「ガイダンス」の確認実験
 汐路丸実験結果を「操船ガイダンス」としてまとめ、IMO MSC委員会に提出し、MSCサーキュラーとして供覧された。
ニ.追波中の復原力と船型に関する調査
 追波中の復原性検討用データベースの構築と整備を行い、データベースの基本機能の確認を行った結果、概ね良好な結果を得た。
c.海上脱出時に生じる乗員への衝撃力に関する調査研究
 吊り下げ式シューター及び滑り古式シューターについて、乾燥・湿潤等の各種の条件下における降下時の加速度に関するデータが得られるとともに、被験者による降下試験の結果、いずれの場合も、健常者については怪我なく耐えられる衝撃内であることが確認された。また、片手又は片足の模擬負傷者の場合も健常者の受ける衝撃力との間に明確な差異のないことが確認された。ただし、非健常者等の場合には以下の点に留意すべきことも明らかとなった。
(a)両手の自由が拘束されたような状態では、バランスを崩す可能性があること。
(b)他者の介助によることなく、視聴覚傷害者等が直接認知し得るような警報システムの必要性。
(c)身体障害者、負傷者等が担架等によって、任意の場所から集合場所まで避難移動する場合の十分なスペースの通路の確保。
d.水系消火装置の性能基準に関する試験
 豪華キャビンに対するスプリンクラーの試験方法の詳細検討及び機関室消火装置の局所消火装置に対する火災試験を行い、IMOの性能基準の試験結果と比較検討を行うためのデータを得た。また、高速船のスプリンクラー消火試験基準案を作成した。これらの成果はIMO/EPに提出する予定である。
e.高速船等の可燃仕切り及び家具の火災安全基準に関する試験
 IMOにおいて、HSCコードに「火災を制限する材料」に対する試験方法及びその判定基準が規定されているが、これに合った国内基準を策定するために、この試験方法に従い、高速船等に用いられる可燃性仕切り材料の試験を行った。さらに「火災を制限する材料」と判定するための基準についても詳細検討を行い、これをIMOで規定されている試験方法の詳細規定と比較検討した結果、当試験方法は基材も含めた可燃仕切りの防火性能を有効に評価できることがわかった。これらは将来、国内基準及び防火対策を評価する方法を策定するに当たり、大きく貢献するものと思われる。
f.船舶材料の発煙性・燃焼毒性試験及び安全基準に関する試験
 IMOにて作成された発煙性及び燃焼毒性試験方法に関する暫定基準には燃焼毒性試験方法が、また安全基準については詳細な試験方法は定められていない。そのため詳細な試験方法を構築する必要が求められている。そこで船舶材料についての試験方法の詳細を立案するとともに、暫定基準に従い試験を実施し、試験方法の問題点を抽出することによって、試験方法の策定及び国内規則への導入のための貴重な資料を得た。
g.火災荷重の制限及び可燃物の使用に関する検討
 IMOにおいて、火災荷重の算定方法について提案するよう各国に要請がなされている。これをうけて、火災荷重の算定方法の実用性を考察・検討した。また材料試験(IS05660−1:コーンカロリメータ)のデータと比較検討するため、実大火災試験による発熱量の計測を行い、火災荷重の算定方法の妥当性を検証するためのデータを得た。
h.火災時に発生する煙の制御方法に関する試験
 煙制御方法は、将来SOLAS<2>−2章の改正時に盛り込むことが計画されている。そこでその具体的要件を定めるため、スプリンクラー装置を含めた煙制御方法についての実験及びエアカーテン装置の実験を行い、その基本構想を構築した。その結果、スリンクラーと温度及び煙の流動の関係を明らかにすることができた。これらは次回FPに提出される予定であり、規制の制定に大きく寄与するものと思われる。
i.防火規則に関するSOLAS条約の総合的見直し
 本研究においては、SOLAS新<2>−2章の規定のうち、防火設備に関する仕様的な規定は条約本体から切り離して、火災安全措置に関するコードを創設してそこへ移行し、火災安全コード及び新<2>−2章の具体的な内容を検討した。
 IMO・FPでは、SOLASの防火規則の総合的見直しのもとに、SOLAS新<2>−2章の具体的な内容を提案する段階となっているので、当研究成果は、IMO・FPでの検討に大いに貢献できるものと思われる。
j.操縦性データベースシステムの構築
 IMO第18回総会で採択された「操縦性暫定基準」に対して指摘されている問題点を検討して、その対策に資するため、わが国で収集された海上試運転データを用いて操縦性能データベースを構築し、その解析を行って、以下の成果が得られた。さらに、就航時に実施する操縦性試験から得られる試験データについても計測システムの構築を行って、その実測例が得られた。
(a)10°Z試験における第1オーバーシュート角と第2オーバーシュート角との相関には、限度がみられる。
(b)10°Z試験における第1オーバーシュート角と20°Z試験における第1オーバーシュート角との相関がうすく、20°Z試験は、針路安定性能の指標として適切でない。
(c)停止性能の基準については、IMOの基準としては明確な方が良いと考えられ、試験船速及び基準値について、海上試運転の従来実績を更に検討する必要がある。
(d)載荷状態の簡易修正については、喫水、トリムの修正による載荷状態の簡易修正係数を求める方向で検討を行うため、今後、更にデータの蓄積が必要である。
以上の成果にもとづき、来年度予定されている就航船のデータ収集は、暫定基準の適用を受ける船舶の満載状態でのデータを充実させる上で、極めて重要であることが明確になった。
k.衝突予防レーダトランスポンダに関する国際共同試験
 衝突予防レーダトランスポンダ(CPRT)の実海域における性能確認実験を行った結果、CPRT信号の視認性、CPRT及びレーダアンテナの設置位置等について貴重な資料が得られた。これらの成果は、第42回NAV小委員会に報告する予定である。
[3] 国際基準等の広報
 平成五年四月「漁船の安全に関する外交会議」において、トレモリノス漁船安全条約が採択され、長さ24m〜45m未満の漁船についての技術基準は各国政府に委ねられており、本条約の議定書を導入する場合の諸問題への対応を初めとして、全体的に整合性のとれた基準案の作成が急務とされている。本事業においては、関連する技術要件に関する基準試案の作成に資するための調査研究を実施してきたが、基準試案の成立には、本事業における調査研究の成果によるところが大きい。
 また、漁船にとっても最も操船困難である追波中の復原性等に関する問題についても、本調査研究の成果が数多く得られている。
 さらに、最近IMOにおいて検討が進められている「エストニア号転覆事故に対する対策」並びに「船舶・運航の安全管理」の課題についての調査研究も開始されている。
 そこで平成7年度は、わが国の海事関係者に対する新規国際基準に関する広報活動として、東京・福岡・札幌の3ヶ所において報告会を開催し、計617名の入場者に対して、新たに設けられた国際基準の内容及び技術要件等についての解説並びに上記IMOトピックスについてのパネル討論等を行い、基準の公知を図ることができた。
(2)内航船の復原性基準に関する調査研究
 船種・船の大きさ・航行区域等を包含し、基準の連続性・一貫性と整合性にも着目した基準資料を得るべく、理論に基づく転覆確率計算を取り入れ、基準レベルを相対的に評価する調査研究を行い、下記の成果を得た。
[1] 基準が要求する復原性レベルを的確に把握するツールとして、理論を用いた横揺れ転覆確率の計算プログラムを整備した。このプログラムの入力条件と計算結果の関係を種々調査し、その特性を把握して評価の見通しを得た。
a.計算プログラムで取り扱われる理論と選択する入力条件の関係から、海象条件としての平均波周期、GZ曲線形状やGM値、船の固有横揺れ周期と波周期等が計算結果に及ぼす影響が明らかになった。
b.一連の計算で得られる転覆確率は、ある種の入力条件には敏感に反応するが、計算結果に影響するファクターに留意することにより、復原性レベルを相対的に評価できることがわかった。
[2] 転覆確率計算プログラムを使用し、これまでに収集した内航船のデータを用いた試計算を実施した。転覆確率の計算結果より、船の大きさ・航行区域・船種の相違等に見られる特徴が明らかになった。
[3] 転覆確率や許容GM値を用い、現行規則、IMO A.167及びMA.562基準の要求する復原性レベルの、相対的な評価を航行区域の相違も含めて行った。
[4] 双峰型GZ曲線を持つ船舶の同調時横揺れ角のシミュレーション計算を実施し、通常型GZ曲線を持つ船舶に比べ、横揺れ振幅が不規則になることが分かった。
  こうした一連の調査研究により、内航船に適した復原性規則の策定に向け、具体的かつ有効な数多くの復原性基準資料が得られた。また、復原性の国際規則や現行規則との関係、船の大きさ・航行区域・船種の相違等の問題も包含し、より整合性のある的確な安全指標を与える復原性規則の策定に、確率論的なアプローチが一つの有効な手法となり得ることが確認された。
  こうした観点に立てば、今後、実海面に近い条件下での船の安全を考える理論的な研究を更に進め、その研究成果を取り入れ、より合理的な復原性規則の調査研究が必要となる。
(3)漁船安全条約の導入に関する調査研究
 1993年4月に採択された「1997年トレモリノス漁船安全条約」の議定書の発効をひかえて、長さ24m〜45mの漁船に対する「地域ガイドライン」の策定、並びに長さ24m未満の漁船について条約と一貫した思想による国内基準の整備が緊急の課題となった。
 このため、平成5年度から3年計画により本調査研究を実施し、当該漁船の実態把握、同議定書を導入する場合の諸問題点の検討並びにアジア地域関係各国の実情調査を通して、地域性及び操業形態に即した基準試案の策定に資した。
 本年度においては、まず、地域安全基準を策定するために必要な漁船関係現行各規則についての対比表を作成した。漁船の「機関・電気」、「防火・消防」、「救命設備」及び「無線設備」に関する各規則の整合性と妥当性を検討し、上記「地域ガイドライン」の試案となる「アジア地域安全基準」第3次案をとりまとめて、関係各国に配付した。
 さらに、昨年度にひきつづき「アジア地域安全基準」に関する第2次現地訪問調査として、インドネシア、タイ、香港、中国及び韓国の合計5ヶ国の関係主管庁を訪問し、現地の漁船の建造に係わる実情調査を行うとともに、予め配付した上記基準の第3次案をもとに各国主管庁担当者との意見の交換を行って、「アジア地域のガイドライン」の原案を固めた。
 本調査研究の成果により、アジア地域の主管庁間で統一した規則の設定が実現して、「1997年トレモリノス漁船安全条約」議定書の発効に役立つことが期待される。
(4)鋼船の構造基準の見直しに関する調査研究
 鋼船の構造規則(案)の作成を行い、構造部材寸法の算定に基礎となる以下の項目についての成果が得られた。
[1] 波浪荷重推定計算
 部材寸法算式を作成するうえで必要な部材に作用する荷重を求めるため、船舶の縦曲げ及び水圧に関する波浪荷重推定計算をストリップ法により行い、船の長さベース等により表現できるよう式の単純化も試みた。
[2] 実船実験
 規則(案)作成においては、波浪荷重の推定にストリップ法による応答関数計算、線形重ね合わせの理論を応用したエネルギースペクトル法による短期予測計算及び波浪の長期資料を用いた長期予想計算を行い、設計の基礎となる波浪荷重を求めるとともに、有限要素法による全船一体解析を行って、全船において応力が基準値以下になることの確認を行うこととしている。
 そこで、計算結果の妥当性を検証するため、499GT型鋼材運搬船により実船実験を行って船体構造部材の応力を計測し、上記応力計算値との比較を試みた。
[3] 高速船構造基準案の検討
 高速船の大型化や航行区域の拡大に応えるため、RR744の調査研究にひきつづき、本調査研究においても検討を行い、軽構造船暫定基準に代わる高速船構造基準案がまとめられた。本案においては、高速船構造基準の現状を考慮して、適用範囲の拡大と基準の一本化、合理的な荷重設定算式及び簡単で分かりやすい部材算式による基準案を提案することを目指した。
 さらに、同基準案の内容の主な事項について、それらの成り立ち等に関する解説をとりまとめた。
(5)内航船の防火体制の検討に関する調査研究
 前期の調査研究により、内航船の火災安全要件に関する問題点の一部がクローズアップされ、次年度以降の調査研究と相俟って、内航船の防火体制の確立に寄与するものである。
(6)船舶の確率論的安全評価方法に関する調査研究
 本年度は、以下のとおり船舶の安全評価システム構築の骨格を成す基礎理論の確立と、同システムの種々の要素の検討を行うとともに、避難シミュレータの整傭を行った。
[1] 基礎理論の構築
 事故発生から避難に至る過程での、人命損失期待値を評価指標とする、船舶の確率論的安全評価手法の基礎理論を構築した。
[2] 船舶の確率論的安全評価システムの全体構成、及び船舶入力モジュールの検討
 同システムを構成するソフトウェアの全体的な構成を検討し、ほぼ確立した。
 また、浸水計算、火災計算、避難シミュレーション等の、主要なプログラム間に共通するデータをセットするための船舶入力モジュールの基礎的検討を行った。
[3] 海難データベースの導入及び重要事故の選定
 事故発生確率を推定するために、海難データベースとしてロイド海難統計データを導入し、統計解析を実施することにより、船舶の確率論的安全評価システムで考慮すべき重要事故の選定を行った。
[4] 詳細海難データの調査
 事故時の船体損傷の推定プログラムの開発及び検証に使用される詳細海難データの調査を行った。
[5] 船体損傷推定プログラムの検討
 船舶事故時の損傷の推定を確率論的に行う手法の検討を行った。また、例題として、座礁事故の損傷程度の確率分布の試計算を行うことにより、船体損傷推定プログラムの基礎的な検討を行った。
[6] 浸水計算プログラムの検討
 浸水の経時変化を解析するための基礎理論の構築を行った。また、簡単な例題を用いての試計算を行うことにより、浸水計算プログラムの基礎的な検討を行った。
[7] 火災事故シナリオの検討
 浸水事故シナリオに比べて変化が多い火災事故シナリオから代表事故シナリオを選定するための手法の検討を実施した。
[8] 火災シミュレーションプログラムの検討
 船舶の確率論的安全評価システムで使用する火災シミュレーションプログラムの原形を作成し、簡易なシミュレーションを実施した。
[9] 避難シュミレーションプログラムの検討
 船舶の確率論的安全評価システムで使用する避難シミュレーションプログラムの形式を確定した。
[10] 避難シミュレータのハードウェアの導入、調整
 避難シミュレーションプログラムの避難者モデルを確立するために使用する避難シミュレータのハードウェアを導入し、それらの調整を行った。
(7)内航船の救命設備設置に関する調査研究
 前期の調査研究により、救命設備に関して検討を要すべき問題点が抽出され、また、今後の研究のための基礎データが整い、その方向性が示唆された。
(8)船舶のトン数測度の電算化に関する調査研究
 研究初年度として行ったアンケート調査結果を整理・検討した結果、下記の成果が得られた。
○現図または設計線図の船体線図関連システムを所有する事業所の割合は約72%と高率である。
○約66%の事業所が排水量計算システムを、また、約35%の事業所が容積計算システムを所有している。
○形状がまちまちな上部構造物を定義できるCADシステムは、約40%の事業所が所有している。ただし、実際に利用しているのはまだ約15%である。
これらの結果から、トン数測度の基となる船体寸法は殆どの造船所でコンピュータ上で読みとることができ、また、排水量や純トン数の計算をコンピューティング化していることも多いことから、総トン数測度の電算化の素地はかなり整っていると言える。
こうした状況を踏まえると、現状の各造船所における電算システムと共通に運用でき、互換性のある測度システムを確立することが期待できる。





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