超電導電磁推進船の実用化のためには、高磁界・大口径超電導磁石の開発が必要不可欠である。そこで、ダイポール型超電導磁石としては、世界の水準をはるかに越える中心磁界15T、常温ボア径300mm、コイル長さ(有効磁界長)5mを目標として超電導磁石の概念設計を実施し、開発課題の摘出を行うことにより以下の成果を確認した。 a. 線材としては化合物系Nb3 Snを使用することになるが、電磁力に基づく圧縮力によって性能が劣化する。このため、補強導体を使用するか、圧縮力を提言するなどの対策が必要である。また、現在開発が進められているNb3 Snの圧縮歪に対する性能劣化の度合いは少ないが、Nb3 Snの圧縮歪に対する性能劣化対策およびNb3 Alの性能向上を図る必要がある。 b. Nb3 Snは堅くて脆いため、コイルに巻いた後に高温で熱処理を行う、いわゆるW&R(Wind and React)法が用いられる。しかしながら、W&R法によって大型のダイポールコイルを製作した経験がないため、その製造技術を確立する必要がある。 c. また、この高温に耐えられることができ、しかも大きな電磁力に耐えられる耐熱&高強度絶縁材の開発が必要である。 d. 永久電流スイッチに熱式を用いる場合、無誘導巻きにするためクエンチ時に線間に高い電圧がかかる。したがって、PCSは通電容量が大きく、耐電圧が高く、しかもクエンチ時には瞬時にオフさせる必要があるなど、コイル以上に難しい問題を抱えている。現在、Nb3 SNを用いたPCSの開発が進められているが、Nb3 Snは臨界温度が高く、熱などの外乱に対してクエンチしにくく、大電流でも安定して通電できるが、スイッチをオフする時には20K程度まで上昇させる必要があり、従来と異なる断熱方式が必要となるなど課題も多い。今後、磁器式なども含めて更なる検討を行う必要がある。 e. 熱侵入量を抑えるためには高温超電導体電流リードの採用が必要である。電流リードは高温超電導材の適用が最も進んでいる分野であるが、電流値が低いため、通電容量が大きく信頼性の高い電流リードを開発する必要がある。 このように、現状のレベルではかなり難しい課題が多いが、着実な研究開発によっていずれも解決された。15Tの超電導磁石も達成できるものと思料される。