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■事業の内容

(1) 舶用燃料電池開発手法の検討
a. 開発基本方針の策定
(a) 燃料電池の基礎調査
 現在、開発が進められている燃料電池の発電原理、特徴等を文献調査等によりまとめた。
(b) 舶用電源としての適正調査
・ 舶用電源としての要求条件を明確にし、各種燃料電池の舶用への適合性について調査検討を行った。
・ 各種燃料電池の適合性の検討結果、開発レベルおよび開発課題と将来性を考慮して舶用に適する燃料電池を選定した。
(c) 舶用燃料電池発電システムの検討
 前項で選定した舶用燃料電池の基本仕様を明確にして、その仕様を基に [1]プロセスフロー、ヒートバランス等のシステム比較 [2]負荷応答性、起動停止特性、制御・保守性等の運転性の比較 [3]排気、排水、騒音等の環境性の比較 [4]安全性 [5]熱利用 [6]経済性について検討を行い、最適舶用燃料電池発電システムを選定した。
b. 海外における開発状況調査
 国家プロジェクトとして進められている各種燃料電池の研究開発状況を文献調査等によりまとめた。また、燃料電池の種類別にわが国および海外における燃料電池の開発状況を海外調査および文献調査等によりまとめた。
(a) 米国
 米国における燃料電池の開発状況、利用状況などを調査した。
調査先:
・ 国際水素エネルギー会議へ出席
・ エナジーパートナー社
・ マイアミ大学
・ 米国エネルギー省
・ カリフォルニア大気保全局
(b) 欧州
 欧州(ドイツ、イタリア、ベルギー)における燃料電の開発状況、利用状況について調査を行った。
調査先:
・ シーメンス社(ドイツ・エアランゲン)
・ カールスルーエ・ニュークリア・リサーチ社
(ドイツ・カールスルーエ)
・ エネア(ENEA)研究所(イタリア・ジェノア)
・ デ・ノラ・ペリメレック社(イタリア・ミラノ)
・ エレンコ社(ベルギー・アントワープ)
c. 舶用燃料電池開発手法の検討
(a) 舶用燃料電池発電システムの構成機器の概念設計
・ 燃料電池本体については、電池スタックの構成、概略構造、反応ガスの供給方法等について概念検討を行った。
・ 燃料供給系、空気供給系、冷却系、排熱処理系、制御系については、主要構成機、器の概略構造、寸法・重量等を検討し、概念設計を行った。
・ 振動、傾斜、動揺対策を検討し、全体システムの構成の概念設計を行った。
(b) 電気系の概念設計
・ 舶用電気系統として具備すべき条件、従来の電源装置との基本的相違点を明確にするとともに各種系統母線方式の最適性を検討し、電気系統制御システムの概念設計を行った。
・ 一般用電力変換装置の特徴、方式等について調査し、燃料電池用としての最適な電力変換装置の基本仕様をまとめるとともにその概略設計を行った。
・ 電気推進装置の基本的要求条件を明確にし、基本仕様を決めた。
(c) 全体のレイアウト
 本研究で検討した主要機器(燃料電池発電装置、推進用電動機、推進用制御盤、直流主回路盤等)の主要寸法、重量をまとめると共に、これら主要機器のレイアウトを行った。
(d) 今後の課題
 燃料電池を実用船舶の推進用電源として適用する場合の、[1]燃料電池発電システム系の課題 [2]電気系統の課題、および [3]燃料電池発電システムの重量、体積についての課題を述べた。
■事業の成果

(1) 本事業の成果
 本年度に得られた主な成果は次のとおり。
a. 燃料電池が船の推進用動力源として使われるためには、現在の主流であるディーゼル機関の諸性能と同等かそれを上回ることが必要である。そこで推進用動力源としての燃料電池の可能性を見極めるために、各種燃料電池の特徴や開発状況、舶用動力源としての必要条件などについて調査検討を行い、舶用に適する燃料電池の形式を選定した。
b. 燃料電池推進船として比較的実現性の高い1000kW以下の小型内航船を想定て燃料電池本体や燃料供給系・空気供給系・冷却系などを含む発電システムなどについて概念設計を行い、舶用燃料電池推進システムの基本仕様を作成し、性能向上のための課題をまとめた。
c. 現地開発が進められている燃料電池の開発レベル、起動・停止性能、負荷変動特性、重量寸法、保守性、開発課題などについて比較検討した結果、舶用に適した燃料電池の形式として個体高分子型燃料電池(PEFC)を選定した。PEFCまだ実績は少ないが、電池反応部分の構造がシンプルで電解質の管理が不要であること、反応温度が低く材料の選択の幅が広いこと、出力密度が高くコンパクトになること、コストダウンの可能性が大きく将来性が高い。
d. 燃料電池で推進用電動機を駆動する場合は、急激な負荷の増加に対応させるために、負荷変動の予測および改質器の負荷変動対策、蓄電池の搭載などが必要である。また、舶用発電機は複数台設備する必要があり、負荷に応じて単独および並列運転が可能でなければならない。
e. PEFC型燃料電池発電システムの重量・容積は、水素/酸素供給システムを1とすると、メタノール/空気システムでは重量で約2.2倍、容積で約5倍の増加になり、燃料供給系の軽量化およびコンパクト化を図る必要がなる。
f. 概念設計の結果、燃料電池のシステム効率は、メタノール/空気(常圧)供給システムで約37.5%、水素/酸素(4.5ata)供給システムで約54%であった。
g. 燃料電池は排気ガスがクリーンで環境に優しく、振動・騒音が少なく、メンテナンスが容易で、低負荷における効率低下が少なく、船内配置上の自由度が高いなどの特長があるが、今回概念設計を行ったPEFC型100kW燃料電池のシステム効率は、約37.5(メタノール/空気)〜54%(H2/O2)で、小型ディーゼル機関(100〜1000kW)の熱効率の35%〜45%をやや上回る程度であり、今後、効率UPを図る必要がある。

(2) これまでに製作されたPEFC型燃料電池は小出力のものが多く、舶用として必要な出力レベルには到達していない。このため、今後の課題としては電池本体の出力を図ると共に、燃料供給系、運転制御系の高効率化やシステムの軽量化・コンパクト化が必要である。
 
 本事業を行ったことにより、地球環境の保護、エネルギーの効率的な利用などの見地から、優れた環境特性と高効率化の可能性をもつ舶用燃料電池の設計資料を得られたものと思われる。





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