
■事業の内容
東京湾等の閉鎖性海域においては、近年、海域の富栄養化による海洋汚染が問題となっており、その原因となる工場排水や生活排水等に対する規制強化が進められている。 これら海洋汚染の要因の一つと考えられている船舶から排出されるふん尿等については、「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」(昭和45年法律第136号)により、最大搭載人員が100人以上の船舶は規制されているが、小型の船舶については、ほとんどが規制の対象外であること及び処理装置を設置する船内スペースがないことなどから、ふん尿等をそのまま海域に排出しているのが現状である。 しかし、海洋レジャー等が盛んになってきたことや環境問題への関心が高まってきたこと等から、小型の船舶が集中利用する東京湾の一部海域において、船舶から排出されるふん尿等が問題になっている。 本調査研究は、このような状況を踏まえ、海洋環境の保全に関する施策をより一層促進するため、最大搭載人員が10人を超え100人未満の小型の船舶に適した処理対策のあり方を検討することを目的として、次のとおり実施した。 (1) アンケート調査・ヒアリング調査・水質調査・文献調査 [1] アンケート調査の実施 a. 「船舶から排出されるし尿等の汚水に関するアンケート」調査 (全国基礎調査) 地方自治体(10) b. 「船舶から排出されるし尿等の汚水に関するアンケート」調査 (地域詳細調査) なお、本調査は、ヒアリング形式のアンケート調査である。 マリナー(2)、遊漁船業者(5)、旅客船業者(10)、作業船業者(3)、海上保安部(1) [2] ヒアリング調査 船用汚水処理装置、諸外国の規制の状況等についてヒアリング調査を実施した。 [3] 水質調査 お台場公園周辺海域における屋形船の利用前後における水質変化を調査した [4] 文献調査 資料の収集、整理 (2) 調査の項目及び内容 [1] 船舶から排出される汚水の実態調査 小型船舶の活動が盛んな海域に隣接する地方自治体を対象に船舶から排出される汚水に対する苦情、自治体の汚水対策等について、アンケート及びヒアリング調査を実施した。 東京湾周辺海域において小型船舶の運航及び利用する業者を対象に、小型船舶の運航状況、汚水の排出及び処理状況、汚水処理の問題点等につて、アンケー卜及びヒアリング調査を実施した。 [2] 排出汚水の性状変化調査 お台場公園周辺海域において、尾形船の利用前後の水質調査を実施した。 [3] 海域に与える影響調査 小型船舶から排出される汚水のお台場公園周辺海域の水質に与える影響を試算した。また、全体の汚濁負担に占める小型船舶の割合を試算し、海域環境に与える影響を検討した。 [4] その他船舶から排出される汚水に関する調査 舶用汚水処理装置、諸外国の規制の状況等について文献及びヒアリング調査を実施した。 (3) 報告書の作成 [1] 部数 :200部 [2] 配布先:委員、関係官庁等
■事業の成果
現在、わが国の法律では、規制の対象外となっている最大搭載人員が100人未満の小型船舶から排出される汚水(特にふん尿等)の対処方針について検討した結果、アンケート等による実態調査によると、わが国においては、大都市に隣接したごく限られた閉鎖的な海域において、しかも船舶運航が時季及び期間的に集中する場合に問題が発生することが判った。一方、国際的には、IMOにおいては海洋汚染防止に関する国際条約の汚水の排出規制を早期発効するための作業が進められていると共に、いくつかの諸外国においてはすでに厳しい国内規制を実施していることが判明した。 汚水の排出が海域環境に与える影響については、科学的な根拠に基づいた水質汚濁と人間の感覚に依存するアメニティの両面から考察した結果、アメニティへの配慮が重要であるとの結論に至った。 対象としては、船舶への汚水処理装置等の設置について小型の船舶という船体構造上、また運営規模による経済的な問題から難しさも指摘されたが、現在の処理技術により不可能ではなく、他の方法として船内で発生した汚水の受入施設の整備が有効であると結論した。 以上を踏まえて、現在、規制の対象となっていない「小型の船舶における汚水処理のあり方」を環境への影響度による海域別に一般原則としてとりまとめたことは、規制の対象となっていない小型の船舶に適用する際の指針となり、海洋環境保全に寄与するものと思料される。
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