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■事業の内容

本事業は、舶用機関の主流である2サイクル低速ディーゼル機関を対象にNOxを大幅に低減する技術を開発するため、下記の項目の実験を実施した。
(1) 硫酸腐食の調査 
 水エマルジョン燃料及び給気加湿が硫酸腐食に及ぼす影響を調査するために、単筒機関による運転試験を実施した。また、硫酸腐食調査運転試験のデータ解析等を行い、水エマルジョン燃料及び給気加湿がシリンダライナの硫酸腐食に及ぼす影響を検討した。その結果、硫黄含有率が3%程度の燃料であれば、水エマルジョン燃料及び給気加湿が硫黄腐食に及ぼす影響はほとんどないことが確認できた。

(2) 多口燃料噴射によるNOx低減
 平成5年度に製作した形状の異なる2種類のピストン冠等の部品を単筒機関にくはこんで運転試験を実施し、燃料噴射ノズル仕様及び燃焼室形状を最終決定した。また、多口燃料噴射運転試験において得られたデータの解析及びまとめを行った。その結果、50%以上の負荷においては、NOxは従来より30%減少し、燃費の増加は約1%という結果が得られた。

(3) SCR排煙脱硝システム
 平成5年度に実施した運転試験の計測結果を解析し、機関動特性のシミュレーションプログラムを改造し、機関特性のシミュレーション及び排気ガス中へのアンモニアの核酸のシミュレーションを実施し、機関動特性を改善する方策を検討した。さらに、その結果を検証するためにSCR式排煙脱硝装置を製作し、単筒機関にらる運転試験を実施した。そしてそれらの結果を基に、機関動特性の低下を許容範囲に抑えた、舶用ディーゼル機関用SCR式排煙脱硝技術の確立をはかった。

(4) NOx低減総合技術
 NOx低減技術の総合効果確認運転試験用に燃料噴射ノズル及び燃料噴射系部品を設計・製作し、NOx低減技術の総合効果を確認するための運転試験を実施し、水エマルジョン燃料、給気加湿及び多口燃料噴射は燃料過程において、個々の特性を充分把握した上で実験的に相互の関連性を調査し、総合してサーマルNOxの70%の削減を目標として達成できる条件を求めた。そして、さらにSCR式排煙脱硝システムを加えてNOx総排出量の96%の削減を目標として達成できるよう条件を調整し、NOx低減総合技術の確立をはかった。

(5) 燃料・水層状噴射によるNOx低減
 平成5年度の単体試験を受けて、運輸省航海訓練所練習船「銀河丸」の主機に燃料・水層状噴射システムを取り付け、本船の内航及び遠洋航海を通して実船におけるNOx低減効果並びに機関及び本システムの信頼性を確認した。
[1] 単体作動確認
 試験機器据付後、機関停止時にコントローラに擬似信号を入力して、機関運転状態を造り出し、本システムの基本作動及び保護装置の作動を確認した。
[2] 船内効力試験
 初回内航時に機能確認試験を実施し、実際の航海において本システムが正常に作動すること、及びあらゆる異常発生に対してせ保護装置が適切に働き、機関の運転に支障をきたさないことを確認した。
[3] 連続運転
 世界一周の遠洋航海を含む約2,400時間の航海中、約2,000時間の水噴射運転を実施し、システムの信頼性を確認するとともに、性能(排ガスNOx値他)を計測した。NOxの目標値は、燃料噴射ポンプ容量、及び使用推量を考慮し「常用負荷での30%低減」とした。また、これとは別に、部分負荷において注水量を増し、本システムのNOx低減目標である70%程度までの低減効果を確認する性能試験を実施した。
[4] 信頼性確認
 信頼性検証のため、試験の前後に機関及び注水器主要部品、注水装置及び排ガスエコノマイザー電熱面の状態を比較調査し、他を開放して比較調査し水噴射の影響を把握した。
[5] 機関復旧、試験機器撤去
 連続運転終了後、機関を復旧し、試験機器を撤去した。また、本工事にて機関及び注水器を開放し、試験後の状況を調査した。
■事業の成果

本事業では、舶用機関の主流である2サイクル低速ディーゼル機関を対象に水エマルジョン燃料、給気加湿、多口燃料噴射及び燃料・水層状噴射によるNOx低減技術並びに選択接触還元(SRC)式排煙脱硝技術との有機的な組み合わせによって、大幅にNOxを低減する総合技術の開発を平成4年度から3年計画で実施したものである。
 水エマルジョン、給気加湿、及び多口燃料噴射については、2サイクル低速単筒機関による運転試験の結果、最適な組み合わせにより燃焼過程におけるサーマルNOxを70%削減することができ、更にSCR排煙脱硝を加えることによってNOx総排出量を96%まで削減できることが確認され、初期の目的を達成した。
 一方、燃料・水層状噴射については、陸上での単体試験及び運輸省航海訓練所練習船「銀河丸」の主機に取付けた実船試験の結果、所期の目的である70%のNOx低減を達成できた。
 これにより、大気環境の保全に寄与するとともに、造船技術の振興及び我が国造船業の発展に大いに貢献するものと思料される。





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