海上における遭難船舶及び人命の救助システムは、長年にわたるモールス信号を主体としたシステムより、極軌道衛星利用等自動化されたシステムに移行することとなり、1992年に発効する全世界的な海上遭難安全システム(GMDSS)の導入がIMOで採択された。 このシステムはIM0の早期採用の勧告を受け、各国で既に採用され、わが国でも関連機器の性能基準の制定が行われた。このような情勢に鑑み、GMDSSの主要機器となる極軌道衛星系EPIRBの整備要領標準を作成すると共に、極超短波を用いるGMDSS関連機器の整備施設標準を作成した。 (1) 極軌道衛星系EPIRBの整備要領に関する調査研究 [1] 目的 極軌道衛星系EPIRBについて点検整備技術確認のための試験を行い、その整備要領標準作成に資する。 [2] 試験内容 a. 供試品の収集 タイプの異なる4型式の極軌道衛星系EPIRBの新品を、それぞれ各1個収集した。 b. 試験方法 性能試験を環境劣化試験前及び試験後に実施し、環境の変化による性能の変化を調べた。 [3] 環境劣化促進試験 a. サンシャインウェザー試験 供試品に対し、カーボンアーク・サンシャインウェザー試験機で200時間の暴露試験を行った。 b. 塩水噴霧試験 供試品に対し、質量濃度5±1%の塩水(35℃)を8時間連続噴霧した後16時間常温の環境に放置する。以上のサイクルを3回(72時間)繰り返した。 c. 温度繰り返し試験 供試品を入れた恒温槽内の温度を常温から65±2℃に変化させ、この状態で8時間保持した後、湿度成行きのまま温度を一30±2℃に変化させ、この状態で8時間保持し、その後温度を常温に戻す。以上のサイクルを10回繰り返した。 d. 振動試験 供試品に対し、上下、前後の各方法において、振動数5〜12.5Hzでは全振幅3.2mm、振動数12.5〜50Hzでは加速度10(m/S2)となるように振動数を低高低の順に15分で掃引加振した。 e. 衝撃試験 供試品に対し、最大加速度10Gの半正絃波加速度衝撃を加えた。 f. 温度衝撃試験 45℃の恒温槽内に1時間以上保持した供試体を0℃の海中に1時間保持した。また、-30℃の恒温槽内に1時間以上保持した供試体を0℃の水中に1時間保持した。 g. 水面落下試験 20メートルの高さから供試品を落下させた。 h. 耐水圧試験 水頭10mの水圧の水中に供試品を5分間保持した。 [4] 性能試験 以下のa.以外は「CEIS社製EPIRB TESTER BTS88」を用いて常温にて行った。 a. 外観及び構造検査 供試品の変形、亀裂、歪み等の有無を観察した。 b. 発信周波数測定 供試品の発信搬担波の周波数を15回のバーストにわたって計測した。 c. 発信間隔及び時間測定 供試品の発信信号の発信持続時間及び発信間隔を15回のバストにわたって測定した。 d. コード信号確認試験 供試品の発信信号に含まれているコード信号の内容を確認した。 [5] 連続作動試験 供試品を-20℃において48時間作動させ、その間一定時間毎に「CEIS社製EPIRB TESTER BTS88」を用いて、発信搬送波の周波数、発信持続時間、発信間隔を測定し、発信信号に含まれているコード信号の内容を確認した。 [6] 発信確認試験 供試品から発信させ、その信号を極軌道衛星を経由して地上受信局にて受信し、発信信号に含まれているコード信号を確認した。(フランス航空宇宙局CNES) [7] ランダム加振試験 供試品に対し、上下、左右、前後の各方向において、成分振動数5〜50Hz、パワースペクトル密度O.O05(G2/Hz)のランダム加振試験を10分間行った。 [8] 試験結果の検討 極軌道衛星系EPIRBを強制的に劣化して、その前後の性能の変化を測定する試験を行った。1社のEPIRBの耐水圧試験においてごく僅かの水滴の侵入が認められた以外、性能の各項目にほとんど変化は見られず、全てが規格内に入る良好な結果が得られた。 [9] 整備要領標準の作成 以上の試験の検討結果から整備要領標準を作成した。整備要領標準は次の事項について点検整備することが適当と思われる。 a. 一般的注意事項 b. 本船から績み下し時の船上点検 c. 作業場内での外観点検 d. シールドルーム内での性能点検 e. 自動離脱装置の作動試験 f. 点検及び性能試験後の整備
(2) GDMSS関連機器の整備施設標準に関する調査研究 [1] 目的 GMDSS関連無線救命機器の整備・測定設備に関し電波遮蔽特性等を測定確認し、それら設備が持つべき性能標準・整備施設標準の作成に資する。 [2] 試験内容 試験項目及び試験方法 a. 整備測定用設備・機器の施設標準作成 (a) 供試設備 船舶艤装品研究所所有の電波測定用シールドルーム及び電波測定箱とした。 (b) 試験内容 供試品についてGMDSS無線救命機器の使用周波数範囲における電波遮蔽率測定試験を実施して施設要件を確認し、施設標準案を作成した。 b. 施設標準の評価試験 サービスステーション保有のシールドルーム 横浜、横須賀、清水、大阪の4ケ所のシールドルームとした。 c. 試験内容 前記施設標準に基づきサービスステーション保有のシールドルームについてGMDSS無線救命機器の使用周波数範囲における電波遮蔽率測定試験を実施してシールド性能を確認した。 [3] 試験結果の検討 レーダートランスポンダー及び極軌道衛星系EPIREについて船舶艤装品研究所及び各地のシールドルームにおける電波遮蔽率を測定した結果、次のことが解った。 a. 現有のシールドルームは2MHz用であるので、今回対象とする上記機器の9GHz、406MHzという周波数の違いから、シールド効果が充分でなかった。 b. レーダートランスポンダー レーダートランスポンダーについては、出力も小さいことから電波暗箱内にレーダートランスポンダーを入れて、シールドルームの扉を確実に閉め、扉のスキマがないように注意すれば、現状のシールドルームを使用すること。 c. 各地のシールドルームは、建造後の年数も相当経過しており、扉などの接触部分が経年劣化等でEPIRBとしては充分でなく、また、換気や冷暖房用のためのパイプ孔などの開口部があげられているので、これらの部分から微弱電波が漏れている。 このため、二重シールドボックスを使用してシールド効果をあげ、次の補修等を行って現用のシールドルームを使用することとした。 (a) 扉の接触部の改良 (b) 各開孔部の閉鎖及び状態の確認 (c) 電源フィルタの性能点検 [4] 整備施設標準の作成 以上の試験結果から、整備要領は次のとおりとすることが適当と思われる。 GMDSSの施設は次の設備と備品を備えつけ、整備のための資格ある者を専任しなければならない。 a. 整備 減衰遮蔽効果が規定値を満足するシールドルームを保有すること。 b. 備品 次の備品を備えること (a) SARTテスタ (b) EPIRBテスタ (c) 9.4GHz SART用電波暗箱 (d) 406MHz EPIRB用シールドボックス (e) 直流電圧計 (f) オシロスコープ (g) ターンテーブル (h) 色見本 (i) 工具一式
■事業の成果