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■事業の内容

(レーダートランスポンダーの整備要領に関する調査研究)
 1974年SOLAS条約の第3次改正により、レーダートランスポンダー(SART)等の救命設備が規定化された。
 本調査研究はSARTの整備技術確認のための諸試験を船舶艤装品研究所に委託して行い、試験方法とその性能を把握するとともに、各種文献を調査してSARTの整備要領標準を作成したものである。
(1) 試験内容
[1] 供試品の収集
 タイプの異なる2型式のSARTの新品を、それぞれ各1個収集した。
[2] 試験方法
 性能試験を環境劣化試験前及び試験後に実施し、環境の変化による性能の変化を調べた。
a. 環境劣化試験
 供試品は次の環境条件で試験を行った。
(a) 温度繰り返し試験
 槽内の温度を常温から65℃±2℃に変化させ、この状態で8時間保持した後、湿度はなり行きのまま、温度を-30℃±2℃に変化させ、その状態で8時間保持した。その後、常温に戻し、1サイクルを24時間として、10回繰り返した。
(b) 湿度試験
 温度40℃、相対湿度93%の環境に10時間保持した。
(c) 塩水噴霧試験
 質量濃度5%±1%の塩水(温度35℃)を8時間連続噴霧した後、16時間常温の環境に放置した。
 以上のサイクルを3回(72時間)繰り返した。
(d) 振動試験
 振動数5Hz〜12.5Hz(全振幅3.2mm)、振動数12.5Hz〜25Hz(全振幅0.8mm)、振動数25Hz〜50Hz(全振幅0.2mm)の振動を上下及び水平方向に各15分加えた。
(e) ウエザリング試験
 本船用SARTをサンシャインカーボンアーク灯で200時間の照射を行った。
b. 性能試験
(a) 外観構造
 環境劣化試験前にSARTの外観構造を図面と照合して確認した。また、供試品の寸法及び質量を測定した。
 環境劣化試験後には、本体に貼付されているラベル、電源スイッチに当るスイッチブロックの取付部に異常がないかどうか、またスイッチブロックにより電源が切断できるかどうか確認をした。
(b) 表示等の確認
 SARTの待ち受け時、あるいは、電波の発射時に表示機能が正常に作動するか確認した。
(c) 送信装置の周波数等の測定
 SARTに試験信号を照射し、これによって応答したSARTの送信電波を受信用アンテナとスペクトラムアナライザとの組合せで観測し、掃引周波数範囲の上限値及び下限値を測定した。
 また、受信用アンテナと検波器の組合せでSARTの送信電波を受信、検波し、オシロスコープで検波波形を観測して、周波数掃引時間及び一回の発射時間を測定した。
(d) 送信装置の実効ふく射電力
 SARTとアンテナの相対距離を2mとし、標準信号発生器と組合せた送信用アンテナで試験信号を照射し、これによって応答した電波を受信用アンテナとパワーメーターとの組合せで観測し、受信強度を測定した。
(e) 受信装置の実効受信感度
 SARTとアンテナの相対距離を2mとし、標準信号発生器と組合せた送信用アンテナで試験信号を照射し、試験信号レベルを変化させてSARTが応答を開始する最小レベルを求めた。
(f) 電池電圧の変化による性能測定
 電池の代りに直流安定化電源を使用してSARTへの供給電圧を変化させ、前記[3]〜[5]の項目を測定した。
(g) 温度作動試験
 SARTを温度55℃の恒温槽内で作動させ、機能の確認を行なった。
 恒温構内のSARTに対して、距離約2mの位置からSARTテスターを対向させ試験信号を照射した。機能の確認は、SARTが連続的に作動するか、また作動中には、表示灯及び音響モニターが正常に作動するか確認した。
(h) 連続作動試験
 既使用の電池を未使用の新しい電池に交換した後、-20℃の温度環境下において、SARTを待ち受けの状態で96時間作動させた後、送信/待ち受けの時間比1対9で、最低8時間作動させ、機能の確認を行なった。
 試験信号のSARTへの照射は、[7]温度作動試験の場合と同様にSARTテスターを使用した。試験中は電池電圧を記録し、[6]の結果と対比して作動範囲を確認することにした。
(i) 落下試験
 ウェザーリング試験を終了したSART-P(本船用)を高さ20mから水面上に1回自由落下させ、落下後のSARTの変形、破損、浸水等の異常の有無を調べた。また、本体及び撃索の着水後の浮揚状態を観察した。
[3] 試験結果の検討
 SARTを強制的に劣化して、その前後の性能の変化を測定する試験を行ったが、性能の各項目にほとんど変化は見られず、全てが規格内に入る良好な結果が得られた。
(2) 内外資料の収集
 SARTに関する内外の資料を収集し、試験方法及び整備要領作成のための資料とした。
(3) 整備要領標準の作成
 以上の試験の結果及び内外の資料の検討結果から、整備要領は次の3段階の方式とすることが適当と思われる。
[1] 簡易点検器具(チェッカー)による点検方法
 SARTの前面2〜3mの規定された距離から手持ち形式(たとえばピストル形)の点検器具で、SARTに試験用トリガ電波を照射する。その電波に応答してSARTが発信すれば有効に作動しているものと判定する。
 その他、外筐の破損や取付の不安定部分の有無を確認する。
[2] 専用試験装置(テスタ)による整備点検方法
 専用試験装置(テスタ)を使用して実施する。
 整備点検は各地のサービス・ステーションに設置された電波暗室もしくは電波暗箱内で行う。
 SARTの電気的性能の全般にわたって点検する。
[3] 試験機関等における性能試験
 試験機関等におけるSARTの整備点検に関しては整備というよりも、SARTの初期性能の測定や重大な故障のおそれがあるようなSARTに対して十分な電気的性能を試験するためと考える。
 また、あわせて各地のサービス・ステーションで使用されていた専用試験装置や簡易点検器具の定期的な性能検査を実施する役割を果たすものと考える。そのため、使用する測定機器類はSARTの性能の全てについて正確に、しかも国家標準に基ずいて測定できるように考慮されていなければならない。
■事業の成果

本事業はSOLAS条約及び国内法規の改正により新たに規定されたSARTの整備要領標準を作成するため調査研究を実施した。
 調査研究の結果、SARTの整備要領標準を骨子とする調査報告書をまとめることができたが、本報告書はサービスステーションにおけるSARTの整備に大きく貢献し、船舶の救命設備に対する安全検査の円滑化に寄与するものと考えられる。





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