
■事業の内容
近年の舶用大形機関は、低燃費を追求する傾向から、2サイクル超ロングストローク機関が主流となり、これに追随する形で4サイクル機関のロングストローク化が、推進されている。 一方、舶用機関の命題としては、機関の小型軽量高出力による機関部占有スペースの削減ならびに可載重量の増大にある。 この舶用大形機関に要求される、低燃費かつ高粘度油燃焼に関係する燃料経済性と高出力化を推進する上で、燃焼最高圧力の上昇は不可欠なサイクル因子である。 本事業は、平成元年度〜2年度の2ヶ年の継続開発とし燃費・性能改善の最大因子である燃焼最高圧力を180kgf/cm2まで上昇させた、小形軽量高出力で、しかも信頼性の向上を図った純国産の舶用中速4サイクルディーゼル機関を開発し、もって我が国の舶用機関技術の向上に資することを目的として、本年度は、次の内容を実施した。 (1) 実施計画の作成 事業計画に基き、年間の実施計画を作成した。 (2) 設計 本機関開発にあたり燃料消費率及び性能改善の最大因子である燃焼最高圧力を180kgf/cm2レベルまで上昇させた場合のサイクルシミュレーション、燃焼シミュレーション、噴射系シミュレーションによる機関性能の予測と、関連部品の最適化設計の実施及びFEM(有限要素法)による主要部品の徹底した構造解析により高信頼性を追求しながら基本設計、詳細設計を行った。 構造及びシュミレーションの主な点は次の通りである。 [1] クランクケース 十分を強度と剛性を持たせる為に溶接構造を採用し、クランク軸はハンガー方式で取り付けられた。クランクケースの後側面上部には吸気トランクが、一体化され、二重壁構造による騒音の低減とクランクケース全体を箱形構造とすることによる全体の剛性アップ、振動低減を行った。 [2] ピストン、連接棒 ピストンは特殊鍛鋼製クラウンとノジュラー鋳鉄製のスカート部とを8本のタイボルトで締め合わせた組み合わせピストンである。連接棒は特殊鍛剛材料を総削り加工したもので、3分割構造となっている。 [3] 主軸受メタル、クランクピンメタル 薄肉ケルメットメタルで上下に分割されている。 [4] シリンダライナ 上部は特に高温、高圧にさらされる部分である為、コラムから張り出した肉厚形状としてボアクール方式により、水冷することによって均一な熱変形が得られ、ライナ真円度の維持による摩耗率の低減を図った。 [5] シリンダヘッド 機械的応力と熱応力に対処する為、強度が高くかつ熱伝導率の高いCV鋳鉄を採用している。4弁の弁箱方式を採用し、吸排気ポートは3ポート方式の配列を採用した。 [6] 吸・排気分 吸・排気弁は弁箱方式とし、メンテナンスの容易化を図った。吸排気弁ともに上部取り付けボルトのシリンダヘッド下面に対する押し付け力が均一となる様を形状とし、かつ弁回転装置として作動確実で長寿命のロートマットを採用した。 [7] 燃料費財ポンプ 高圧短期噴射を行うために高圧(1,500kgf/cm2)型燃料噴射ポンプを採用した。 [8] 過給装置 過給装置は空冷式を採用した。 [9] サイクルシミュレーション Pmax180kgf/cm2までの範囲では、Pmaxを上昇させれば燃料消費率は低下する。Pmax180kgf/cm2レベルでは、圧縮比が14〜15近辺が最適である。 [10] 燃焼シミュレーション 燃料消費率、爆発度(燃焼最高圧力/圧縮圧力)とNOxの発生率を重点にシミュレーションを行った。 [11] 噴射系シミュレーション 噴射系シミュレーションにより燃料噴射圧力、噴射期間、噴射率を求め、燃料噴射ノズルの要目を決定した。 [12] FEM解析 クランクケース、シリンダヘッド、ピストン連接棒等の機関主要部品についてFEM解析(有限要素法)を行った。 (3) 試作 上記設計に基づき、下記要目のデイゼル機関を1台試作し、組立を完了した。 主要目 型式 立形冷却4サイクル単動トランクピストン形 シリンダ数 6 シリンダ径 460mm ピストン行程 600mm 機関回転数 450mm 連続最大出力 1120ps/cyl 正味平均有効圧力 22,47kgf/cm2 平均ピストン速度 9.0m/s 燃焼最高圧力 180kgf/cm2 出力率 202.2kgf/cm2・m/s 過給機・圧力比 3.5 燃料消費率(目標) 129g/ps・h 寸法 全長7,230mm 全幅2,830mm 全高5,345mm 重量 95ton
■事業の成果
本事業の実施により、次のような成果が得られ、わが国の海運造船技術の向上に資するところ大なるものがある。
(1) 本事業の平成元年度計画として、開発機関の設計及び製作、組立を完了し所期の目的を達成した。
(2) 本機関の開発にあたっては、舶用大型機関に要請される経済性、信頼性の一層の向上を主眼として、各種シミュレーション技術の精度向上と、燃焼最高圧力180kgf/cm2レベルに対するFEM(有限要素法)構造解析などコンピュータを利用した理論的検討を十分に行なった為、短期間に開発設計を終了することが出来た。
(3) 性能試験結果は、平成2年度に判明するが、所期の性能が達成されれば、この級のエンジンとしては、世界のトップクラスに並ぶものと考えられる。
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