
■事業の内容
(1) 地域造船産業動向調査 [1] 北海道地区 a. 漁業及び漁船の変化等を考慮した新規需要の対応と需要喚起 北海道における造船業及び造船関連工業をとりまく諸条件、漁業生産の動向、漁船の動向、漁業をめぐる新な動き及び漁業機器の開発動向等について調査を行い、造船及び関連技術を活かした新漁業システム提案について検討を行った。 b. 水際開発等に係る新規造船関連需要の創出 地域振興の一方策として注目されている道内の水際開発、観光開発等プロジェクトについて、(a)観光・レクリェーションが主体となっているもの、(b)水産関係の事業をべースとして観光要素を絡めたもの、(c)その他港湾整備計画等の中に観光要素を含めたもの等に区分し、それぞれ実施主体、プロジェクトの概要、実現へ向けた課題、進捗状況等について調査を行い、造船業及び造船関連工業の参入可能性のあるプロジェクトの抽出を行った。 c. 北海道地区造船業及び造船関連工業の企業体質強化策の検討 道内中小造船業及び造船関連工業活性化のため、これらの事業を行う企業の現状を把握し、そこにある課題及び問題点を抽出し企業体質強化その他の対応策について調査検討を行った。 d. とりまとめ 以上a〜cについての調査分析を既存統計資料の解析、アンケート調査(対象:道内造船事業社27社、関連工業事業社34社、漁業協同組合30組合)及びヒアリング調査により実施し、その調査結果を基に北海道造船業及び造船関連工業に係る需要創出並びに不況対策についてとりまとめた。 調査を実施した結果、200海里経済水域を迎え、現在は米、ソ両国による漁業規制の強化により、北洋漁業を始めとする遠洋・沖合漁業は縮小を余儀無くされているが、これに変わって水産行政による資源管理型漁業が促進されつつあり、これに伴い漁船も小型のものの比重が大きくなっている。道内中小造船業及び造船関連工業を活性化するためには、このような漁業、漁船の動向に対応していく必要があるが、これらに対して積極的に需要を喚起するため、漁業の効率化、経済性の向上、安全性の向上を目的とした新漁業システムとして、(a)ほたて桁びき網漁船の専用化、(b)サケ・マス定置網漁船の魚倉のコンテナ化、(c)材料の特性を活かしたアルミニウム合金漁船について提案した。また、水際開発プロジェクトに係る新規造船需要については、道内で計画あるいは実施されているプロジェクト53件について調査を行い、造船及び関連技術を活かした参入可能性のあるプロジェクトの抽出と、参入にあたっての情報の収集、造船関係技術に係る専門的立場からの企画・提案への参画及び応用可能な業種等について提案を行った。以上のことから、(a)資源管理型漁業の促進に対応して、それに適した小型漁船等の開発による新規需要の創出、(b)水際開発プロジェクト等の造船技術を活かせる陸上部門への参画、異業種交流による新規事業への参加等による事業の多角化の一層の推進、(c)漁業機器の需要動向を踏まえて、漁業者への積極的なPRによる需要喚起、(d)整備を促進されることになるマリーナにおけるボート・エンジン修理等、海洋レジャー分野への参画、(e)受注にあたり、取引船主の選別、契約形態の改善等による債券管理体制の強化、中小企業に対する各種助成制度の一層の活用等、道内中小造船業及び造船関連工業の健全な発展を図るための諸方策についてとりまとめた。 [2] 関東地区 a. 需要動向調査 (a) 新造船・修繕船需要動向調査 関東地区における2000年に至るまでの新造船、修繕船の需要予測を行なうため新造船については、船種分類を・大型船舶(建造許可対象船舶概ね2,500GT以上船舶)・中小型船舶(5GT以上3,000GT未満の鋼船の内航船・外航船計)・漁船(5GT以上50GT未満の海水動力漁船)・はしけ・プレジャーボート(プレジャーヨット、プレジャーモーターボート)に分け、また修繕船の予測については大手、小手別に実施した。 (b) 主要沿岸プロジェクト調査 関東地区で計画されている各種沿岸プロジェクトを抽出し、鉄構関連工事、マリーナ建設、各種海洋構造物の建造等造船関係事業者が参入可能な分野について、その取り組み状況及び今後の意向について調査検討を行った。 b. 造船業及び舶用工業の対応性調査 上記プロジェクト調査をもとに、造船関係事業者が参入できる可能性のある工事として作業船造修、鉄構関連、海上浮体施設関連等についてそれぞれ参入にあたっての問題点と対応策について検討を行なった。 c. 説明会 管内地方自治体等に対して各種沿岸開発構想と造船技術の対応について説明会を行なった。 (横浜地区) 日時 : 平成元年1月18日 場所 : 関東運輸局会議室 講師 : 宝田委員長 出席者 : 東京都、横浜市、川崎市、横須賀市各港湾局担当者、造船関係事業者約25名 (千葉地区) 日時 : 平成元年1月24日 場所 : 関東運輸局 千葉海運局会議室 講師 : 宝田委員長 出席者 : 千葉県、銚子市、茨城県各港湾課及び地域振興担当者 造船関係事業者約20名 d. 関東地区造船・舶用工業のあり方 (a) 関東地区造船業における課題 (b) 関東地区造船業における活性化の方策 (c) 関東地区舶用工業における課題と今後の対応 以上a〜bについての調査を既存資料の解析、アンケート、ヒアリング及び現地調査により実施し、その調査結果を基に、d関東地区造船・関連工業のあり方について取りまとめた。 アンケート調査については、管内小手造船事業所(60社)、造船関連事業所(193社)及び東京港、川崎港、千葉港の港湾運送事業者(59事業者)を対象とし、ヒアリング調査については、上記アンケート調査の補足的調査に加え、第二港湾建設局及び港湾管理者(自治体)について行った。また、主要沿岸プロジェクトの先進事例を調査するため、「別府・オリアナ号」及び「尾道市・境ケ浜マリン・リゾート計画」について現地調査を行い、先行地区での事業内容、問題点等について把握した。 調査を実施した結果、関東地区造船業の特色として、[1]中手がなく二極分化している大手と小手の連携が成立しにくい。[2]小手も20人以上の比較的規模の大きいものと零細企業グループに分かれている。[3]他地区に比べて賃金が高い。[4]埋立工事などで造船所が年々"奥地化"し、大型船の受注が困難になっているほか、周辺住民への公害問題も生じている。と分析された。これに対し、同地区の新規需要として、ウォーターフロント開発に伴う作業船及びプレジャーボートの新造や修繕、造船所用地を利用したマリーナ事業進出が挙げられている。 これを踏まえて、新規需要を造船業の需要につなげる方策としては、まずウォーターフロント開発関係について、工事規模など事前の情報収集また小手が浮体工事に参画する場合には、大手造船所や海洋土木工事者との関係強化、建設業として必要な資格(鉄工技能士等)を取得することなどが必要である。プレジャーボート分野へ進出する際には、注文生産の一品主義に徹し、高級艇と特化すること、マリーナ事業を展開する場合にはボートの修理・メンテナンス機能の提供のほか舶用機械類の販売などで収益性を高めることと指摘した。また、経営体質を強化するためには共同で技術データーべースの整備や技術者研修事業の展開、異業種交流の推進を図り、人手不足対策として業務量の繁閉調整のために事業所間の相互融通、業界イメージアップのためのPR等が必要であると指摘した。 (2) 造船業及び造船関連工業の経営者セミナー 造船業及び造船関連工業の経営者及び造船関係団体の幹部を対象に、経営者等がこれからの経営指針として正しい認識と適確な判断を養うため、政治、経済、景気等の諸問題について、一流講師8名による講演会を京都において3日間行なった。 講演場所 : 京都グランドホテル(京都市下京区堀川塩小路) 開催月日 : 昭和63年8月3日〜5日 講師及び演題 [1] 運輸省海上技術安全局造船課長 南部 伸孝氏 「造船業の現状と展望」 [2] 政治評論家 飯島 清氏 「これからの政局と政治の行方」 [3] 東京大学理学部助教授 坂村 健氏 「コンピューター社会における一つの試み …科学技術と社会文化との融合…」 [4] 慶応大学経済学部教授 加藤 寛氏 「税制改革と日本経済」 [5] 経済評論家 長谷川慶太郎氏 「日本にとって国際化の意味するもの」 [6] (株)西武百貨店営業開発部長 多田 憲三氏 「異業種における多角化戦略について」 [7] (財)ライフプランニングセンター 岡崎 倫正氏 研究教育部長医学博士 「予防できる病気と発病時のよき対応」 [8] 外交評論家 加瀬 英明氏 「変動する世界と日本の外交」 受講者数 : 200名
■事業の成果
我が国の造船業をとりまく厳しい環境下において、造船産業が地域の経済社会の変化に対応して今後どのような姿であるべきか等の動向を地域的にとらえ把握することが、重要であると思われる。本年度においては北海道、関東各地域についてそれぞれ地域の特性を考えた将来の造船業等のあり方、問題点、対策について調査研究を行った。 北海道地区については、大半が漁船を対象とした中小事業者で漁業に大きく影響されているため、漁業の変化に伴う漁船等の質的・量的変化、水際開発等に係る新規造船関連需要等について調査研究を行った。また、関東地区においては、管内造船事業者の経営実態、意向を捉えるとともに、2000年に至るまでの同地区における船舶の造修需要並びに各種沿岸開発プロジェクトに係わる造船関連の需要見通しについて調査研究を行った。 本調査研究を実施したことにより特に地域の基盤をもつ造船業及び造船関連工業に対して、運輸局、地方自治体、その他関係者が一体になり、さらにモーターボート競走公益資金による貴会の補助事業が単なる調査に終止することなく今後の発展に連なるよう努力した調査ができたことは最大の効果であると考える。 又経営者セミナーにおいて、我が国における著名な講師が、経営者に対し、国際環境、経営、経済、文化等にわたり講演を行うことは、経営の適切な判断と正しい認識を養うものであると共に同じ目的をもつ企業等が一同に会し、親交を深めることは、造船関係事業の明日への活力となるものであり、今後の振興に資した。
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