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■事業の内容

(1) 実験船の設計及び推進・運動性能等に関する調査研究
 本調査研究については、超電導電磁推進船分科会の審議・指導のもとに、実験船建造船体ワーキンググループにおいて詳細な検討を重ね、各種の理論解析および実験を行った。
 主な内容は次の通りである。
[1] 実験船の設計
 実験船に搭載する超電導磁石、ヘリウム冷凍装置、動力・電源装置等の寸法・重量・配置等を考慮し、かつ良好な推進性能をもつ実験船の一般配置・船型等を含む基本設計・詳細設計を行った。
実験船の主要目は次の通りである。
長さ(全長)  約 26m、 幅(型) 約 10m
計画満載吃水 約  3m、 計画満載排水量 約 150ton
速力 約8ノット
[2] 実験船の推進・運動性能等に関する調査研究
 62年度に実施した実験船の概念設計に基づいて模型船(長さ1.5m)を製作し、耐航性・操縦性試験を実施して船首部船型の改良等を行った。
 また、実験船に搭載する装置・機器類の仕様等の確定に伴って一部設計変更した船型について模型船(長さ3m)による耐航性・操縦性試験を実施し、実験船の運動性能に関する資料を得た。
 なお、海水通電用電流のリップル(変動分)を低減するために装備する装置の重量やスペースの関係から、船の長さや排水量が増加する可能性が生じたため、排水量が増えた場合の船型設計資料を得るために、模型船(長さ1.5m)による抵抗試験を計画しており、平成元年6月に完了する予定である。
[3] 実験船の推進ダクトインレット部の形状に関する調査研究
 実験船の推進ダクトインレット部、アウトレット部の形状を決めるために、Hess&Smith法によるインレット部の流場計算や、ダクト形状・寸法等の推進性能への影響度計算を行うと共に、インレット部・アウトレット部の模型を製作し、ダクト試験を実施した。
 また、ダクトの噴出流の向きを船首方向へ変えて後進力を得ようとする後進装置について模型試験を行い、形状決定のための資料を得た。
[4] 内部磁場型超電導電磁推進船の電磁推進動特性に関する調査研究
 内部磁場型超電導電磁推進自航模型船(長さ2.6m、幅0.94m、吃水0.48m、排水量約400Kg)を製作し、筑波研究所の電磁流体力試験長水槽において世界で始めての自力航行実験に成功すると共に、電磁推進船の推進性能に関する資料を得た。
(2) 実験船用超電導電磁推進装置類の製作および調査
 本調査研究については、超電導電磁推進装置分科会の審議・指導のもとに実験船建造推進装置ワーキンググループにおいて詳細な検討を重ね、理論的・実験的研究を行うと共に、超電導磁石やヘリウム冷凍装置等の製作を実施した。
[1] 超電導磁石(超電導コイルおよびクライオスタット)の製作
 62年度に実施した改良型試験用コイルの励磁試験の結果を踏まえて、実験船用超電導磁石の設計を行い、超電導コイルおよびクライオスタットの製作を実施した。
 なお、本超電導コイルは長さが約4m、巻線部内径が360mmの世界にも例を見ない大型の鞍形ダイポールコイルであるため、実験を繰返しながら慎重に製作を進めており、平成元年7月に完了する予定である。
[2] ヘリウム冷凍装置の製作
b-1. 船上設備
 超電導磁石を極低温状態に保持するための、船上ヘリウム冷凍装置の設計を行い、システムを構成する冷凍機、ヘリウム圧縮機、バッファタンク等の製作を実施した。
 なお、冷凍機については、小型軽量化を図るために超小型膨張タービンを採用しているが、そのロータ径が6mmと小さく、また回転数が60万rpmと非常に高いため、極めて精密な加工技術が要求されるので、実験を繰返しながら慎重に製作を進めており、平成元年7月に完了する予定である。
b-2. 地上設備
 超電導磁石を常温から極低温に冷却するための地上用ヘリウム液化冷凍装置の設計を行い、システムを構成する冷凍機、ヘリウム圧縮機、ヘリウムガス精製装置等の製作を実施した。
[3] 動力・電源装置の製作
 超電導磁石によって磁場の形成されたダクト内の海水中に直流電流を供給するための電極用電源装置および船上ヘリウム冷凍装置、一般補機、その他船内雑負荷に電力を供給するための発電装置について設計を行なうと共に、システムを構成する主原動機、主発電機等の製作を実施した。
[4] 磁気シールド材の性能に関する調査研究
 超電導磁石からの漏洩磁場を遮蔽する方策として板上の超電導体(NbTi/Cu)を用いる場合の理論解析および実験を行い、理論解析の妥当性を確認すると共に大規模な超電導磁気シールドに関する設計資料を得た。
[5] 電極に関する調査研究
 酸素発生効率が高く、かつ耐久性に富む電極材の開発を目的として種々の材料を用いた電極実験を実施した。
 また、実験船用電極の形状、海水ダクトへの取付方法等について検討し、概念・設計を行なった。
 なお、この概念設計では、これまで考えられてきた電極よりも構造が複雑で、かつ材質的にも良質なものが要求されており、その製作を円滑に行なうために本年度事業として電極用素材の購入と一部加工を実施することにし、平成元年6月に完了する予定である。
(3) 実験システム調査研究
 本調査研究については、船分科会および装置分科会の審議・指導の下に、実験船建造船体及び推進装置ワーキンググループにおいて検討を行なった。
 主な内容は次の通りである。
[1] 実験船の地上基地の調査
 地上基地に設置する地上用ヘリウム冷凍装置や励磁用電源装置等に対する給電設備・給排水設備およびこれらの装置機器類を収納する建物、並びに係船設備について概念設計を行なった。
 また、実験船の実験準備から終了までの操作手順および基地の保安管理体制について検討した。
[2] 実験船の海上評価試験に必要な制御計測機器類の調査
 超電導電磁推進船の性能評価に必要な計測機器類、および超電導磁石、ヘリウム冷凍装置等の制御計測機器類、並びに実験船の制御・計測システムについて検討を行なった。
 なお、実験船では流れの乱れや計測センサーの取付場所の制約などから、計測することが難しい超電導電磁推進装置単独の出力特性等を調査する目的で62年度に製作した推力特性実験装置を本年度事業として、筑波研究所に再設置することにし、平年元年7月に完了する予定である。
[3] 海上評価試験海域等調査
 実験船の海上評価試験を行なう海域の候補として横浜港、神戸港、下関港および長崎港を選定して気象、海象、海水導電率、寒剤の供給体制および機器の保安体制について調査した。
[4] 実験船の建造及び運航上の問題点と関連法規等についての調査
 実験船の建造および運航上の問題点と、船舶安全法、高圧ガス取締法およびそれらの関連法規等について調査した。特に、船舶に初めて搭載する超電導磁石、ヘリウム冷凍装置については、設計基準、検査方法等について管海官庁と打合せを繰返して製作を進めている。
(4) 記録映画の製作
 超電導電磁推進船の開発研究の経緯を記録するために、研究委員会の活動状況、筑波研究所における超電導電磁推進模型船の自航試験状況、実験船用超電動コイルの製作状況等について撮影し、また推進原理等をアニメーションにして記録映画を製作した。
(5) 報告書のまとめ
 超電導電磁推進船分科会および装置分科会の審議・指導のもとに実施した理論的・実験的研究の成果、ならびに実験船および実験船用超電導磁石、ヘリウム冷凍装置の設計などについて事業報告書にまとめ、平成元年7月に刊行する予定である。
※ 本事業は、平成元年7月31日完了予定である。
■事業の成果

本年度における超電導電磁推進船の開発研究は、開発研究委員会、船分科会及び装置分科会において、昭和60年度から実施してきた調査研究の成果を踏まえて種々審議を行い、更に実験船建造船体及び推進装置ワーキンググループにおいて詳細な検討を重ねて、平成2年度に建造を計画している超電導電磁推進船の基本設計・詳細設計を行うと共に、実験船に搭載する超電導磁石、ヘリウム冷凍装置、動力電源装置等の設計・製作を行った。
 本年度に得られた主な成果は次の通りである。
(1) 実験船に搭載する超電導磁石、ヘリウム冷凍装置、動力電源装置等の寸法・重量・配置等を考慮し、かつ良好な推進性能を持つ実験船の基本設計・詳細設計を実施した。また、模型船による水槽試験を実施し、実験船の推進・運動性能に関する資料を得た。
(2) 推進ダクトに関する理論解析及び模型実験を行って実験船用推進ダクトの設計資料を得ると共に、今まで研究されたことのない特殊な電磁推進ダクトとしての特性を明らかにした。
(3) 筑波研究所にある電磁流体力試験長水槽において、超電導電磁推進装置を搭載した模型船の自航試験を実施し、模型ではあるが、世界で初めて内部磁場型超電導電磁推進船が自力で航行できることを実証した。
(4) 実験船用超電導磁石の設計を行うと共に、超電導コイル・クライオスタットの製作を実施した。また超電導コイルの励磁試験を実施し、磁場分布、構造部材に加わる応力等の解明を行い、世界でも例を見ない大型の鞍型ダイポールコイルに関する貴重な設計資料を得た。
(5) 実験船用超電導磁石を極低温状態に冷却し、また液体ヘリウムの回収を行う地上用ヘリウム液化冷凍装置の設計を実施し、構成機器の製作を行った。また、起電導磁石を極低温状態に保持するための船上ヘリウム冷凍装置の設計を実施し、構成機器の製作を行った。
 船上ヘリウム冷凍機には直径6mm、回転数60万r.p.m.のロータと動圧軸受方式を採用した超小型膨張タービンを使用しており、小型冷凍機の設計に関する貴重な資料を得た。
(6) 超電導磁石によって磁場の形成された推進ダクト内の海水中に直流電流を供給するための電極電源装置、およびヘリウム冷凍装置や一般補機等に電力を供給するための電源装置について設計を行うと共に、主原動機・主発電機等の製作を行った。
(7) 超電導電磁推進船用電極材の開発を目的として、種々の材料を用いた電極実験を行い、酸素発生効率の高い電極材の開発に目途がついた。また、実験船用電極材の形状、海水ダクトへの取付方法等について検討を行い、実験船用電極材に関する設計資料を得た。
(8) 超電導磁気シールドに関する理論解析を行い、板状超電導体(Nb・Ti/Cu)を用いた実験結果と比較して、理論解析の妥当性を確認すると共に、大規模な超電導磁気シールドに関する設計資料を得た。
 上記により、超電導電磁推進実証実験船の設計建造に関する数々の貴重な資料が得られ、今後の造船技術の向上に寄与するところ大なるものがある。





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