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■事業の内容

本事業は、新しい船団輸送システムを実証するために、司令船より遠隔操縦される外洋航行帆装ロボット船団の実現を目指し、実験船で長期無人化運転の実証実験を行うために、昭和59年度〜63年度の5ヶ年に亙り開発を行った。59年度は、技術的問題点、運航上の問題点の調査及び基本計画の作成を行った。60年度は、これを基に基本設計を行った。61年度は、これを基に、長期間無人運転を行うために、実験船の制御装置、通信装置及び司令船搭載機器の詳細設計及び一部の機器の試作を行った。62年度は、制御装置、通信装置司令船搭載機器を試作し、海上実証実験用司令船の設計を行った。また、本開発の実用例の一つとして、LNGの小規模分散型海上輸送システムの概念設計を行った。
 本年度は、最終年度として、陸上総合シミュレーションを行い、機器の特性とシステムの機能を確認するため次の内容を実施した。
(1) 設計
 下記の外洋航行帆装ロボット船団の要求性能を実現するために、下記の主要目の外洋航行帆装ロボット船の実験船を想定し、この実験船の航行を模擬する計算機シミュレーション用プログラムを作成し、制御装置、通信装置、司令船搭載機器、電子計算機本体、ディスプレイ等からなるシミュレーション・システムを設計するとともに、シミュレーション試験方案を作成した。
[1] ロボット船団の要求性能
○ 乗員20〜30人の母船1隻と数隻(最大5隻)のロボット船で構成
○ ロボット船は大洋航行中のみ無人運転
○ ロボット船に搭載する機器は長時間無人運転可能なこと
○ ロボット船は司令船より遠隔操縦する
[2] 外洋航行帆装ロボットの実験船の主要目
○ L×B×D×d  約18.0×5.7×2.85×2.0m
○ 満載排水量  約140トン
○ 航海速力   約9ノット
○ 帆      約4.5×3.0m×1基
○ 主機     高速ディーゼル 約430ps×1台
○ プロペラ   3翼×値径約1,200mmφ
(2) 実験
 前年度までに試作した機器及びシミュレータ(電子計算機)及びI/Oダミー機器を結合し、以下のシミュレーション試験を行った。
[1] シミュレーションプログラムの検証試験
 制御機器、通信装置等の機器を接続しないで、以下のシミュレーションによりシミュレーションプログラムの検証を行った。
○ 速力試験
○ 旋回試験
○ Z試験
○ 定常風下での旋回試験
○ 定常風下でのZ試験
 この結果、シミュレーションアルゴリズムの妥当性が検証された。
[2] 総合性能試験
 制御機器、通信装置等とシミュレーションシステムを結合した状態で、帆装ロボット船のシステム全体の機能確認及び実験船の性能調査を行うため、以下の試験を行った。
a. 保針試験
 種々の風向・風速の組合わせの条件下で保針試験を行い、実験船の設計値の他、帆面積、帆の取付け位置、舵面積の影響を調べた。測定項目として、船速、方位角、舵角、トルク、回頭角速度、横流れ角、横傾斜角、最大偏位量、航跡、風速、帆角を記録した。
b. 変針試験
 各種の風向、風速条件のもと、直進中に、司令船より方位角の変針を発令し、ロボット船の応答を調べた。計測項目は、船速、方位角、舵角の時系列及び航跡とし、記録した。
c. 変速試験
 各種の風向、風速条件下で、直進航行中に司令船より増減速を発令しロボット船の応答を調べた。計測項目は、船速、ピッチ角、航跡とし、記録した。
d. 通信装置試験
 上記の試験中に、随時、I/Oダミー機器他機器を操作し、ロボット船からの状態量、警報の通信及び司令船からの指令通信の作動を確認した。また、これらが司令船に正しく記録されることを確認した。さらに通信装置間における無線機回線のBER(Bit Error Rate)、妨害波によるBER変動、海面反射波等のフェージングによるBER変動などを測定した。
e. 模擬航海試験
 東京〜ロサンゼルス間の航海を模擬した試験を実施した。航路は大圏航路とし、航路中、海域をいくつかに分割し、その海域での平均的な針路、風向、風速を求め、その条件で一定時間試験を行い、その平均船速を用いて所要航海日数を算定した。
[3] 解析とりまとめ
 これらの試験を解析と少まとめた結果、制御装置、通信装置、司令船搭載機器からなる帆装ロボットシステムは、ハード、ソフトともに、設計どおりに正常に機能することが検証された。
■事業の成果

近年わが国海運界は、人件費及び燃料費等の高騰に対処するため、船舶の省エネルギー化を推進し、運航コストの低減に努めているが、21世紀の新しい船舶の姿として1隻の司令船で数隻の無人化船を自動追尾させたロボット船団による輸送システムが考えられている。本事業では、外洋航行帆装ロボット船団という新しい船団輸送システムを実証するための実験船に搭載する一部の機器の詳細設計及び試作を行い、洋上実験の体制の整備が推進された。
 本年度、シミュレーション実験を進めたことにより、制御・通信・ロボット船に対する問題点が明らかとなり、外洋航行帆装のロボット船団の実現に寄与するものと思われる。
 同船団が実現することにより、船舶の安全性、経済性が高く、乗組員にとって良い労働環境を備えた優れた海上輸送システムが開発され、わが国海運界の国際競力の強化及び造船技術の向上に資することが期待される。





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