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■事業の内容

(1) 全体システム計画
 今後の海洋工事のターゲットとして沖合人工島を選び、これの建設に用いられるであろう海中作業機器についての技術開発課題を抽出するとともに、高効率・高精度遊泳式検測ロボットを含む海中作業船システムの全体計画を検討した。
[1] 将来像の体系的検討
 将来の海洋工事として沖合人工島の建設をターゲットとし、工程毎の現状工法と沖合化に伴う技術課題を抽出し、これらをもとに今後の技術開発の方向性を検討した。
 これらから、今後開発が必要と思われる項目を主として施工精度面から明らかにし、技術の方向性を示した。この場合、ロボット化・自動化など、いわゆる機械化施工に進むことが予想されるが、特に各機器の小型化、軽量化、信頼性(安定性、再現性など)が共通要素として重要なファクターになると考えられる。
[2] 水中ロボットの現状技術
 技術開発要素を検討する基礎資料を得るため、水中作業機器に関する海外文献調査(123編)及びアンケート調査(30機種)を実施し、それらの結果をとりまとめた。
 これら海外文献調査及びアンケート調査の結果を解析し、問題点と開発課題を一覧表にまとめた。
[3] 技術開発要素の摘出
 前項の「水中ロボットの現状技術」における文献調査及びアンケート調査の結果を折り込み、また、「将来像の体系的検討」の技術開発の方向性も考慮して、要開発課題を各機器ならびに各ROV方式毎にまとめ、このうち緊急性の高いと思われる課題については「開発研究の範囲」、「開発目標」、「技術課題」及び「開発線表」として開発要領をとりまとめた。
[4] 全体システムの概念設計
 概念設計については、とりわけ測量に対するロボット化の期待が高い「高効率・高精度遊泳式検測ロボットを含む海中作業船システム」を取上げて検討した。
 海中作業船システムの測位システムのあり方としては、後述の「高精度測深・測位技術の開発」に示されるように、いくつかの方式が考えられるが、将来の方向として、海象条件の影響を殆んど受けない海底基準局をベースとしたコンセプトとした。
 検測ロボット、海底基準局、作業母船、陸上支援設備等の主要諸元を示すとともに、概念設計を実施し、さらに、本システムを導入した場合のオペレーション要領についても言及した。

(2) 高精度測深・測位技術の開発
[1] 海底基準局による測深・測位技術の開発
 海気象の影響を直接受ける海面上からの測深方法に替えて、垂直線上に2ケの海底基準局(トランスポンダ)を設けて、検測ロボット(海中作業船)の位置を計測しようとするものであり、深度方向、左右方向の誤差及びベースラインの傾きによる誤差についてシミュレーション計算を行った。
 基本的には、上下2ケのトランスポンダ間の距離程度の所に検測ロボットがある場合には、高精度で深度が計測されることが判った。したがって測定距離による影響が大きいことから、実海域での作業には運用面を考慮して全体システムの中で評価していく必要がある。
[2] 深度データに及ぼす水深・水温変化の影響の検討
 一般に海水中の音速は、温度、圧力(深度)、塩分等に影響されるが、これらの影響度合を定量的に明らかにした。
 圧力、塩分による誤差は、水温変化の誤差に比べて小さい。一例として50mの距離を1cmの精度で測定するためには温度変化を0.04℃の精度で、また、100mの距離の場合、10cmの精度を得るためには0.25℃の精度の補正が必要であることが示された。温度センサについては、1/100℃の精度のものが実用化されており、十分対応は可能であろう。
[3] M系列パルス信号によるスラントレンジ計測の開発
 従来のトーンバースト波方式に替わるM系列信号による計測方法について、その有効性を評価するためにM系列送受信実験回路を試作し、実海域において基本特性を把握する基礎実験を実施した。着目点は、スラントレンジ計測精度、波浪等マルチパスの影響や海中雑音の影響等を従来方式と比較し、実用化に対する目途を付けることである。
 いずれのケースにおいても従来方式に比べて、計測精度の向上と安定性及び耐雑音性に優れていることが判った。5次以上のM系列信号の場合、S/N>0の条件でパルス性雑音の影響を受けることなく計測が可能であることが立証された。このことは、背景雑音が高く、海中構造物の多い海洋土木工事を考えた場合、極めて有効な方法であることが判る。
[4] M系列パルス信号による測位システムの開発
 前項までの検討結果をふまえ、M系列パルス信号を使った将来の高精度測深・測位システムのあり方について検討した。
 具体的な方式は、次の通りである。
a) 検測ロボット自身で位置を計測して、海底基準局からの指令により検測ロボット自身で判断して行動する方式(LBL方式)
b) 海底基準局で検測ロボットの深度位置を計測し、検測ロボットに移動指示を出す方式(SSBL方式)
c) 海底基準局から音波ビームを出し、検測ロボットが音波ビームを判断してそのコースに検測ロボットが移動し、海底基準局から基準局と検測ロボットの距離が指示される方式(航空機のラジオビーコン方式であり、これとスラントレンジ計測を組合せた方式)
 これらについて、構成機器、システムの概念、システムの展開等について検討を加えた。
 なお、「全体システムの概念設計」においては、上記c)の方式を念頭においてとりまとめたものである。
■事業の成果

本事業は、今後ますます沖合化へ進む海洋工事の機械化・無人化が必要になってくるという背景をふまえ、高効率・高精度の測深・測位ができる遊泳式検測ロボットの開発実用化を狙いとして、これに関連する技術要素、支援システムを含む海中作業船システムの全体計画を検討するとともに、超音波方式を用いた高精度測深・測位技術を検討したものであり、
○ 海中作業機器の開発課題を体系的にまとめたことによって、その重要性或いは緊急性等のニーズに応じた研究の対応が可能になる。
〇 「高効率遊泳式検測ロボット」は、特に大水深下での測量において精度面及び施工性で威力を発揮するものであり、今後の実用化への研究における有益なガイダンスになる。
〇 M系列バルス信号によるスラントレンジ計測方法の有効性が明らかになり、これのより具体的な研究の進展によって、高精度測深・測位システムの実用化が比較的早期に実現する可能性がある。
等の結論を得ることができた。
 本事業によって得られた知見は、将来の沖合人工島建設等の海洋土木工事において、その有効利用が期待されるものである。





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