
■事業の内容
(1) ひずみ集中部のひずみ簡易推定法の確立 海洋構造物における代表的な鋼管継手として、鋼管K、Y、TK継手及び鋼管と板骨構造物との結合部を抽出した構造モデルについて、下記試験及び解析を行い、塑性域におけるひずみ分布の簡易推定法について検討した。 [1] モデルテスト 室温において、各モデル主管両端のフランジをボルトにより拘束治具に固定し、枝管端部に引張り及び圧縮の荷重を負荷し、各負荷段階でのひずみを詳細計測した。ひずみの計測は、管内外面に貼付けた応力集中ゲージ、一軸、二軸、三軸ゲージにより多点記録計及びフロッピーディスクに記録・記憶させた。 a. 試験モデル(4体) ジャッキアップリグK-ジョイント(モデル<1>、モデル<2>の2種) ジャッキアップリグTK-ジョイント(モデル<3>) 鋼管と板骨構造物との結合部(モデル<4>) b. 歪計測点数 モデル<1> 約160点 モデル<2> 約160点 モデル<3> 約170点 モデル<4> 約150点 c. 歪計測位置 各モデルの主管、枝管の内外面 [2] 弾性応力解析 上記4モデルについて、弾性応力解析(薄肉シェル要素及び境界要素を用いた有限要素法)を行い、全体変形、全体主応力分布、主管部・枝管部・交差部等の主応力分布を求め、上記aの実測値との比較・整合性についてNeuber則を修正適用して、塑性域におけるひずみ分布の簡易推定法について検討した。 (実施場所;日立造船、新日鉄、三井造船) (2) モデル脆性破壊試験 [1] 低温脆性破壊試験 鋼管T継手モデルについて、室温変形挙動計測、残留応力計測及び引張+曲げが作用する場合の脆性破壊試験を行った。 a. 室温変形挙動計測 鋼管T継手のクラウン部を中心に主管・枝管の内外面にひずみゲージを貼付し、約100点のひずみ計測により、クラウン部の弾性および弾塑性ひずみ分布をもとめた。次にクラウン部に深さ6.8mm、表面長さ41.5mmの表面切欠加工を行い、シリコンゴム・キャスティング法、クリップゲージ法による切欠先端の開口変位を実測し、開口変位-クリップゲージ変位のキャリブレーション・カーブを求めた。 (a) 10ton以上の荷重ではクラウン部に最も近いゲージのひずみが大きく増加し、弾塑性ひずみの状態となっている。 (b) 切欠の最深部と表面でのき裂開口変位量は最深部の方が大きい。 b. 残留応力計測 鋼管T継手のクラウン部を中心とした溶接残留応力を、疲労き裂挿入前・挿入後について計測を行い、残留応力が脆性破壊強度に及ぼす影響について調査し、次の結果を得、モデル試験結果を解析する基礎データとした。 (a) 疲労き裂挿入前の溶接のままの試験体には、その溶接金属及び溶接止端部付近に供試材の降伏応力程度の高い引張残留応力が生じている。これに対し、応力除去焼鈍を行うと残留応力は10〜20Kgf/mm程度まで低減される。 (b) #型状に切込んで測定する方法とホールドリリング法では傾向はほぼ同じであるが、残留応力値には若干の差違が見られる。また、X線法では#型状に切込んで測定する方法の2/3程度の値となっている。 (c) 疲労き裂挿入時の疲労荷重により残留応力は低減する傾向を示している。 c. 低温脆性破壊試験 ひずみ計測およびFEM解析結果から、鋼管T継手に曲げ荷重が作用した場合に応力集中が最大となるクラウン部の主管側に深さ約2mm、表面長さ約25mmの表面切欠を加工、そのあと疲労荷重を加えることにより疲労予き裂を加工した後、曲げ荷重による低温脆性破壊試験を実施した。 (a) 試験モデル……AS Weld 2体 PWHT 1体 (b) 試験温度………-100℃及び-60℃ (c) 試験結果 ○ 各試験体ともほぼ同様の破壊状況を示しており、表面切欠部の外側に溶接止端部に沿って深さ約1mm程度の浅い疲労き裂が主管-枝管溶接止端部の約1/3周程度発生している。 ○ 破壊は表面切欠部の疲労き裂先端から発生してほぼ溶接止端部に沿って伝播している。 ○ 破壊起点は主管の突合せ溶接部の溶接金属部のようである。 [2] 基礎試験 上記鋼管T継手モデルに用いる供試材の母材、溶接継手について下記試験を行い、モデル試験解析の基礎データとした。 a. 丸棒引張試験 室温〜-196℃での温度範囲で試験を行い、降伏点及び引張強さの温度依存性を求めた。 b. シャルピー試験 2mmVノッチシャルピー試験片により試験を行い、温度遷移曲線を求めた。 c. COD試験 シャルピー試験と同一部材の試験片について試験を行い、破壊靱性値を求め、モデル試験の条件決定及び解析に用いた。 [3] 弾性応力解析 ○ 鋼管T継手モデルについて有限要素法による弾性応力解析を行い、モデル全体の変形、主応力線図、クラウン部近傍の弾性応力分布等の把握及び実測結果との対応を調べた。 (実施場所;三菱重工業、新日鉄、東京大学) (3) 動的破壊靱性試験 [1] 動的破壊試験 HT80材試験片について各種ひずみ速度下におけるCT、COD試験を行い、破壊靱性値に及ぼす速度の影響を調査した。 [2] 引張り試験 HT80材試験片により、丸棒引張り試験を行い、昨年度実施のHT50材の結果との比較によりひずみ硬化指数の影響について調査した。 [3] シャルピー試験 シャルピー衝撃試験により、シャルピー値と破壊靱性値との相関を調査した。 (実施場所;船舶技術研究所、石川島播磨重工業、川崎重工業、新日鉄、九州大学) (4) 初期許容欠陥寸法評価 第1年度に実施した海洋構造物についての初期許容欠陥寸法のアンケート調査結果に基づき、材質選定の段階で考慮すべき欠陥の大きさについて統計的検討を行うとともに、破壊靱性のばらつき特性を仮定して破壊確率を算定し、各種パラメータ(材料、初期欠陥、欠陥発見確率、負荷応力、疲労き裂進展則等)の破壊確率に及ぼす影響について検討した。 (実施場所;東京大学) (5) 総合評価 第1、2年及び本年度研究結果をもとに、ひずみ集中部のひずみ推定方法、ひずみ速度の影響、降伏点の整理、デザインカーブの検討、欠陥の評価等を行い、海洋構造物の低温用材料選定手順について検討した。 (実施場所;東京大学、九州大学、三井造船、日本鋼管、石川島播磨重工業)
■事業の成果
氷海域で使用される石油掘削リグ等の各種海洋構造物は大きく分けて1) Floating Type, 2) Fixed Type, 3) Gravity Typeがある。これらのうち1)のFloating Typeは、船級協会規則で設計、製造が行われているが、板厚50mmを越える鋼材については現在のところ、IACS等の統一された規則がなく、各物件毎に各船級協会との話合いで、要求性能があまり根拠もないままに決められている。また、2)、3)の固定式の場合には、各エンジニアリング会社が、各種規格(例えば、橋梁の規格、船級協会規格)を適当に複合して、鋼材に対する要求値を各物件毎に決めているのが現状である。 そのため氷海域での海洋構造物に使用される鋼材に対する要求性能はますます苛酷なものになってきている。しかもその要求根拠も明確でない。そこで本研究では氷海域で使用される海洋構造物に対する鋼材の選定基準を、根拠をもった形で示すことを目的に59年度から研究を開始し、本年度は最終年度として、構造モデル破壊試験、各種基礎試験及び動的破壊靱性試験を行い、構造モデルの応力状態については有限要素解析を行い、低温材料の破壊靱性値に及ぼすひずみ速度の影響、温度依存性等についての基礎資料を得、第1、第2年度結果も合せて、ひずみ推定方法、ひずみ速度の影響、降伏点の整理、デザインカーブの検討、欠陥の評価等を総合的に解析し、海洋構造物の材料選定に関する貴重な資料が得られた。これらの資料は、実際の材料選定にたずさわる設計者にとっては、設計時に必要な膨大な量及び費用を要する弾塑性計算の省略化につながり、合理的、経済的な低温用材料選定基準設定のための貴重な資料である。
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