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■事業の内容

(1) タンカーの爆発事故防止対策に関する調査研究
 昭和56年初頭に発生した油タンカー第五豊和丸、ハーモニーベンチャー号の爆発事故に鑑み、この種の事故の原因と防止対策を究明し、油タンカーの安全性の向上に役立てるため、3年計画の調査研究のうち、2年度目として前年度からの検討項目について講ずべき措置を検討するとともに、新たに中・長期的なものについて検討を行った。その方法としては委員会を開催して、研究方針を決め、作業部会で具体的な作業を行い、次の事項について調査研究した。
[1] 密閉荷役方式
 密閉荷役方式等中期の検討により対応可能なものの検討
[2] 荷役時のタンク内の不活性化
[3] 小型船の危険場所
[4] 管内流速の制限
 管内流速の制限等短期の検討により対応可能なものの検討
[5] 小型タンカーの運航マニュアルの検討
[6] 小型タンカーのタンク・クリーニング、ガスフリーの方法
[7] 静電気に関して長期の検討により対応可能なものの検討
 放電メカニズムの解明の資料とするため、チクサンローディングアームの自己インダクタンス(L)計測を実施した。
[8] タンカーバースにおける船陸間の電位差測定実験
 ボンディングの方法の改善に関連して、タンカーバースにおける船陸間の電位差等測定実験を実施した。

(2) 船積危険物の性状・応急処置等に関する調査研究
 近年における化学工業のめざましい発展に伴い、船積危険物は増加の一途をたどってきている。なかでも港湾における事故時の応急処置等に関する資料の整備は急務であるところから、電子計算機の入力として利用出来るよう港則法上の危険物300品目について性状・応急処置等を調査し、検討の上、データ・コーディングシートに成果をとりまとめた。

(3) 最適海難救助手法に関する調査研究
 各種の海難に遭遇した船舶と船内の人命を救助するための、最適海難救助手法策定の資料を整備するため、3年計画で転覆海難における救助対策を調査研究しており、本年度は2年目として前年度に引き続き、転覆船を沈没させないための措置について研究した。その方法としては委員会を開催して調査研究方針を決め、作業部会で具体的な調査研究を行い、次の事項についてその成果をとりまとめた。
[1] 救助手法の研究
a. 漏気防止措置
b. 浮力増強措置
c. 救助作業用資機材
[2] 転覆船の復原性及び残存浮力の調査
 今年度は第3魚生丸の模型船を作成し、転覆状態での静水中における復原力計測実験と波浪中における船体の動揺実験を実施した。
[3] 波浪中の動揺実験に対応した波浪中の動揺計算を実施した。

(4) 海難防止の国際的動向に関する調査研究
[1] 次のIMO委員会に調査員を派遣して、国際海上衝突予防規則、海上捜索救助に関する条約について、わが国の対処方針の反映をはかるとともに、各国の動向を調査した。
○ 第48回海上安全委員会
○ 第28回航行安全小委員会
[2] 国際海上衝突予防規則について、継続審議となった改正案及びその後各国から提出された案件に対して、IMOにおけるわが国の対処方針を検討した。
 また、海上捜索救助に関する条約については、現在までの経緯等に関する官側の説明及び質疑応答を行って、今後の検討に資した。
[3] 海難防止の国際的動向を調査するうえでの基礎資料として、関係官庁及び当協会ロンドン連絡事務所から海外主要海運国9か国の海難統計資料を入手し、ほん訳、整理を行った。

(5) 海上交通環境の整備に関する調査
(5)-1 来島海峡における航法に関する調査研究
a. 強潮下における船舶操縦性能実験結果の検討
b. 操船者の意識に関するアンケート結果の検討
c. 航行安全対策に関する総合的研究
[1] 委員会を開催し、来島海峡における航行及び安全対策全般について総合的に検討した。
[2] 作業部会を開催し、次の項目について検討した。
a. 現在の航法とその沿革
b. 船舶通航の実態
c. 潮流の現況
d. 強潮流下での航行船の挙動(船舶操縦性能実験の結果の検討及び神戸海難防止研究会の通行シミュレーションの検討)
e. 航行の実態と問題点の検討(アンケート結果の分析・検討及び航法の検討)
(5)-2 電光表示方式による航行情報提供システムに関する調査研究
a. 実験結果のつき合せ等による検討
b. 電光表示方式の有効性、実用性の総合的研究
[1] 委員会を開催し、室内実験についての実施要領及び実験結果の解析方針を決め、昭和56年度、57年度も合わせ各実験により得たデータを検討しながら、電光表示方式の有効性、装置の実用化にあたっての総合的な研究をし、概念設計を行った。
[2] 電光表示方式の実用化に関する研究を委託した小糸工業(株)から提出された概念設計の具体的試案について審議した。
(5)-3 狭水道における船舶交通の特性に関する調査研究
a. 通航船舶の実態観測
b. 観測結果の解析及び評価
c. 海域における船舶航行の特性の抽出及び解析
[1] 次の2海域において、レーダー及び目視により船舶交通の実態を観測した。
a. 備讃瀬戸西部(3日間)
b. 関門港中央部東海域(3日間)
[2] 委員会を開催し、次のような作業及び検討を行った。
a. 観測にあたってのレーダー設置場所、観測範囲、目視線の位置等を選定するとともに、観測上の重点事項を検討した。
b. 観測によって得られた資料を整理したうえ、両海域ごとに通航船舶の航跡、隻数、速力、密度の各分布状況について解析した。
[3] 備讃瀬戸西部海域に関しては、当海域における船舶交通が、本州四国連絡橋の橋脚工事開始以前と比較して、本格的工事が行われている現在、どのような影響を受けているかを、昭和53年度、54年度の観測結果と対比させながら、本年度のデータの検討を行った。
[4] 本調査研究の基礎的な事項として、本年度は次の3つを取り上げて検討した。
a. 海上交通実態調査の自動化への試み
b. レーダー解析処理の流れ(手順)
c. 実航跡による乗揚げの危険性を評価する方法
(5)-4 国際浮標式の導入に関する調査研究
[1] 委員会を開催し、次の[2]、[3]に係る調査研究の方針及び問題点の検討を行った。
[2] 多用形象式標体海上視認実験
a. 予備模型実験
b. 海上視認実験
○ 標体塗色の識別距離の測定
○ 形象物の識別距離の測定
○ 頭標の識別距離の測定
○ 変更実施済の灯浮標の現状認識
○ 見回り作業員による保守作業実験による問題点の検討
[3] 浮標式変更に係るアンケート調査
 我が国に於ては、昭和58年7月から7年間にわたる、IALA方式による浮標式の変更作業が開始され、この変更が当初の目的を達成出来ているかどうかを調査したものである。
 この分析結果により、IALA方式の変更計画が有効に機能されていることが判明し、今後の変更作業に資するところ大なるものがある。
a. 実施時間
昭和58年10月〜昭和59年1月
b. 配布部数
和文  1,481部
英文   470部
c. 回収部数
和文   314部
英文    50部
(5)-5 関門海域における海上交通安全システムに関する調査研究
[1] 委員会を開催し、調査研究の方針として現状の分析、問題点の把握及び対策並びに海上交通安全システムの検討の三段階によることとし、詳細な現状分析を行うとともに、問題点及びシステムの検討の大要について検討した。
[2] 作業部会を開催し、現状分析、航行安全上の問題点、関門海域における航行管理上の基本的事項を検討した。
[3] 作業部会委員による現地調査を行った。
[4] アンケート調査票(2,000部)を配布、回収し分析を開始した。
 アンケート調査は、関門海域を航行する船舶、操業漁船を対象として、航行上の現状の問題点及び海上交通安全システムに対する要望等を把握するために実施したものである。
 本年度は基礎的な解析及び計算機への入力作業を行ったもので、今後必要とする相関解析が可能となった。
■事業の成果

(1) タンカーの爆発事故防止対策に関する調査研究
 タンカーの爆発事故は、その事故現象において未解明の点が多く、その究明は非常にむずかしい内容を含んでいる。その究明を目的とする本研究の成果は関係者の注目しているところである。この研究は昭和57年度から3年間の予定ではじめられ、本年度は昨年度摘出した検討が必要な項目のうち、実験を要するものや、重点的にほりさげるべきもの、及び初年度に引き続き検討を要するものについて、現状と問題点を整理するとともに具体的な検討を加え、所要の措置と改善対策等を検討した。
 来年度さらに中・長期的に検討の必要なものについて研究を行うことにより、タンカーの爆発事故防止に大いに貢献するものと考える。

(2) 船積危険物の性状・応急処置等に関する調査研究
 近年における化学工業のめざましい発展に伴い、船積危険物は増加の一途をたどってきており、港湾における事故時の応急処置等に関する資料の整備は、切望されてきており、急務でもある。
 海上保安庁では、電子計算機を利用した海洋情報システムの運用開始を昭和60年度に予定し、準備を進めてきているが、このシステムの一環としての危険物性状等情報管理システムにニーズに応じて迅速に対応出来るデータを整備し入力することとしている。
 本事業ではこのため、本年度はとりあえず港則法上の危険物300品目について、性状並びに応急処置を詳細に調査研究・検討し、危険物性状等データ・コーディングシートに成果品としてとりまとめた。
 データを整備し入力しておき、ニーズに応じて対応出来るメリットは、海上保安庁等関係官庁の安全・防災対策の確立に寄与することは勿論のこと、海運業界、港湾業界、化学工業界、貿易業界等の安全対策向上にも寄与するものであり、本事業の成果は大といえる。

(3) 最適海難救助手法に関する調査研究
 転覆浮上船の船内にとじ込められた生存者の救出作業は万難を排しても成しとげるべきであるが、救助作業に従事する人の安全確保も又重要な問題である。転覆した船の残存浮力や復原力の推定は極めて困難であり、救助作業が行えるか否かの判断も非常に難しい。しかし適切な救助対策は確立しておく必要がある。このような考えのもとに昨年度より3年計画で転覆海難の問題に取り組んできたが、今年度は模型船を作成し実験を行うとともに、転覆船の沈没防止措置、救助作業用資機材等について調査研究した。来年度さらに曳航実験、浸水量と吃水の関係等の調査研究を行うことにより最適海難救助手法が確立され、転覆船と船内生存者の救助に格段の進展がみられることになるであろう。

(4) 海難防止の国際的動向に関する調査研究
 1972年国際海上衝突予防規則の一部改正は、第12回IMO総会(昭和56年11月)において決議され、これに伴って昭和58年6月にわが国の海上衝突予防法が一部改正された。これら一部改正にあたっては、小型船舶に対する灯火、形象物の掲揚に関する規定緩和及び字句訂正等の小改正に止めるというIMOの基本方針に基づいて行われたものなので、航法規定等に関する改正案は採択されず、その後新たに各国から提案された案とともに、IMOにおいて継続審議されることになった。
 本事業はこれら改正案に関するわが国での問題点を調査研究したものであり、かつ、IMOの関係委員会に調査員を派遣して本調査に基づくわが国の意見を反映させた。
 また、1979年海上捜索救助に関する国際条約に関しては、委員会において現在までの経緯等に関して官側からの説明を受け、意見交換などを通じて本条約の趣旨、内容及び経緯等について委員側の理解が深められるとともに官側の今後の対処方針の基礎作りがなされた。

(5) 海上交通環境の整備に関する調査研究
[1] 来島海峡における航法に関する調査研究
 本事業は昭和56年度から同58年度までの3か年間にわたったものである。
 昭和58年度(最終年度)においては、これまでの調査及び実験の結果等を総合して、来島海峡における航法上の問題点を検討したものである。
 これらの調査研究の結果、屈曲し、かつ狭隘なうえ、強潮流と船舶の輻輳による航海の難所である来島海峡での、世界にあまり例が見られない潮流によって通航路が変わるという現行航法での問題点が明らかになり、今後の航行安全対策確立のため貴重な資料を得ることができた。一方、これらの問題点を通峡船舶が強く認識することによって、同海峡における安全性が一段と高められ、秩序ある航行が期待できるものと思われる。
 また、左舷対右舷をもって互いに航過するという一般航法の原則を、来島海峡に適用した場合を仮定しての検討の結果については、現状においては現航法と同等またはそれ以上の安全が確保できるという結論には至らなかった。
[2] 電光表示方式による航行情報提供システムに関する調査研究
 本事業は昭和56年度から同58年度までの3か年間にわたって行ったものである。
 昭和58年度(最終年度)においては、電光表示方式の有効性について検討するとともに、実用化に向けて概念設計(委託研究)を行って研究した。
 これらの調査研究の結果、昼間、薄暮、夜間における静止、点滅、移動の各表示方式について、海域の状況を加味した適正な表示方式を見出すことができ、陸上交通等に比して条件の厳しい海上交通での情報提供方式に大きな前進を与えることができる基礎資料が得られたものと考えられる。
 海上においては、電波のほか、光を用いた単純な表示による特定された信号が主として用いられているため、小型船舶や漁船に航行情報を提供することが困難であったが、本方式が実現した場合には、これらに対して情報伝達の徹底化が図られ、海域における交通安全の向上に大いに役立つことが期待される。
[3] 狭水道における船舶交通の特性に関する調査研究
 本年度は前述のとおり備讃瀬戸西部と関門港中央部(東海域)の2海域について調査研究したものである。
 備讃瀬戸西部は海上交通安全法による航路が設定されており、これらの航路が直交している場所の付近にて現在本州四国連絡橋の工事が進められている。本海域では全般的解析のほか特にこのような海上工事場所付近における船舶航行について観測結果を解析し、工事開始前の航行状況と対比して研究し、その変化を明らかにした。これによって同海域はもとより、今後この種海上工事が行われる場合の航行安全対策を検討するにあたっての貴重な参考資料が得られたものと考えられる。
 関門港については昭和56年度西部海域の調査を初めとして、順次調査海域を東に移動し、本年度に至って早靹瀬戸に架かる関門橋以西の海域の船舶交通の実態を明らかにすることができた。これらの成果は現在計画中の早靹瀬戸以東の調査結果とあわせて、後述する「関門海域における海上交通安全システムに関する調査研究」での基礎資料として活用するものである。
[4] 国際浮標式に関する調査研究
 本事業は昭和56年度から同58年度までの3か年間にわたって行ったものである。
 昭和58年度(最終年度)においては、多用形象式標体の海上視認実験及び浮標式変更に係わるアンケート調査を行った。
 これらの調査研究の結果、関係官庁においては昭和57年7月から東京湾東京区を手初めに変更工事が進められ、昭和58年度1月末に父島二見港における工事終了をもって初年度計画を順調に完了することができた。
 また、各種の実験の成果による灯浮標の性能等については、操船者に対するアンケート調査にも表われているとおり、良好な結果を得ていることは、本調査研究の成果であることがうなづける。
 さらに、これらの成果は今後約6年間に及ぶ変更工事にも適用され順調な推移が期待される。
[5] 関門海域における海上交通安全システムに関する調査研究
 本年度は本事業の初年度として、現地調査及びアンケート調査を行って現状の把握に努め、これに基づいて問題点を抽出し整理することに主眼を置いた。
 さらに、これらを踏えて航行管理システムの基本的事項を検討したが、これらの成果を来年度事業に反映させ、関門海峡における海上安全のための具体的なシステム作りに研究を進める計画である。





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