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■事業の内容

(1) 材料の新利用技術の研究
 船舶用機器又は舶用品として未利用または利用頻度の少ない工業用材料のうち、高分子材料について、その一般特性および既利用物件の用途、使用条件を調査し、船舶用として利用可能物件の選定、試作および性能確認の諸試験を行った。
[1] エポキシ樹脂に関する資料の収集及び解析
 各種文献、図書、資料によりエポキシ樹脂に関し、次の項目について調査研究を行い、船舶用品への適応性について調査を行った。
a. エポキシ樹脂の特性
b. エポキシ樹脂の種類
c. エポキシ樹脂の硬化剤、変性剤
d. エポキシ樹脂の用途
e. エポキシ樹脂の船舶用品への適応性
[2] エポキシ樹脂の船舶用品への適応性に関する試験方法の検討
 上記エポキシ樹脂の調査により、接着剤として船舶用品への適応性が期待されるので、その試験方法を検討した。
[3] ポリカーボネート製船用品の試作・試験
 ポリカーボネートを使用した持運び式粉末消火器の頭部(バルブ及びバルブカバー)及び底部模型の試作、実験並びに素材の船舶用品としての基礎試験を行った。
a. 消火器の実験
(a) ポリカーボネートを使用した消火器のバルブ、バルブカバー、底部模型、素材各種試験片
(b) 試験項目及びその方法
イ. 温度繰返し試験
 +20℃より2時間にて+65℃に上げ、8時間その温度を保持する。その後2時間にて+20℃とし、12時間その温度を保持する。しかして+20℃より2時間にて-30℃に下げ、8時間その温度を保持する。その後2時間にて+20℃とし、12時間その温度を保持する。これを1サイクルとして、10回行った。
ロ. 耐圧試験
 温度繰返し試験を終了した供試品を耐圧試験治具に取付け、35kgf/cm2の水圧を5分間加え、各部の異状の有無を調べた。
ハ. 落下試験
 耐圧試験を終了した供試品をコンクリート床上に置いた鋼板上に、1mの高さから落下させ、破損、変形等の異状の有無を調べた。
ニ. 破壊試験
 落下試験を終了した供試品を、ロ項と同様に水圧を加え、破壊した時の圧力を計測した。
(c) 試験結果の概要
 バルブ及びバルブカバーでは、供試品と本体(鋼板製)との水圧による伸びの差により、耐圧試験でその接合ネジ部より水漏れが生じ規定圧力まで達しなかった。破壊試験においても同様に破壊に至らなかった。底部模型では、破壊試験において、36〜38kgf/cm2にて供試品の伸びが大きいため水圧治具のパッキンが効かず、破壊に至らなかった。その他の試験については特に問題は無く、消火器としての利用は可能と思われる。
b. 素材の試験
(a) 供試品
 射出成形試験片と、押出成形板から機械加工により作製した2種類の試験片とした。
(b) 試験項目及びその方法
イ. 温度繰返し試験
a-(b)-イと同じ
ロ. 浸漬試験
 温度繰返し試験を終了した供試品を、A重油、潤滑油(SAE30)、食塩水(5%)、清水及び稀硫酸(4.9%)の各液中に10日、40日及び90日間浸漬する。
ハ. 材料試験
 供試品について、温度繰返し試験後の状態及び浸漬試験後の状態でそれぞれ次の諸試験を行った。
(イ) 引張試験
 JISK7203(プラスチックの引張試験方法)に示す方法で行った。試験速度は50mm/minとした。
(ロ) 曲げ試験JISK7203(硬質プラスチックの曲げ試験方法)に示す方法で行った。
(ハ) 衝撃試験
 JISK7110(硬質プラスチックのアイゾット衝撃試験方法)に示す方法で行った。
(ニ) 比重測定
 JISK7112(プラスチックの密度と比重の測定方法)の6.1A法(水中置換法)により測定した。
(ホ) 耐圧試験
 JISF2410(舶用丸窓強化ガラス)に示す方法で、板厚8mm(耐圧荷重3kgf/cm2)、10mm(耐圧荷重5kgf/cm2)の2種で、大きさは直径312mmのものについて行った。
(ヘ) 吸水試験
 JISK7209(プラスチックの吸水率及び沸騰水吸水率の試験方法)に示す方法で行った。
(c) 試験結果の概要
 引張強さで、機械加工をしたものの強さが、成形品の強さの2/3程度であったが機械加工面を平滑に処理すると、成形品と変らない強さとなることを確認した。又両供試品とも衝撃試験の衝撃値にかなりのバラツキが現れたが、これは各状態で異常に高いか又は低い値が1又は2ケ出たためで、これらを除いて考えると正常なものとなり、耐圧試験で試験機の構造により、規定荷重は加えることはなかったが、それに近い圧力で試験を行ったが残留歪は最大で0.5mmで約半数が0であった。その他については問題はなく、消火器のみならず種々の船舶用品への使用が可能であろう。
(2) プロト生産研究
a. 救命器具材料の耐候性に関する調査研究
(a) 供試材の試作購入
 供試材は1974年SOLAS条約第<3>章の改正案による太陽光に暴露する場合の耐劣化性の規則を考慮し、次のような供試材を試作し購入した。
イ. FRP供試材の選定方針
 複合材料であるFRPは、使用される樹脂及び補強材(ガラス繊維)には数多くの種類があり、その組合せにより、それぞれ特長を有するが供試材としては、現在最も多く救命器具等に使用されている不飽和ポリエステル樹脂とガラス繊維とを組合せた構成を採用した。
 FRPは成形法により種々の特長を有するが、救命器具等で現在最も多く使用されている代表的なハンドレイアップ法(HU法)と、将来量産効率上救命器具にも採用されるであろうシート・モールディング・コンパウンド法(S.M.C法)の2種類を供試材として選定した。
ロ. FRP供試材の購入
 形成法別に2種類各300m/m×300m/m板20枚を大日本インキ化学工業(株)で試作の上購入した。
ハ. ポリエチレン供試材の選定方針
 ポリエチレンはその製造法により、高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンに大別され、品質面での両材料の相違は高密度ポリエチレンは曲げ弾性率が高く、引張強度が大きいが、低密度ポリエチレンは耐寒衝撃強度が大きく環境応力破壊性に優れている。又成形法は種々あるが、吹込成形法と回転成形法は他の成形法と比較して中空体の製品を得ることが可能であり、軽量且つ浮力付与の要求に対応できる大きな特長がある。供試材として材料の品質・加工特性の両面から、吹込成形法用には衝撃性、環境応力破壊性を改良した高密度ポリエチレンのB×50Aと、回転成形法用には最適で、環境応力破壊性に優れた低密度ポリエチレンEH30の2種類を選定した。
ニ. ポリエチレン供試材の購入
 密度別に2種類各200m/m×200m/m×2m/m板20枚を三菱油化(株)で試作の上購入した。
(b) 試験方法の検討
 1974年SOLAS条約第<3>章の改正案に記載されている太陽光に対する救命器具の耐劣化性は一行の条文に過ぎないが改正原案提案国であるアメリカ、ノルウェーの両国は何れも暴露試験に相当の関心をもって実施している国々である。国際的な統一には、関連のデータ蓄積の上寄与することとし、「屋外暴露試験方法通則(JISZ2381)」による暴露試験の方法、及び暴露試験終了後の供試材の物理試験の方法を委員会で検討し決定した。
(c) 供試材の試験
イ. 暴露試験
 試験の種類は直接暴露試験とし、環境因子測定記録装置等により気温、湿度、風雨紫外線、日射量、降水量、海塩粒子量、降下ばいじん光化学オキシデント、いおう酸化物等の因子を測定し月刊記録とする。
 本試験は、半年経過、1年経過、2年経過、3年経過、4年経過の5回にわたり実施する。本年度は半年経過の暴露試験を実施、供試材を回収した。
ロ. 物理試験
 試験の種類は外観試験、引張試験、圧縮試験、曲げ試験及び衝撃試験の5種類である。
 本年は物理試験として暴露試験前の供試材及び暴露試験半年経過後の供試材に対し、計2回実施した。
(d) 試験結果及び検討
 一般的に材料が屋外の環境下にさらされる場合「劣化因子×暴露時間」で材料劣化が進行され、初期の性能を保持することは出来ず、ついには破壊の終極に至る。
 高分子材料の劣化因子は熱、紫外線、及び水等といわれ、それらは複合因子として暴露材料に蓄積される。暴露初期では材料が受けた諸因子の絶対量は少なく、かつ滲透は材料の表層に止まるが、経年毎に諸因子の増加及び内部浸入によって物性値に大きな影響を与える結果が予想される。
 本試験は暴露試験が開始されたばかりで経年変化の傾向を把握するまでには至らないが主な点について結果から検討した。
イ. 主要因子を日本ウェザリングテストセンター測定表の資料より整理すると次のとおりである。
(イ) 日射量
半年間の紫外線量   172,19MJ/m2
 〃 の可視線量  1351,12 〃
 〃 の赤外線量  1087,58 〃
観測日数は181日であり、日射量の最も多い月は5月であった。
(ロ) 気温等
最も高い気温、湿度の月 8月
平均気温、24.6° 平均相対湿度92%
気温差の最も大きい月  5月の7.8℃
〃  最も少い月   7月の5.4℃
(ハ) 降水時間、降水量
降水時間の合計     634.79時間
降水時間の最も多い月  9月  114.74時間
 〃  の最も少い月  8月   57.09時間
降水量の合計      943.9mm
降水量の最も多い月   9月  10.1mm
降水量の最も少い月   9月   2.3mm
ロ. 経年による物性値の変化
 本試験は前述のとおり試験を開始したばかりであるが、得られた結果から若干の検討を加えた。
(イ) 色の変化
 現在、救命器具の表面は最も見易い色として赤橙色が使用されている。各供試材の保存品と暴露試験半年経過後の供試材の表面色を比較する。
○ ポリエチレン材のEH30、BX50Aは共に色の変化はなかった。
○ FRP材のHU、SMCは変色が大きく認められた。本材については変色防止処理の対策を講じ、「経年による色変化の規定」を検討する必要がある。
(ロ) 強度変化
 C. ロ.に示す2回実施した物理試験の比較検討である。
○ FRP材
HU供試材  SMC供試材
引張強さ  113%      95%
曲げ 〃   130〃     100〃
圧縮 〃   104〃     110〃
衝撃 〃   124〃     86〃
HU供試材は何れも原強を上廻る値であったが、SMC供試材は曲げと圧縮だけが原強を上廻った。
○ ポリエチレン材
EH30(低密度) BX50A(高密度)
引張強さ  99%      97%
曲げ 〃  120〃     110〃
圧縮 〃  104〃     95〃
衝撃 〃  132〃     71〃
EH30供試材では引張強さのみ原強を少々下廻り、BX50A供試材で曲げ強さのみ原強を上廻った。
■事業の成果

認定物件及び型式承認物件は、国の安全検査の要件に適合することはもとより、需要構造や使用環境の変化、または要求品質の高度化に対応していく必要があり、加えて国際競争力においても優れたものでなければならない。本事業はこの観点より材料の新利用技術、救命器具材料の耐航性に関し調査研究を行ったものであるが、それぞれ高分子材料の船舶用品へ利用による機器重量の軽減、コストダウンおよび経年劣化の実態等を明らかにすることができ、今後の船舶用機器の品質の向上に寄与するものである。





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