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■事業の内容

イ. 装置の構成
 本装置は、空気中の酸素を自動的に濃縮して取り出し、医療用酸素として従来の高圧ガスボンベの代用として使用するもので、その原理は結晶状アルミノシリケートを主成分とするモルデナイト系ゼオライトを使用し、本剤が酸素よりも窒素を多量に吸着する差を利用して、大気よりも酸素の富んだ医療用酸素ガスを得るものである。
 この原理を実現すると共に、本開発装置が、特に実際の臨床の場で容易に扱えることを重視し、以下の諸点に留意した。
[1] 医療用として安定した純度の酸素ガスを発生する。
[2] 各種監視装置、安全装置が完備し、長時間運転に耐える性能を有する。(安全性、耐久性)
[3] 患者が一人で容易に扱え、操作性の良いものとする。
[4] 緊急時でも運転開始後、直ちに所定の吸入酸素が得られる。
[5] 騒音ノイズの発生が小さい。
 以上の点をふまえ、装置は以下の5部分より構成された。
(1) 圧縮機ユニット
 装置に圧縮原料空気を供給するもので、往復動の小型圧縮機を使用した。
 附属品としてモーター、吸込フィルター、安全弁、アフタークーラー、脈動防止タンクから構成される。
(2) 吸着筒ユニット
 原料空気より酸素ガスを濃縮するための吸着剤を充填した固定層吸着筒の部分であり、吸着筒はA、B2筒より構成され、A筒の層に圧縮空気を流通させ、除湿された濃縮酸素ガスの取り出しを行う。A筒が窒素で飽和状態となると、B筒に切り換え、A筒は大気圧に減圧して水分、窒素分を離脱再生する(いわゆるプレッシャスイング方式:PSA方式)このようにして濃縮酸素ガスを連続的に発生させる。
(3)操作回路、警報回路(自動制御装置)
 PSA方式により、本装置から自動的且つ連続的に濃縮酸素を取り出す操作回路であり、本装置は特に立上り性能の良い酸素濃縮装置として開発製作した。
(4) 製品ガスのモニター
 患者が吸入に使用する製品ガスの酸素濃度、流量の測定を行う。
(5) 吸着筒再活性化装置
 吸着剤の前処理ないし再活性化を行う装置で空気圧縮機、PSA式乾燥器、ヒーター、再活性化筒より構成される。
性能目標
[1] 僻地型として比較的大容量の発生を目的とし、空気供給部と酸素濃縮部をセパレート型とした。空気供給部(圧縮機容量)を大きくすることにより、比較的酸素流量の大きい性能のものが製作できる含みを持たせた。
[2] 医療用普及型
 騒音や振動が少なく、保守が容易で迅速簡便に使用に耐えるものとし、そのためには長時間休止後の立ち上り性能の安定と迅速、自動監視警報装置の改善を研究した。
[3] 家庭用酸素吸入器
 家庭で酸素吸入を随時必要とする慢性心肺疾患患者の要求に耐えるものとし、そのためにはO2濃度を一定範囲内に抑えて全自動化、低廉化・そして堅牢安全なものとする。
ロ. 装置の試作、調整
(1) 圧縮機ユニット
 このユニットは、無給油圧縮機にて大気圧より空気を取り入れ、PSA方式に必要な圧力(2〜3Kg/cm2G)を供給する。供給空気量はO2発生量(純O2換算)の12倍の能力を基準として選定した。
 圧縮機は騒音発生の原因となるため型式の異なる圧縮機(往復動型、回転ファン型、ダイヤフラム型)について騒音測定をした結果、
騒音レベル 風量 圧力 耐久性  PSAへの適否
往復動型    中〜小   中  大   大     適
回転ファン型   小    大  小   大   圧力が不足
ダイヤフラム型  大    小  大   小   騒音が大きい
 従って、往復動型無給油圧縮機を使用した。圧縮機の風量、圧力の制御は安全弁により実施し、又、電源は一般家庭用100Vの電灯線に接続出来るものとした。
(2) 吸着筒ユニット
 このユニットは、モルデナイト系ゼオライト(商品名ゼオハープ)を充填した2本の吸着筒(例えば12.3cmφ×85cm)電磁弁オリフィス付逆止弁にて連結させ、圧力は平均約2.7Kg/cm2Gとし、タイマーの切換えを可変として5秒〜3分までの設定によりPSA工程を組み立てた。
 本装置で試作したPSA工程は、
[1] 吸着工程  A筒に圧縮空気(2.7Kg/cm2G)が送り込まれ、水分、窒素分子がゼオライトへ選択的に捕捉され濃縮された酸素ガスは筒の中を通過して製品ガスとなる。
[2] 減圧工程  A筒に前の工程で高圧で飽和している窒素の圧力を下げる。高圧のもとで捕えられていた水分、窒素分子は解放され、装置外に放出される。
[3] パージ工程 次いでA筒に製品ガス(濃縮O2ガス)の一部をオリフィスと電磁弁の作動により逆流させ、吸着剤に残っているN2ガスや水分を清掃効果により系外に放出させる。
 標準となる工程サイクルは、吸着60秒、減圧20秒、パージ40秒とした。これをA、B2筒交互に繰返す。
 この条件のもとに装置の性能をテスト調整した結果、影響を与える要素は、PSA工程サイクル、パージ工程におけるO2ガスのパージ量、吸着剤の活性度等がある。これらの値は試作した3台について夫々に異なる個性を示すものであるが、一旦条件を固定すれば安定した性能を確得できた。この最適の条件における性能が装置の仕様を表すものである。装置の仕様を表わす一つに流量の関数としての酸素濃度を示すことが必要であるので、本装置では圧力調整弁と流量調整弁を設け、その変化を測定した。
ア 1号機(僻地型)
 本装置は、セパレート型として圧縮機ユニットと吸着筒ユニットより構成される。
(ア) 圧縮機ユニット
 患者に騒音負担がかからないように本体(吸着ユニット)から切離し、又移動しやすいように台車付のパネルBOXに収納した。塗装はアイボリ系白色とした。
 高さ517mm幅446mm奥行560mm重量約50Kg
(イ) 吸着筒ユニット
A. 本機は吸着筒を中心に、電気操作回路、酸素濃度計、O2バッファタンク及びPSAプロセス切換電磁弁、減圧弁、サイレンサーをパネルBOX中に収納し、患者が操作しやすいように前面に起動スイッチ、酸素濃度指示計並びに流量計付給湿器を取り付けた。吸着筒は吸着帯の長さより85cmとし、圧縮空気の除湿機能も含め吸着剤を選定した。
 電磁弁は切替作動の際の騒音を柔らげるため駆動部にテフロンを使用した。PSA方式は本質的に圧力スイングによって酸素を発生させるものであるから、圧力変動に伴う流量変動を避けるため出口側にO2バッファタンクを設けたが、尚、流量は6l±1.6l/min(O254%)5l±1.4l/min(O259%)と約25〜30%の変動があったので出口に減圧弁を設けた。これによりこの流量変動は全く無くなった。
 又、出口に0.2ミクロンのフィルターを設置し塵埃、細菌の混入防止のための効果を得た。
 塗装はアイボリ系白色とした。
 高さ1,095mm、幅450mm、奥行480mm、重量約100Kg
B. 性能   流量   純度
1l/分   90%
3l/分   77%
5l/分   59%
7l/分   49%
9l/分   42%
騒音 本機の騒音源はPSAプロセスによるパージ音と電磁弁の切替音である。パージ音防止のため吸音型サイレンサーを設置し測定した結果、機側1mにて61デシベルであり、2号機での改良の余地を残した。
イ 2号機(医院普及型)
A. 本装置は圧縮機と吸着筒及操作回路等全てを台車付パネルBOX中に装置した。装置全体の機能は1号機と同じである。塗装はアイボリ系白色とした。
高さ1,095mm、幅480mm、奥行480mm、重量約125Kg
B. 性能  2号機では1号機に較べて約1割増の性能が得られた。
 騒音  本機はパネルBOXの開口部を小さくし、又、圧縮機の排気はフレキシブルダクトを通して行うようにしたので、機側1mにて57デシベルとなり成果が得られた。
ウ 3号機(家庭用)
A. 本装置は家庭で酸素吸入を随時必要とする慢性心肺患者や、将来アスレティククラブや一般家庭での医療用、保健用として簡便に取扱えることを条件に製作した。そのためにはO2濃度を一定範囲内に抑えて高濃度酸素による火災の危険や酸素中毒を防止するため、O2濃度を40〜60%、流量を4〜6l/分に固定することを目標に製作した。
又、1号機、2号機に較べて小型化、堅牢化した。
塗装はライトブラウン色とした。
高さ820mm、幅550mm、奥行490mm、重量約90Kg
B. 性能は初期の目標に合致した。騒音は機側1mにて55デジベルである。
(3) 操作回路、警報回路(自動制御装置)
A. 本装置は医療用として要求される小型、清粛を維持しつつ、また耐久性に優れ、しかも長期間停止の後でも起動後安定した酸素供給をなし得るいわゆる“立上り現象”のよい装置として機能させるためにさらに種々の工夫がなされた。
 先づ、電気的配慮として起動スイッチを押すと圧縮機冷却ファンが回転し、同時に電磁弁も励磁されてPSAプロセス(吸着、減圧、パージ)を繰返えす。このとき運転保持リレーの閉接点が働き、タイマーの設定時間を吸着60秒、減圧20秒、パージ40秒とすることにより、A吸着筒が吸着プロセス、B吸着筒は減圧、パージプロセスに作動する。この状態で、吸着筒は濃縮酸素を安定に生成するとともに、吸着筒は吸着剤の再生作用を行いこのサイクルを交互に切換えることにより効果的に吸入酸素を発生することが確認された。
B. 立上り性能の確認装置を停止したとき、遅延タイマーの働きによりB吸着筒(或いはA吸着筒)の再生作用が終るまで運転は継続し、その間濃縮酸素の出口側電磁弁が閉止するため、酸素貯め(O2バッファタンク)に酸素が圧入された状態にて装置が停止するよう実施した。
 装置が停止したとき、全ての弁は自動的に閉止し、外気と遮断された状態である。長時間停止後に再起動した結果、運転開始後直ちに所定濃度の酸素が得られることが確認された。
C. 警報回路
 警報回路は、本装置使用中の異常現象について表示するものである。
 異常現象としては、
1) 運転中に装置の全部又は一部が作動停止した時
2) 内部圧力の異常上昇
3) 内部温度の異常上昇
4) 酸素濃度の規定値外供給
などについて検討を実施し、試作した。
D. 電源は家庭用100ボルト単相交流とし、50/60Hz切替装置を設けた。
(4) 製品ガスの分析
 本装置は患者環境下で使用する医療用機器であるので、そこから発生する濃縮酸素ガス中の組成は患者の健康上無害であることが必要である。又、患者が吸入する製品ガスの酸素組成が規定範囲内にあるかを確認することも欠くべからざる要件となるので、次の分析を行った。
ア. 不純物の分析
 本装置から発生する製品ガスを日本薬局方に規定された試験方法により不純物の分析を実施した。
酸アルカリ〜メチルレッドとフロムチモールプルーの混合試薬に0.01N塩酸により比色液を作り、製品ガスを30分間通した結果、検出されなかった。
二酸化炭素〜水酸化バリウム試液と炭酸水素ナトリウム試液による比色液を作り、製品ガスを15分間通した結果、検出されなかった。
酸化性物質(主として水に溶けて酸を生ずる窒素酸化物等)
〜ヨウ化カリウムデンプン試液に氷酢酸1滴を加えた試液に製品ガスを30分間通した結果、検出されなかった。
ハロゲン〜硝酸銀試薬に製品ガスを30分間通した結果、検出されなかった。
 以上の結果、本装置から発生する濃縮酸素ガスは日本薬局方に規定されている上記有害不純物が規定値以下であることが確認された。
イ. 酸素濃度の分析
 本装置から発生する濃縮酸素ガス中には必らずアルゴンと窒素ガスが混合している。これはゼオライトによるPSA方法では空気中のアルゴンと酸素を分離することが難かしく、酸素含有量を2倍にすれば含まれるアルゴンも必然的に2倍になる。発生した製品ガスをガスクロマトグラフ、質量分析計により分析し、最高90%の酸素ガスが得られ、残りは約4%のアルゴンと約6%の窒素であった。
 実際の吸入にあたっては長く純酸素を吸わせれば酸素中毒が問題になるので、100%酸素が吸入に適することは少なく、大体は40%位から病状に応じて60%、70%の酸素が肺に吸入されるのが一番適しているので、本装置ではO2濃度を流量の関数として調節するようにし、酸素濃度計を組み込んだ。
 酸素濃度計は特殊セラミックによる固体電解質の酸素濃淡電池を検出セルとしたものを、特に本装置に組み込むことを目的に開発した。目盛範囲は20〜100%O2、サンプル圧力0.3〜0.6Kg/cm2、精度は±5%FS以内、応答時間約10秒(ガス入口よりの90%応答)とし、供給電源は60Hz/50Hz共用の100ボルトとした。本酸素濃度計は、検出発信器、出力調整用プリント板、指示計よりなり、指示計はパネル正面に取り付けた。この濃度計のサンプルガス量は特に節約できるものとし、従来の500cc/minを80cc/minに減らした。
(5) 吸着筒再活性化装置
 吸着剤に水分や炭酸ガスが吸着していると、酸素発生能力が著しく低下することを実験テストにて確認した。このため、300〜350℃の温度で活性化する装置を製作した。この装置は吸着剤が吸湿したとき吸着筒に充填のまま簡単に再活性化できるものとして、1つのフレームに組み込んだ。
 装置は、無給油圧縮機(2.2KW、風量170l/min)、PSA式乾燥器、ヒーター(2KW)及び再活性筒より構成し、装置の外観及び形状は高さ1,615mm、幅900mm、奥行1,000mm、総重量約200Kgとした。
■事業の成果

医療用酸素の需要は救急蘇生時、ショックの治療、術中術後の患者管理など益々増大し、病院での医療用ガス配管(いわゆるパイピング装置)も著しく普及してきた。しかし、酸素の吸入が必要な緊急事態は家庭でも末端の医療現場でもあるいは遠洋航海の船舶でも何時どこでも起りうるのでいざという時に充分間に合うだけの酸素供給を確保することは実際上大変困難である。又、従来の酸素の供給形態である高圧ボンベは不慮のガス欠、ガス洩れ、連結不良など不安があり、高圧ガス取締法による3年毎の法定検査やボンベ交換などの煩わしさもあり、滅多に使用しないところほど、備えが不備になり勝ちである。さらに酸素は体の内での貯蔵がきかず、必要なときに数分間切れれば後でいくら投与しても脳死のような不可逆性変化を招くことは明らかなことである。つまり、酸素は最も生命に直結する薬であるのに、貯蔵、運搬、適切な投与が最も難かしい薬剤である。
 ところが酸素は大気中に21%あって、平素は誰でも吸入しているのであるから、緊急時には病状に応じてこの酸素濃度を適宜現場で上昇さして吸入に使える装置があれば便利である。
 この目的のため、家庭用電源のみで所要の酸素濃度吸入ガスを即座に得ることが出来るようにしたのが、今回開発した医療用自動酸素濃縮装置の成果である。
1. 本開発装置の技術的、臨床的な特徴・利点を挙げる。
(1) 吸着技術の確立
 本装置に使用した吸着剤は国産の天然ゼオライトを化学工程を経て精製された典型的なモルデナイト結晶構造を有しており、耐熱、耐アルカリ、耐酸性が強く、機械強度も大きい。
 窒素-酸素分離能も本装置の性能を十分満足するものである。
(2) 本装置で得られる製品ガスには約5%までのアルゴンガスが含まれているが、塵挨、細菌は除去されており、長期吸入しても生体への影響がないことを動物実験にて確認している。
(3) 今迄、難点とされていた立上り性能安定のため種々工夫が施され運転開始後直ちに所要濃度の吸入酸素ガスが得られること。
(4) 操作面は起動スイッチ1つで吸入酸素ガスを発生し、取扱いが極めて簡単で、医師や看護婦、附添いなどが一人で充分扱いうること。
(5) 本装置は可搬型で手術室、病室のベッドサイドへ搬送可能であること。
2. 性能
 次の吸入酸素の発生が可能である。
(1) 酸素純度  40〜90%
(2) 流量    2〜15l/min
(3) 騒音    55デジベル
3. 臨床的展望
 このような装置はこの2,3年間米国では急速に普及しつつあるが、これは慢性気管支炎、喘息、肺気腫、心臓病など老人慢性病の家庭療法が行き渡っていることである。
 更に重要な因子として、
[1] 人口密集地帯、特に高層アパートに高圧ボンベを持ち込めないこと。
[2] 米国では老人医療保証による治療にこの酸素濃縮装置が採用されていること。
[3] 呼吸療法士のサービス網及びメーカーのアフターサービス網が行きわたっていること。
[4] ANSI(米国規格協会)の“医療用酸素濃縮装置に関する分科会”により積極的に規格が検討されていること。
 などが挙げられる。我が国でも一般の呼吸器系患者の数は米国に劣らないので、今回開発研究した試作機の如く純国産で我が国の実情に合ったものを開発しておけば将来普及が容易であり、又、遠洋航海の船舶や離島にも酸素供給の難点が解決されることが期待される。
 今回の試作機は試用治検の結果、十分実用に耐えるものとしての成果が得られたが、今後更に装置性能の改善を進めるため、各部品のハード的な研究開発を進めて、医療用だけでなく、家庭用、アスレティッククラブなどにも普及することが期待できる。





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