|
《担い手を「官」から「民」へ》
行財政改革の柱の一つである公益法人制度改革3法案が先ごろ、国会で成立し、新たな非営利法人制度が2008年からスタートすることになった。明治以来、100年以上続いた「官」による公益独占を見直し、その担い手を「民」へ移す改革として評価したい。 税収を基に国や自治体が教育から医療、福祉サービスまですべての公共サービスを行う時代は終焉(しゅうえん)を迎えつつある。小さな政府の下、民が公益の一翼を担い「公」(パブリック)の精神を発展させていくことこそ、健全な市民社会を定着させていく上でも不可欠だ。寄付文化の育成に向けた税制面の改革など引き続き取り組むべき課題は多い。 一口に公益法人といっても民法上の財団法人、社団法人、中間法人(マンション管理組合、同窓会等)から宗教法人、学校法人、医療法人など範囲は広い。今回の改革の対象となる財団法人、社団法人は110年前の明治時代に制定された民法で規定され、現在約2万6000団体に上る。 当時は産業資本も弱く、欧米列強に追いつくためには国づくり自体が官主導にならざるを得なかった。しかし時代の流れの中で国力は増し社会構造も大きく変化した。1世紀以上も前の規定をそのまま持ち続けることに無理がある。役割を終え、組織温存だけを自己目的とする団体も目立ち、「官の天下り」「補助金の無駄遣い」といった批判が出たのも無理はない。遅すぎた改革の第一歩といえなくもない。
《発想自由に活動範囲拡大》
改革のポイントは2点に集約される。まず窓口の拡大。要件を整えて登記すれば誰でも設立できるようになる。非営利活動に参加する意欲が増し、主務官庁の監督・指導がなくなることで、官とは違う民間の自由な発想で活動の範囲も拡大しよう。 次いで税制優遇を行う際の認定。民間の有識者らで構成する「公益認定等委員会」が公益性を認めた団体だけが税制優遇を受ける。現行制度では主務官庁の許認可という厳しい要件の下で設立が認められる半面、いったん設立が認められれば公益性は担保されたとみなされ、ほぼすべてが税制の優遇措置を受ける。 難しい入学試験をパスすれば、ほぼ卒業が保証される大学と同様、これでは設立後の活動が精彩を欠く。公益性のハードルを高くすることで、設立後の活動の活性化、充実も期待できる。 さらに公益の判断が民間に委ねられることで解釈にも幅が出よう。官が考える公益だけが、公益のすべてとはいえない。そのためにも認定等委員会の人選や権限、運用に関しては民意が十分に反映されるよう配慮する必要がある。運用を誤れば、主務官庁による許認可主義廃止の趣旨が失われ、民の参入意欲をそぐことにもなりかねないからだ。 21世紀は民間が行う公益活動を社会、経済システムの中に積極的に取り込むことで、社会の活性化を促進する時代である。そのためには税収を基にした公共事業、インフラ整備、行政サービスなど官が行う公共サービスと民が行う多彩な非営利公益活動を両立させる必要がある。 社会は今後、急速なテンポで変わり複雑さも増す。官の硬い発想だけでは対応できない。社会秩序を維持する上でも、柔軟な発想で小回りが利く民の参加は欠かせない。 それを支える財源として企業や個人の寄付が果たす役割も大きい。寄付免税など税制面の一層の検討が不可欠である。 CSR(企業の社会的責任)を促進する方策の検討も必要になろう。今後は政府・自治体と公益法人改革による民、CSR活動の3つが一体となって成熟した社会をつくる時代である。
《歴史的な大改革の側面も》
戦後民主主義の欠陥のひとつとして、権利意識の強さの半面、責任意識の薄さが指摘される。「公」の意識の希薄さから派生する自分主義、利己主義が社会の混乱の一因ともなっている。「公」の意識こそ健全な市民社会の基本であり、これが実現して初めて成熟した市民社会への道が開ける。 今回の公益法人改革は行政改革推進法の陰に隠れ、今ひとつ注目されていないが、歴史的に官が独占してきた公益を国民も分担する点で、国の統治システムにかかわる大改革となる。 第一歩を踏み出した今回の改革を実効ある制度とするためにも、悪化する国や自治体の財政改革と併せ、新しい国の仕組みを本格的に見直す時期に来ている。 (ささかわ ようへい)
|
|
|
|