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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: 『忍耐と継続』の精神で  
コラム名: 『私の信条』 第173回  
出版物名: PHP研究所  
出版社名: PHP研究所  
発行日: 2006/11  
※この記事は、著者とPHP研究所の許諾を得て転載したものです。
PHP研究所に無断で複製、翻案、送信、頒布するなどPHP研究所の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   “十年木を植える、百年人を育てる”と言いますが、優れた人材は一朝一夕に育てられるものではありません。日本財団では「世界各国の人材を育てる」ことを目標に、世界45ヵ国69の大学に対する奨学基金制度をはじめ、中国の医師を毎年100人、日本で研修させる事業は、19年にわたって続けてまいりました。そこで感じるのは、人材を育てる上で大切なのは「お金を出す」ことより「こちらの顔(誠意)を見せる」ことです。奨学金を海外に送り、留学生に大学を斡旋すればそれでおしまいではなく、機会を見つけては学生たちに会い、励まし、定期的に主任教官に留学生の様子を尋ねるなど、その後のフォローがもっとも大事なことなのです。

 そのような中で私が自分に求められていると感じるのは、『忍耐と継続』に他なりません。現在では財団の奨学基金制度で学んだ学生の中から大臣や国会議員も多く輩出し、貴重な世界的ネットワークができ上がりました。これも財団挙げての『忍耐と継続』の精神があったからなし得たことだと自負しております。

 父の代から受け継いでいる「ハンセン病制圧」の活動も、すでに35年に及びます。平成7年、96歳で亡くなった父・笹川良一は、若い頃、心を寄せていた美しい娘さんがハンセン病にかかり、悲嘆のあまり家出し行方不明になったことに衝撃を受けました。「恵まれていない人に対し何ができるか」を常に考えていた父は、他にも悲しい、不自由な思いをしている人が多くいるのではないかと考え、生涯をかけてこの病気と戦うことを誓ったのでした。その遺志を受け継ぎ、私たちは世界中でハンセン病制圧を進めてきましたが、中にははじめから制圧を不可能と思っている国も多いのです。そんな状況下で求められるのは、やはり『忍耐と継続』なのです。ハンセン病蔓延国のインドには、2年半で17回の訪問を重ねました。国の要人に会って努力を促し、メディアを通して撲滅を訴えかけ、現場の人たちをねぎらう活動を続けるうちに、その努力は次第に実を結びはじめました。誰もが不可能と思っていたインドで、奇跡が起こったかのようにハンセン病は制圧されていったのです。忍耐強く説得し、それを継続していくうちに、インドの人たちもこちらの強い意志を感じとり、それが社会変革にまで高まっていった結果でした。

 一方、今、国内で取り組もうとしているのが、日本人の美徳である“もったいない”の精神を形にする活動です。“もったいない”と一口に言っても、「物がもったいない」から「命がもったいない」まで、さまざまな“もったいない”が存在します。現在、財団でいかなる取り組みができ得るか模索していますが、すでにはじめているのは、老朽化した建物や公共施設などを改修して、福祉施設や介護センターなどとして再利用するプロジェクトです。その基本にあるのは、何億円もかけて郊外に福祉施設を新築し、町の中心にある既存の建築物を使わないのは“もったいない”という精神なのです。同時に、市街地の建造物を福祉施設にすることで、「老人も障害者も健常者も、みな一緒に生活できる理想のコミュニティ」の実現に一歩近づけるのではと考えています。

 スタートを切ったばかりのこの事業においても、世界中のNGO活動で培った、私たちの『忍耐と継続』の信条を高く掲げ、社会づくりの新たな潮流として大きく貢献するときが来るまで、根気強く取り組んでいきたいと思っております。
 



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