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4月から6月にかけ太平洋島嶼国を舞台にした中国、日本、フランス主催の首脳会議が相次いで開催された。米国と旧ソ連が覇権を争った冷戦時代に逆戻りした観さえある。しかし島嶼の国々は「南海の楽園」のイメージとは逆に国土、人口、国内市場とも小さく国としての基盤は未整備の段階にある。
島嶼国が国家として自立・発展するためには、各国が自助努力で援助依存体質を脱却する必要がある。同時に援助国も島嶼国の目線に立ち、その自主性を尊重すべきであり、大国の論理を押し付けるべきではない。NGO(非政府組織)も参加したきめ細かい支援こそ必要である。
一連の会議では、まず中国が4月、太平洋諸島フォーラム(PIF)加盟の14カ国・2地域のうち、外交関係のある6カ国首脳をフィジーに集め初の「経済開発フォーラム」を開催。30億元(約440億円)の借款供与、2千人の政府職員を対象にした人材育成など向こう3年間の支援策を打ち出した。日本も5月、PIF全加盟国の出席による「第4回日本・太平洋島嶼国会議」で従来のODAを5割近くアップ、総額450億円の3ヵ年無償資金協力を発表した。
同時に豪州、ニュージーランドと共同声明を発表し両国との連携強化を確認した。フランスもPIF加盟国と仏領3地域の首脳が出席した「第2回フランス?太平洋首脳会議」で太平洋地域での核実験(96年)以来、冷え切っていた豪州、ニュージーランドとの3ヶ国協力の枠組みを復活・強化する姿勢を打ち出した。
日本主催の会議を見る限り、人材育成から運輸、情報通信、エネルギー、水産などのインフラ整備、廃棄物処理など環境保全、教育まで広範なテーマが議論されている。しかし全体で見れば、中国が台湾の影響力に対する牽制と日本の国連安保理常任理事国入り阻止に向け、島嶼国が持つ国連の議席を視野に入れているのは間違いない。日本やフランスなど4カ国の新たな動きも中国の攻勢に対する警戒感の表れである。
しかし、そうした大国の論理は、島嶼国にとって現実感を欠く。各国は1960年代から80年代にかけ相次いで独立したものの、国としての基盤整備が遅れ、旧宗主国や各国の政府開発援助(ODA)に頼っているのが実情である。
産業が未発達のため国民の半数が職を求めて豪州やニュージーランドに移住し、深刻な人材不足に直面している。これでは国として成り立たない。日本のODAで各地に建設中の学校も肝心の教師の確保に目途が立たない状態だ。
日本財団と笹川平和財団は88年、政府に先立って初の島嶼国会議を開催。以後、南太平洋大学(本部・フィジー)を中心に教育支援を進めているが、世界でも有数の多言語地域だけに統一教材を作るのさえ困難な状況にある。
このほか地球温暖化による海面上昇、サンゴの保全問題もある。世界で最も小さな国のひとつであるツバルは標高の最高点が5?しかなく水没が現実的な危機となりつつある。特定の国ではなく世界の国々の知恵と協力が急務である。
そうしたメッセージが島嶼国からさらに強く発せられるべきで、PIFも2005年の年次首脳会議で「より強く繁栄した太平洋地域」の建設に向け、パシフィック・プラン(太平洋計画)をまとめた。
しかし各国のODAは都市部や特定の個人に偏る傾向にある。基盤の脆弱な島嶼国のガバナンスを考える上でも好ましくない。支援は何よりも島嶼国の自立に重点が置かれるべきだ。その上で島嶼国は「まず援助ありき」ではなく、それぞれの実情を踏まえ援助を公平、有効に活用することが重要だ。それが援助依存体質から脱却する道につながる。
近年、島嶼国にはグローバル化の波が押し寄せている。特に90年代以降の経済発展に伴う中国の所得向上と流通面での冷蔵・冷凍設備の普及が、海の魚に対する需要を爆発的に増加させている。バヌアツでは中華料理の高級食材であるナマコが取り尽くされ姿を消したと聞く。日本が80?を消費する中西部太平洋の黒マグロ資源の枯渇も現実化しつつある。 難問山積の現状にどう取り組むかー。日本には幸い、団塊の世代が大量退職時代を迎え、優秀な技術を持つ人材が豊富にある。戦後一貫して相手国の自主性を尊重して技術協力を進めてきたアジアでの経験もある。さらに島サミットが開催された沖縄は島嶼国と多くの共通課題、中国との長い交流の歴史を持つ。
繰り返し言えば、島嶼国の自立と発展には各国の自助努力が何よりも先行すべきである。その上で日本も沖縄をベースにシニア世代を活用して将来の島嶼国をリードする多彩な人材育成を進めるべきである。島嶼国に多く住む日系人や華僑の人々の知恵も大いに役立つと確信する。 (了)
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