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著者: 高木 恵  
記事タイトル: 繊維リサイクル船事始め  
コラム名: 海洋ニッポン  
出版物名: 日本海事新聞社  
出版社名: 日本海事新聞社  
発行日: 2006/01/25  
※この記事は、著者と日本海事新聞社の許諾を得て転載したものです。
日本海事新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど日本海事新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
  夢は、大海原を巡る擬木クルーザー

 2005年1月、底冷えのする京都宝ケ池で、繊維廃棄物を材料にした擬木船Fibro号の進水実験があった。Tシャツにして700枚分、重量にして70キログラムの古着を原材料にして加工された擬木を使い、全長3.6メートル、定員10人の手こぎ船である。
 素材開発、設計そして造船まで、京都工芸繊維大学大学院の木村教授と旧神戸商船大学(現神戸大学海事科学部)の松木名誉教授の指導を受け、研究会メンバーと大学院生、兵庫県立武庫荘総合高校の生徒など延べ150人が、船大工の手を借りず休日返上で取り組んだ成果であった。みんなには大海原を巡る船への夢があった。

 わが国の古着や繊維工場から出る繊維廃棄物は年間約200万トン、うち中古衣料などに再商品化されるものは約8%にすぎない。残りは一般・産業廃棄物として埋め立て・焼却処分されている。日本繊維機械学会の織維リサイクル技術研究会が着目したのが、産業廃棄物として処理される故繊維を使った木材代替材料としての擬木材の開発であった。
 現在、乱伐が地球環境上、大きな問題となっている。4年前から始まった擬木材開発では、まず繊維廃棄物をほぐして繊維そのものに戻し、ポリプロピレン樹脂系の人工織維を重量比で約40%混入。さらに上下から加熱・圧縮・冷却しながら成形する。この新たなエ材は、使う方向によって強度の差が少なく、表面付近は硬く中心部分が柔らかいベニヤ板に似た特性を持っている。03年3月時点では、建築用型枠や梱包材としての活用が可能であることが確認されていた。

 04年4月、日本財団の助成を受け、この擬木を木造船やFRP(繊維強化プラスチック)船に替わる新しい造船材料とするための研究がスタートした。そして、鋸や鉋が使え、くぎ打ちなどの加工も可能な杉材にきわめて近い性質の擬木が開発された。実験船Fibro号の誕生である。
 耐水性にも優れており、当初懸念された浸水の心配もなかった。繊維による擬木材は、希少な木材に対して多量に同じ性質の材料を生産でき、原料の配合や成形時の圧力で強度の調整ができる利点もある。また木材と同様に焼却処分ができる。
 良い事ずくめに見える擬木材であるが、その前途には3つの課題が残る。1つは生産コストである。現段階では天然木材より割高である。2つ目は素材の重量であるが、いずれの課題も今後の技術開発により解決可能であろう。
 3つ目の課題は、造船、素材としての社会的認知である。先に宝ケ他に浮かんだ実験船が船大工の助けを借りずに作られたと書いた。正確には断られたのである。訳の分からない素材を使うことは伝統的職人芸を汚すことであり、こけんにかかわるのである。どこの世界も先駆者は厳しい思いをするのが習わし、じっくり時間をかけて評価を得ていかざるを得ない。
 今ひとつ触れておきたいのは、造船材料としてのFRPの存在である。これまで難問とされてきたFRP廃船リサイクル計画が日の目を見た。海洋スポーツ分野では、今後ますますFRPの需要は増すであろう。擬木にとって、最大のライバルはFRPであるが、擬木材の長所である温かみと重厚感のある素材は、スポーツ船舶用材としては十分太刀打ちできるのではなかろうか。

 05年度に新エネルギー・産業技術総合開発機構からの助成を受け、擬木の技術開発プロジェクトは今も継続中である。わが国初の繊維リサイクル船の進水実験からちょうど1年。プロジェクト立ち上げにかかわった一人として「大海原を繊維リサイクルクルーザーで」との夢は、そう遠くない将来に正夢になると確信している。
 



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