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著者: 山田 吉彦  
記事タイトル: 日本の国境  
コラム名: 特集 我が国をとり巻く海洋の諸問題  
出版物名: 月報Captain  
出版社名: (社)日本船長協会  
発行日: 2005/12  
※この記事は、著者と(社)日本船長協会の許諾を得て転載したものです。
(社)日本船長協会に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど(社)日本船長協会の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   私たちの住む国「日本」は、四方を海に囲まれた島国である。日本には、6,852の島(周囲100m以上)があり、海岸線の総延長は、およそ3万3,889kmにもおよんでいる。古代から日本人は、漁業や海外との交易など海と関わりを持ち暮らしてきた。また、仏教、漢字をはじめ、多くの宗教や文化が海を越え訪れ、日本人の生活に影響を与えている。
 日本の領土面積は約38万km2。国土面積では世界で59番目の広さとなる。この中に約1億2千万人の人が住んでいるため、人口密度が高く、日本は狭い国と言われる。しかし、国境線が引かれた世界地図を見ると、実は、日本はとても広い国であることがわかる。北はオホーツク海に浮かぶ択捉島から南は熱帯に属する沖ノ鳥島まで、3,020km。東は太平洋上の孤島・南鳥島から西は台湾に隣接する与那国島まで3,143km。亜寒帯から熱帯まで幅広い気候分布を持ち、同じ国内でありながら、南北間の冬の気温差は摂氏30度にもなる。
 多くの島と長い海岸線は、日本に大変広い排他的経済水域(EEZ:Exclusive Economic Zone)をもたらしているのである。排他的経済水域とは、国際条約により漁業管轄権や海底資源の調査・採掘権、海洋調査の管轄権など経済に係る主権を持つことが認められた海域である。
 日本の排他的経済水域は、約447万km2(領海を含む)あり、世界で六番目の広さになる。この排他的経済水域の海底には、およそ10兆円に上る海底資源が眠っているとされ、海底のメタンハイドレートに含まれるメタンガスの量は、国内のガス消費量の100年分をカバーできると言われている。そのほか、ニッケル、コバルト、マンガンなどレアメタルと言われる鉱物が豊富に存在しているようだ。日本は、将来を支える豊かな海の恵みにつつまれているのである。

日本の国土
国土(領土)面積 約38万km2
領海面積 約43万km2
排他的経済水域(領海含む) 約447万km2

世界の排他的経済水域
順位 国名 面積
1 米国 762万km2
2 オーストラリア 701万km2
3 インドネシア 541万km2
4 ニュージーランド 483万km2
5 カナダ 470万km2
6 日本 447万km2
参考 旧ソ連 449万km2
(72年米国国務省資料)

東シナ海油田開発

 最近の新聞紙面を賑わしている問題に、中国が進めている東シナ海の海底に眠るガス油田の掘削事業がある。2006年早々にも春暁の海底ガス油田からガスの生産を開始する可能性があると指摘されている。春暁のガス油田は、日本の主張する日中中間線から5キロほど中国側に入った海域にある。中国は、春暁のほか中間線から9キロほどの天外天、70キロのほどの平湖でもガス油田の開発に着手している。日中の中間線付近の地質構造は日本側の海底まで続いていることから、日本側に眠る天然ガスまでもが掘削されてしまう恐れがある。05年夏、ようやく日本政府は対抗策として、日本企業に対し東シナ海における中間線付近日本側海域の試掘権を許可している。白樺、樫、楠など掘削予定の油田に日本名が付けられた。
 日本、中国ともに批准している国連海洋法条約において、海底資源の掘削権は、排他由経済水域を持つ国、もしくは大陸棚を認められた国が権限を持つことになっている。東シナ海の海底は、ユーラシア大陸から緩やかに太平洋に向かい傾斜し、沖縄トラフと呼ばれる琉球列島の西およそ100キロ付近で深く落ち込んでいる。中国政府は、この沖縄トラフまでが自国の海洋権益を主張できる大陸棚であると主張している。日本政府は、東シナ海の海底の大陸棚は、日本列島(含む琉球列島)を越え太平洋の海溝で終わっているとの認識から日中間の大陸棚は向かい会う両国の中間線を持って確定するという立場をとっている。そもそも大陸棚の基準が違うのであるから、日中の境界線を引くことは難しい。

 日本は、1996年国連海洋法条約を批准し、同条約にともない日中間の東シナ海大陸棚は中間線をもって境界と考えてきた。国連海洋法条約においては、200海里の排他的経済水域が認められている。日本と中国の200海里は重複するために中間線を持って境界とするという主張である。
 中国は、1998年「中華人民共和国専管経済区および大陸棚法」を制定し、国内法において大陸棚の自然延長を自国の大陸棚としている。排他的経済水域内での海洋調査は、排他的経済水域を持つ国の同意を得なければならないことが国連海洋法条約で定められている。しかし、中国は、我国に断ること無しに東シナ海日本側海域の海洋調査を続けている。中国では、国際法より国内法が優先されているようだ。
 中国は、自国の持つ大陸棚は300万平方キロに及ぶと主張しているが、この面積は、南シナ海、東シナ海、黄海など中国沿岸200海里をすべてあわせても足りない。海洋政策研究財団(東京都港区)が、国連海洋法条約にもとづき試算した結果によると、中国の大陸棚は96万4千平方キロとなるそうだ。試算値の二倍以上の広さの排他的経済水域を主張しているのである。貴重な資源の眠る大陸棚の確保は、私たちの子孫の生活を支えるものである。日本政府は大陸棚確定に関する資料を早急に整え、日本の主張を国際的に認められるための理論を構築しなければならない。沖ノ鳥島は、東京から約1,700kmの南の海上に浮かぶ小島である。沖ノ鳥島は東小島、北小島からなり、その周囲を東西4.5km、南北1・7kmのサンゴ礁に囲まれている。2島あわせて沖ノ鳥島の広さは7畳ほどであるが、この島の周囲には、日本の国土面積を越える40万km2ほどの排他的経済水域が存在する。国連海洋法条約121条では、高潮時(1年で最も潮が高い時)水上にあり海面と接している陸地は島であるとしている。北小島は16cm、東小島は6cm、高潮時も水面上に頭を出し島の要件を満たしている。1987年、建設省(現国土交通省)は、総工費約285億円をかけ、領土を保全するため消波ブロックとコンクリートによる護岸工事を行った。

 2004年4月、中国外務省担当者は、沖ノ鳥島は、国連海洋法条約第121条3項でいう「岩」であり、排他的経済水域を有しないと発言した。同条項では、島と認めるには経済的生活が行われていることが条件とされ、経済的生活がなされていないものは「島」ではなく「岩」であり排他的経済水域は認めないとしている。
 ただし、経済的生活の定義はどこにも書かれていない。アホウドリの糞を集めて肥料として売るだけでも経済的生活とされてきた。
  日本政府は、経済的生活としてコンクリート塗装・金属材料の対波耐久性・対錆性の試験やサンゴ礁の成育調査、気象・海象観測を行い、排他的経済水域の保有を主張している。沖ノ鳥島が日本の領土であることは、いかなる国も異論を唱えていない。沖ノ鳥島の利用については日本の主権の問題である。故に、政府は明確な経済的利用方法を対外的に示す必要がある。政府は沖ノ鳥島民間視察団を派遣した日本財団などの提言を受け、同島における灯台の設置とサンゴ礁の人工培養実験を行う計画を立てている。

北方領土

 2005年11月、ロシアのプーチン大統領が来日したが、北方領土の返還について具体的な進捗は無かった。第二次世界大戦後、旧ソ連に占領され、居住していた日本人が追い出された北方領土の返還は、多くの日本人の願いである。
 日本の領土の骨格は、1951年に結ばれたサンフランシスコ平和条約により国際的に認められている。第二次世界大戦の戦後処理を定めた同条約では、明治維新以降、日本が武力により獲得した支配地域に対する領有権の放棄が求められている。たとえば、朝鮮半島、済州島、台湾、膨湖諸島などである。この条約において竹島や尖閣諸島は日本の領土と認められているのである。また、千島列島も放棄すべき地域に入っているが、択捉島、国後島、歯舞諸島、色丹島の北方領土は、1855(安政元)年にロシア帝国との間で結ばれた日露通好条約により日本領とされている。安政年間、日本とロシアの国境線は、話し合いによりウルップ島より南を日本領と定められている。日本代表団は、サンフランシスコ講和会議の席上で前条約にもとづき北方四島が千島列島に含まれないと主張している。
 現在も北方四島の返還交渉は遅々として進んでいない。日本国内の意見も四島一括返還論と二島先行論のふたつに分かれている。四島一括返還論とは文字通り、奪われた島の全ての一括返還を求めるものである。二島先行論とは、1956年の日ソ共同宣言において、両国の間で平和条約が締結されたならば色丹島、歯舞諸島は返還するとうたっていることから、まずは実現可能性の高い二島の返還を受け、以後の交渉を進めていこうとするものである。
 2004年ロシアのプーチン大統領は、日ソ共同宣言の責務は果たす準備があることを明言している。現在、ロシア政府は、冷戦も終結しており、ロシア国内経済の改善のために日ロの友好的関係をのぞみ、二島返還を打ち出している。
 現在の北方四島は、ロシア共和国サハリン州の管理下にあり、約1万4,300人のロシア人が漁業、水産加工業などを中心に営みながら生活している。北方領土は、事実上、ロシア人の生活する土地となり、60年が経過しようとしているのだ。北方領土出身の日本人の高齢化が進んでいる。北方領土問題は、早急に対処しなければ風化してしまいかねない問題である。

尖閣諸島

 尖閣諸島とは、沖縄県石垣市に属す東シナ海に浮かぶ魚釣島、久場島(黄尾嶼・こうびしょう)、大正島(赤尾嶼)、北小島、南小島など8つの島の総称。現在は、いずれも無人島である。最も大きい島は魚釣島で、石垣島の北北西170キロに位置し、台湾からもほぼ同じ170キロで、中国大陸からは330キロの距離にある。
 政府は、尖閣諸島が清国政府による統治、先住民がいないかなどを調査したうえで、1895年(明治28)閣議決定を行い、翌年、沖縄県八重山郡に編入している。かつて尖閣諸島では魚釣島を中心に200人が、鰹節工場などで働き暮らしていた。尖閣諸島の領有権問題が発生したのは、1969(昭和44)年、国連アジア太平洋経済委員会(ECAFE)が東シナ海の海底に埋蔵量豊富な油田がある可能性が高いとの調査報告書を公表してからである。1971年、台湾と中国が相次いで、尖閣諸島の領有権の主張を開始した。中国の古文書に、台湾の近くの島として魚釣島(魚釣臺)の名が記載されているところから、尖閣諸島を台湾の一部であると主張している。78年には、日中平和友好条約締結に向けての交渉が行われているにも関わらず、約100隻の中国船が尖閣諸島近海にあらわれ、領海侵犯を繰り返す事件が起こった。2004年3月、中国の反日活動グループが、魚釣島に不法上陸する事件を起こした。海上保安庁では、現在も中国船の領海侵犯に備え常時、巡視船による警戒態勢をとっている。
 台湾の李登輝前総統は、尖閣諸島は沖縄に所属しており、結局、日本領である。中国の主張には証拠が無いと新聞のインタビューに応え発言している。尖閣諸島は明らかに日本の領土である。しかし、隣国の関係も考慮しなければならない。台湾にとって尖閣諸島沿岸は好漁場なのである。第二次世界大戦終了まで、台湾は日本の一部となっていたため台湾の漁民も尖閣諸島海域まで出漁していた。しかし、現在では、日本の排他的経済水域内での操業は認められないのである。結果的に戦後、台湾の漁民はこの海域に入ることができないのである。

竹島

 竹島問題は、日韓対立の象徴のように扱われている。日本の海上保安庁と韓国の海洋警察庁は、共同訓練や情報交換を頻繁に行い、密接な関係を保っているが、この竹島問題になると相容れることは無いようだ。
 日本海に浮かぶ孤島・竹島を日本が正式に領有したのは、日韓併合以前の1905年である。当時、竹島近海では、アシカが回遊し、あわびなどの魚介類も多くとれる好漁場であり、島根や鳥取の数多くの漁民が出漁していた。歴史資料では日本以外の国が竹島を領有していた記録は無い。韓国側は、19世紀に鬱陵島を朝鮮が支配していたところから、竹島をも自国の領土と拡大し主張しているが、鬱陵島と竹島を同一視するには距離が離れすぎている。
 前に触れたが、サンフランシスコ平和条約により日本は、朝鮮の独立を承認して、済州島、巨文島および鬱陵島を含む朝鮮に対するすべての権利、権限および請求権を放棄することを求められた。竹島は、この条約では日本固有の領土であることが認められ、放棄すベき島に含まれていなかったのである。この条約の原案を入手した韓国は、竹島の領有を希望したが米国に受け入れられなかった。そのため、1952年、韓国初代大統領・李承晩(イ・スンマン)は、海洋主権宣言を発表し、一方的に主権を保持する海域を定め、その中に竹島を取り込んでしまったのである。この専管水域は、李承晩ラインと呼ばれる、この海域を越え韓国側に近づいた漁民たちは銑撃を受けたり、拿捕されたりすることになった。現在、李承晩ラインは存在しないが、竹島には韓国海洋警察が駐在し、日本人は近づくことができないのである。
 日本が竹島を実際に支配した期間は、1905年から1945年までの40年間である。韓国は1952年以降、現在まで実行支配している。その期間は、日本の支配より既に長くなっている。島を取り戻すためには、早急に国際的な対応が必要であろう。

 日本は、7つの国と排他的経済水域が接している。隣国とは歴史的、地政学的に見ても切っても切れない関係なのである。領海、EEZ、大陸棚の問題は、近隣諸国との友好関係において、重要であり、かつ慎重に対処すべき問題である。日本の将来は、日本を取り巻く海に依存するといっても過言ではなかろう。
 



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