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海上輸送と海洋環境問題
本年7月、国際海事機関(IMO)第53回海洋環境保護委員会(MEPC)に出席した。今回の会議では、2004年2月に採択されたバラスト水管理条約の実施に必要なガイドラインの採択、船舶からの大気汚染の防止に関連した次期排ガス規制の検討、シップリサイクリング決議案の作成などが行われたが、それぞれ日本にとって重要な議題である。 日本は、海洋に生活を依存している。石油エネルギーは、ほぼ100%、食料の自給率は40%(熱量ベース。魚介類だけでは50%)、住宅などに使われる木材も81%は輸入である。そして輸入手段は99%が船舶による海上輸送だ。一方で、大量輸送による環境への負荷は高まってきている。排出ガス、バラスト水、事故による抽流出、解撤など、船舶起因の環境問題は多岐にわたる。世界の持続可能な発展のためには、環境への配慮は重要であり、ひとつの海をとりまく世界各国が、地球全体の問題として取り組まなければならない。 私は、IMOにおける環境問題の議論も、大型化した船舶が、運行時、事故発生時、そしてその役割を終え、解撤される時に、いかに環境に与える負荷(人間の健康に与える影響を含む)を減らせるか、正確には自然の処理能力の範囲に納まるかという観点で行われるべきものと考えている。環境問題については、往々にして科学的な議論が行われずに、勢い極端な規制強化になりがちである。また、環境に配慮する規制は、すなわち規制に対応するためのコスト増となり、最終的にはその負担は消費者物価の上昇に繋がりやすい。科学的な根拠に基づいての議論と判断が行われる必要がある。IMOのMEPCは、そのための専門知識と豊かな経験を持っており、海上輸送の環境問題に取り組むのに適切な場であると考える。
lMOの役割
ところで、IMOとは、どんな組織だろうか。海運は、非常に国際性が高いことから、19世紀後半から主要海運国が中心となって各種の技術的な事柄について会議を開催し、灯台業務や海難救助等の海上安全確保を目的とした国際条約等を取り決めていた。第二次大戦後、船舶輸送の技術面を検討する場の必要性が指摘され、1959年にIMOの前身となる政府間海事協議機関(IMCO)が発足。その後、活動内容の拡大、加盟国の増加に伴い、1982年、IMOと改称され、現在に至っている。現在、加盟国165、準加盟国3、会議にオブザーバー参加が可能な政府機関が36、非政府機関が63である。IMOは、加盟各国の分担金によって運営されており、経済を海運に依存し、造船業が長く世界のトップに君臨している日本にとっては、重要な国際機関である。
海運立国の日本の立場
私はここである数字に興味を抱いた。表1に示すのは、2004年のIMO予算における各国の拠出額である。第1位がパナマ?3,827,870(約7億6千万円)、第2位以下にはリベリア?1,533,253(約3 億円)、バハマ?1,055,036(約2億1千万円)と続き、日本は第6位の?805,998(約1億6千万円)だ。
分担金の算出根拠は、各国の保有船腹量による。一方、表2は算出根拠となる各国の保有船隻数と船腹量である。これらの数字は、便宜置籍船制度がある現状では、驚くほどのものではないだろう。しかし、表3の日本商船隊の数字と見比べてみるとどうだろう。日本商船隊における船隻数は日本籍船103隻、外国用船は1,770隻で計1,873隻、用船先は表4である。パナマ籍船の船腹量の36%は、実質日本船である。また、国連貿易開発会議(UNCTAD)は、世界の商船における実質船主国を公表しているが、1位はギリシャで19.5%、2位は日本で13.6%である。日本は海運立国といわれるが、この数字はまさにそれを証明する数字であるが、一方で、国際海事社会における日本の立場を示す数字でもある。しかし、IMOの運営を経費面で支えているのはパナマやリベリアといった便宜置籍国である。もちろん、金さえ出せば良いのではないが、便宜置籍国の分担金は、本をただせば日本船主が納めた税金等であるから、日本がIMOの運営を実質的に支えていることはもっと理解されて良い。また、逆に言えば国際規制をもっとも受けるのは日本であるから、発言力もあってしかるべきであろう。しかしだからといって、自分たちだけ都合が良いようにすることはできないのは当然で、それでは国際社会では孤立してしまう。国際協調を旨として、国際海事社会の発展のためにリーダーシップを発揮する権利と義務を持っていると考えるべきである。
今回のMEPCにおいても、日本は技術力を活かした科学的かつ現実的な提案をしている。困難な検討になるほど、参加各国も、日本の提案に期待しているという。そして、日本代表団には、長年IMOに貢献し、尊敬を集め、ワーキンググループの議長を務めるような方もいる。しかし前述のような意味でIMOにおいて日本がリーダーシップを発揮してきたかどうかというと必ずしもそうとも言えない。議論が紛糾した時には、所謂欧米主要海運国が集まり、極東の国日本は、蚊帳の外に置かれてしまったこともあると聞く。 日本は存亡を海洋に依存しており、この点は今後も変わらないだろう。そうであれば、自国による海運を確保し、それを支える造船業を維持、発展させるとともに、IMOにおいては日本の存在感を示し、リーダーシップをとることが重要だ。(了)
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