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戦略・組織の整備急務
海の国際紛争を解決する国際海洋法裁判所ガドイツのハンブルクにある。21人の裁判官は、国連海洋法条約の締結国である149か国による選挙で選ばれ、3年ごとに7人ずつ改選される。今年6月の選挙では、元外務事務次官の柳井俊二氏が113票でトップ当選した。海洋国家・日本の面目躍如である。 しかし、日本を囲む海の情勢は厳しい。昨年11月の中国・原子力潜水艦による領海侵犯に対して政府は効果的に対処できなかった。日本はいま、様々な国境紛争を抱えている。中国が領有を主張する尖閣列島、韓国が実効支配する竹島、そして北方領土。漁業問題も多く、沿岸域では外国漁船の密漁で漁業資源が枯渇の危機にある。また、捕鯨は国際的に禁じられ、マグロ漁にも規制が設けられた。海に食を求めてきた日本人の食文化にも多大な影響が出ている。
海に囲まれた日本は、密輸、密航、北朝鮮拉致問題のような海からの侵入者に備えを怠ることができない。私たちの財団は、北朝鮮工作船の展示を行い、163万人が海からの脅威を目の当たりにした。また、沖ノ鳥島には調査団を派遣して島の有効利用策の提言も行った。その報告書は海上保安庁による灯台設置、農水省によるサンゴの増殖計画の資料となった。 マラッカ海峡の航行安全も今日的な問題だ。日本が輸入する石油の80%が通過するこの海峡では海賊が多発する。保険業界は、この海峡を危険地域に指定した。保険料の増額は日本経済に多大な損失をもたらす。海峡の安全には、船主や海峡利用国が国際機関の力を借りて協力態勢をつくる必要がある。 私たちの財団は2002年、当時の福田官房長官に、総合的な海洋政策の必要性を説く政策提言を行った。海洋基本法に相当する法制整備、海洋問題に対応する統括機関の設置、海洋担当相の任命などを提案した。 外国の海事関係者から「日本の海洋に関する主管官庁はどこか」と問われ、答えに窮することがたびたびある。韓国には海洋水産部、中国には国家海洋局があるが、日本には該当する機関がない。英国は「持続可能な海運」を掲げて海運の社会的意義を考え、造船、航行安全、海洋汚染、船員政策などを一元化している。島や内海が多い日本では、生活物資の輸送、海洋環境保護、国防などを考えて、海運にとどまらず、「持続可能な海洋活動」を推進すべきだ。 海洋国家と言いながら日本人の海に対する意識の欠如は否めない。先の衆院選の各党の政権公約(マニフェスト)でも、海に関しては領土問題、海洋権益、水産振興などが取り上げられる程度だった。国際海洋法裁判所などの国際機関で主導権を撞ることも重要だが、まず国民の意識を海に向け、海洋問題に対処する組織整備を急ぐべきだ。 日本が海底資源の掘削権、漁業管轄権などの経済的権限を持つ排他的経済水域は領海を含めて約447万平方キロで、世界で6番目に広い。日本という国を陸上だけでなく海にまで広げて考える必要がある。海を守っていく方向へ転換すべきである。
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