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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: マダガスカルを訪問して  
コラム名: マダガスカルを訪問して  
出版物名: 愛生  
出版社名: 長島愛生園慰安会  
発行日: 2004/03  
※この記事は、著者と長島愛生園慰安会の許諾を得て転載したものです。
長島愛生園慰安会に無断で複製、翻案、送信、頒布する等長島愛生園慰安会の著作権を侵害する一切の行為を禁止します。  
   2003年9月14日から19日までマダガスカル共和国を訪問しました。マダガスカル共和国は、アフリカ大陸の東南に位置するインド洋に浮かぶ島国で、総面積587,000平方キロメートル(日本の1.6倍)、1600万人が住んでいます。古生代に存在したゴンドワナ大陸から分かれたマダガスカルは長い孤立の時代をもち、植物や動物など珍しい種のものが現存しています。そして、マダガスカル人の祖先は今から2000年ほど前にインド洋をアジアから渡ってきた人たちで、現在のインドネシアやマレーシアと同じ祖先をもっています。ですから、マダガスカルで会う人々の多くの顔はアフリカ人というよりアジア人に似ており親しみやすいものがありました。また、稲作農業が盛んで、水田の風景もどこか東南アジアに良く似ています。

 このマダガスカル共和国は、人口1万人に患者1人以下という世界保健機関(WHO)が設定したハンセン病の制圧目標をいまだに達成していない6カ国のうちの1つです。他には、インド、ブラジル、ネパール、モザンビク、アンゴラがまだ達成していません。この国のハンセン病制圧活動は、独立以前からフランスのラウル・フォレロ財団が活動を続けており、独立後はWHOが活動を始め、1992年から政府も本格的な取り組みを開始しました。1997年には人口1万人に8.31人という高い有病率がありましたが、少しづつ減少し、現在の有病率は全国平均で4.0人というのが公式な数字です。しかし、有病率が8人、10人という高い地域も多く存在し、制圧活動はなかなか進まず今日にいたりました。

 私は、今回、WHOのハンセン病制圧特別大使として、WHOアフリカ地域事務総局長のE.サンバ博士、ラウル・フォレロ財団のM.レシポン理事長、笹川記念保健財団の紀伊國献三理事長、同財団常務理事湯浅洋博士とともに同国を訪れ、ハンセン病制圧の現状を視察し、政府関係者や医療関係者と意見交換をする機会をもちました。マダガスカルのハンセン病制圧のむずかしい点は、ハンセン病に対する根強い偏見と差別、末端保健センターでのワーカーの能力不足、人口の40%が保健センターから10キロ以上離れたところに居住しており交通のアクセスが悪いなどが上げられますが、現在、新大統領の政府のもとで、国をあげてこのような困難を乗り越える制圧活動が積極的に進められています。

 今回の訪問で、私は、大統領、首相、外務大臣、保健大臣など同国の政治指導者にお目にかかり、「ハンセン病は治る病気です」、「薬は無料です」、「社会的差別は絶対許されません」、という3つのメッセージを国民1人1人に徹底してくださいとお願いしました。感銘を受けたのは、これらのすべての指導者が、ハンセン病についての深い知識をもち、制圧に向けて努力を惜しまないと強い政治的コミットメントを示されたことです。また、テレビ、新聞も大きく報道して、ハンセン病制圧に真剣に取り組んでいる意欲を強く感じました。同国では、貧困の撲滅を政策の最重点としていますが、ハンセン病などの疾病の撲滅はその政策の根幹になるとの判断があり、保健省を中心に本格的な戦略策定がハンセン病に対してもなされています。ラサミンドラコトロカ保健大臣は自身が大学の医学部長をされた医師でもあり、保健省と地方政府の医療関係者を強力なリーダーシップで統括しておられます。保健省は、2005年の完全制圧を目指して、非常に具体的な戦略をたてています。その中心は、医療関係者のトレーニングの徹底と、偏見や差別をなくするための啓発活動にあります。また、交通アクセスの悪いところを巡回する移動医療隊を組織して、教育、啓発、診断、治療にあてるという計画もあります。国際NGOとしては、ラウル・フォレロ財団が引き続いて制圧活動と元患者の社会復帰のための支援活動にあたり、またオランダ救らい協会も制圧活動に財政面、事業面で参加することになっています。私たちの日本財団と笹川記念保健協力財団も、現地政府、WHO、そしてこれらのNGOと緊密な協力体制を構築して2005年の制圧に向けて全力をあげることをお約束してきました。

 私は常々、ハンセン病の制圧には、強い政治的コミットメントが必要だと申し上げてきましたが、マダガスカルには、すでにこれが存在し、基本的な政策と活動戦略もできあがっていて国内的には条件が整っています。この国は2005年の制圧を必ず達成できると確信します。
 しかし、制圧が終わっても偏見や差別が完全になくなり元患者の社会復帰の機会が十分になければ問題は解決しません。これからも長い目で同国の活動を見守り、支援をして行きたいと考えています。
 



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