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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: カルフール  
コラム名: 透明な歳月の光 138  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2004/12/10  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   サハラ縦断で装備を調達
 世界でも大手の「カルフール」というフランス系のスーパーマーケットが、日本における業績が必ずしも順調ではないので、経営の再編成に乗り出す、という。
 私が初めてこの店の名を知ったのは、今から20年以上前、友人たちと2台の特別仕様の四駆で、ラリーではなく、サハラ砂漠の縦断に出る直前だった。車をフェリーでアフリカ大陸に渡す前に、マルセイユの「カルフール」で最後の装備を調達したのである。
 その時の買い物リストの中には、6人の隊員の好みで選ぶマグもあった。これから約40日間、私たちは砂漠に野営してプライバシーというものの一切ない生活を強いられる。その間せめて自分好みのマグでお茶を飲めると心理的に休まる、と体験者に教えられたのである。
 フランスは植民地を持つことによって砂漠の知識も豊富だった。私は「カルフール」で目出し帽を買った。日焼けを防ぐためだが、強盗がかぶるのと同じスタイルで、黒い絹製の砂漠用である。それには都市部では犯罪者と思われるので、決して使用しないようにとちゃんと注意書きがあった。
 私は主に食料調達係だったので、自分は普段甘いものを口にしなかったが、砂漠ではべとべとになるほど甘くした紅茶も体が要求することを知っていた。それで砂糖も、500グラムくらいの袋は用意すべきだろうと考えていた。
 すると中の1人が小袋に分けてある「ペットシュガー」を買った。全く今の若い人たちは、そういう高くつく砂糖を平気で買うのだ、と私は少し悪意を持ったが黙っていた。しかし後でその理由を教えられた。砂漠は激しい所で、いったん開けた袋の口をどんなに輪ゴムで縛っておいても、必ず使いかけの砂糖には砂が入り込む。だからペットシュガーの方が扱いが楽だ、というのである。
 砂漠に出てから、私は車が砂に埋まった時、タイヤの下に敷いて脱出する際に使う「道板」と呼ばれる穴の開いたトタン板を用意し忘れたことに気がついた。なにせ私が知っている道板は、大きく太く重いもので、トラックの脇腹に大々的につけて走るのがやっとという代物なのである。ところが同行者は「買ってあります」という。「どこに?」と聞いたのは、そんな大きいものを携行している気配がないからであった。しかし最近の道板はぱらぱらと折れて軽くアタッシェ・ケースに収まってしまう。それを買ってあります、と言われた。
 重量制限を守らねばならないのに、ノンベエの隊員が私に内証で紙箱入りの安物ぶどう酒を60リットルも買い込んでいた。「遭難しても酒は水です」というのが言い訳である。
 内部は倉庫のようで、日本人好みの情緒もこまやかさもないが、機能的に必要なものはすべて揃ったのが「カルフール」であった。
 



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