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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 圧政者 国民自ら払いのけよ  
コラム名: 透明な歳月の光 129  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2004/10/08  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   毎年私は、若い人たちと、「世界の問題地域の実情を見る研修旅行」に同行している。エイズやマラリアがひどかったり、治安が悪かったり、極貧地帯だったりする地域に入るのである。
 アフリカの場合ことに顕著なのは、すんなりと旅程が決まらないことである。先月まで通っていた飛行機の路線が直前になくなる。乗り換えを予定していた国が政変で入れなくなる。飛行機に乗ろうとして飛行場へ行くと、2度も出発時間が10時間単位で遅れる。飛行場に入れば公然とものや金をねだる職員と戦い、トイレに水も出ないことさえ稀(まれ)ではない。荷物は出て来る可能性が6割か7割。
 今回の企画では意外なほどすんなりと旅程が立ったので、私は「今度はいいのかなあ」と思っていたら、果たしてどたんばになって問題が起きた。
 ジンバブエが、6人のジャーナリスト分として計3千6百ドル(約40万円)を取材費として払え、と要求して来たのである。私は数日考えて、このような不法な要求には応ぜず、同国訪問を中止することにした。うちの財団は、言われればすぐ理屈の通らない金を出す組織ではない。
 その前後の訪問国には、日程が変わったので迷惑をかけることになったが、そのうちの関係者の1人から早速おもしろいファクスをもらった。
 「今回、ジンバブエ政府のマスコミ関係者に対する不当な要求を退け、訪問を中止されましたこと、溜飲(りゅういん)を下げる思いです。ご存じの通り、悪名高いムガベ独裁政権派は、白人農地の黒人への解放を旗印に、暴力をもって白人を追い出した結果、農地は荒廃し、作物は不作で、食糧不足は国民を飢えさせ、タバコを主体とした外貨収入も途絶え、外資は逃亡、経済は破綻(はたん)し国庫は空っぽ、僅(わず)かに国連からの難民救済と南アからの経済支援に頼っているのが現状です。ムガベは悪政を暴かれるのを恐れ、大のマスコミ嫌いで通っており、本来ならマスコミ関係者の入国など、一顧だにしないところを、切羽詰まって不当な金を取って入国を許可するとは、見下げた輩と言う以外に言葉はありません。残念ですが、今のままではこの国は遠からず崩壊してしまうことになるでしょう」
 しかしアメリカが出て行って正義を振り回すことなく、ジンバブエ人は自らの責任と勇気において、圧政者がいるなら、払いのけることだ。
 とにかく、独立すれば自由と繁栄が実現するはずだ、という一部の日本人の安易なものの見方はやめねばならない。「アフリカの一般の庶民の暮らし向きは植民地時代より悪化しており、長期的な下降線を辿(たど)っている」という研究を9月末に発表したのは、南アフリカ国際情勢研究所長のモレルツィ・ムベキ氏で、同国のムベキ大統領の弟だという。(毎週金曜日掲載)
 



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