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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 「一致団結」 慎むべき身勝手な解釈  
コラム名: 透明な歳月の光 122  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2004/08/13  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   子供の頃は、どちらかと言うと相手と似ていることがいいことだと思っていたが、年を取ると人間は違っていることの方がおもしろく思えて来た。いいとか悪いとかの問題ではない。世の中にはこんなにも違う社会や人が存在するのかと思うと感動するのである。
 今年、私は夏休みをシンガポールで暮らしているのだが、中でも感動するのはたとえば財界の大立者の死に関する新聞の記事である。この人の死亡広告は少なくとも新聞の3ページにわたって全面広告で載せられているので、その人の家族関係がよくわかる。
 亡くなった人は銀行やホテルなど、たくさんの企業の創始者であり、経営者であり、100歳に近い長寿を全うした。その意味で名家の家長であり、家族にとっても偉大な存在だったのだろう。
 「妻(ワイブス)(複数)」3人の名前が載っている。そのうち2人は亡くなっていて、1人だけ英語名前を持った妻が生き残っている。妻が数人いれば、恐らく男やもめになって1人暮らしをするみじめさもないだろう。
 息子が4人、娘も4人いることは、幸福な父親の象徴だ。娘が1人死亡しているだけで、後は息子たちとその妻たち、娘たち3人とその夫たち全員が健在である。孫は22人。そのうち14人が結婚しており、曾孫はさすがに名前は出ていないが、現在20人いる、と書かれている。
 日本でも、もうすぐ100歳になる世代なら、密(ひそ)かに愛人の2人や3人居た人はいるのだろうが、これほど公然と世間に妻は3人と言い切る社会的空気はない。したがって子供たちも母親違いが何人もいる可能性があり、決して内心波風が立たなかったわけでもないだろうが、葬儀となると一家団結するのが日本と違う。
 この一致団結について、シンガポールのゴー・チョクトン前首相は、それが彼の独立記念日の最後のスピーチとなった演説の中で、次のように言っている。
 「私たちが新型肺炎(SARS)や他の危機に対して、一致団結して対処したことは、シンガポールの未来に対する私の信頼を強めました。私たちは一団となって火の中を突破したのです。私たちの中の鋼のように強固なものはさらに強められました。私が同胞、シンガポール人たちを誇りに思うのは、この戦う精神、国民の性格、強力な団結、そして社会的な結束力なのです」
 この団結を促す言葉は、現在では、組合の執行部が言えば簡単に受け入れられ、同じ言葉を総理が言えばそれは猛反発を食うというものだろう。事は結束した方がばらばらよりはるかに効果的だということは間違いないと思うが、私たちは1つの言葉の意味を身勝手に変えないように、頭を冷やして常に答えを出しておくべきなのだろう。
 



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