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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: ハンセン病  
コラム名: 論点  
出版物名: 読売新聞  
出版社名: 読売新聞社  
発行日: 2004/05/13  
※この記事は、著者と読売新聞社の許諾を得て転載したものです。
読売新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど読売新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
  【差別撤廃、国連決議が必要】

 今春、私はジュネーブの国連欧州本部で開催された第60回国連人権委員会の本会議で、53か国からの各国代表の前に、初めてハンセン病と人権について発言する機会を得た。
 ハンセン病は放置すると後遺症が残る病気であるために、患者、回復者、家族に対する偏見が差別を生んできた。現在では、治る病気であるにもかかわらず、いまだに根強い差別に多くの人が苦しんでおり、こうした状況は明らかに人権上の問題にあたる。
 しかも、この人権上の問題は世界中のハンセン病に悩まされた人々が日々直面している現実でもある。
 これまでハンセン病がそうした視点からほとんど取り上げられてこなかったのは、医学的な対応に専念するあまり、社会的側面である差別の問題にまで人々の関心がおよばなかったからである。
 また、患者や回復者は社会から隔離され、自らの声を発することが出来なかったからでもある。
 私は、この問題は国連人権委員会が取り上げ、世界規模で解決していくべきだと考え、その社会的差別の実態と差別の撤廃を本会議で訴えたのである。本会議と並行して、ブラジル、アメリカ、インドからの回復者、家族、関係者による特別報告会も組織し、それぞれの国の差別の歴史と現状を会議参加者に直接訴える機会をもった。
 回復者の代表、インドのP・K・ゴパール博士は、「今までハンセン病患者や回復者は自分たちに向けられる偏見に基づく差別を人権侵害だと思ってこなかった。ただ運命だとあきらめてきた。でもこれからは、差別をなくすことは社会の責任であるという認識が広がると思う」と述べた。
 こうした訴えが、大きな動きとなって広がっていくことが必要だが、世界で根強く残るハンセン病に対する偏見と差別は、すぐになくなるものではない。
 社会にハンセン病回復者が平等に受け入れられるためには、病気自体の制圧はもちろんのこと、今後は人権問題を取り扱うさまざまな団体とも連携して、正しい知識の啓蒙(けいもう)活動を推進していくことが不可欠である。
 私の活動にとって心強いことは、世界保健機関(WHO)の事務局長・李鍾郁(イジョンウク)博士も、健康と人権について積極的に発言されていることだ。
 この問題を解決するためには、国連が、法制度、学校教育、啓蒙活動など様々な面で、偏見や差別をなくすために何をすべきかという指針を作成し、各国に必要な措置をとるよう要請することが重要であると考える。
 ただし、国連という組織を動かす主役は国家である。まず、各国政府に働きかけて、ハンセン病患者、回復者の人権を擁護する決議案を国連人権委員会で採択してもらわなければならない。
 その上で専門家からなる人権促進保護小委員会が、世界の差別の実態と、その解消のためにどのような方策を取るべきかを調査研究し、指針の草案作りを進めていく必要がある。
 今回の国連人権委員会の本会議での発言は、各国の代表に対して問題を喚起するとともに、これからの新しい展開へつながる大事なスタート地点となったと確信している。 国際的な規模でハンセン病に対する偏見と差別をなくすための方向性は見えてきた。 今後は様々な方面から支援を求め、一歩一歩確実に進んでいきたい。
 

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