|
【結局、税金で戻ったということ】
イラクで3人の日本人が人質になった頃、私は外国にいてよく事情がわからなかった。
帰って来てやっとさまざまな情報が得られたが、「週刊朝日」4月30日号、その他テレビを見ていた人の話によると、初め家族は自衛隊の撤退を求めたという。これは3人の力で、日本国民が正当な選挙で選んだ現政権の方針をくつがえそうとしたことだから、暴挙であり民主主義の否定だと言って差し支えない。
私も初めからアメリカ追従型のイラク派兵に反対であり、その線に沿って発言して来た。族長支配のイラクに共通の理念があるわけではないから、戦後は利害関係の不満による部族間の対立が起こることは分かり切っていた。
ブッシュは稀に見る不勉強で愚かな指導者であり、一番の被害者はこの大統領の間違った判断によってイラクで死んだ人々であろう。米国防総省は開戦以来4月19日までに戦死した軍人は511人、戦死以外の死者は197人、民間人2人で、死者総数は710人だと発表している。
しかし、日本は軍事力をアメリカに依存している以上、完全な独立国とは言えないのだから、アメリカの要請によって派兵するのもやむを得なかった、というのが私の認識である。北朝鮮と隣接する人口約5千万人弱の韓国も、アメリカの防衛力に頼るために日本より多くの兵士をイラクに送らざるを得なかった。
私が見損ねた部分のテレビを見ていた人によれば、人質の家族たちは初めは激しく政府を攻撃していたのだが、やがて揃ってわざとらしい「お詫びと感謝」のポーズに切り換えた。その変化の様子をいくつかの週刊誌はよく捉えているが、そんな配慮は無用だったのである。3人とその家族がいかに政府を非難し続けようと、政府は間違いなく救出はする。それが政治の機能だからである。
新聞の多くは身代金の額についてふれていないので、日本人の中には、イラク側が「善意」だけで3人を返したと思っている人がいる。人質たちは、自分たちがイラクのために働いていたので、拘束したのは間違いだったと分かって帰してくれたと思っているだろう。こういう甘さは早く取り除かねばならない。
上村司イラク臨時大使が、17日イラク・イスラム聖職者協会のクベイシ師と会って2人のジャーナリストの引き渡しを受けた時、感謝を伝えたはずの川口外相の談話に不満が述べられたという。それは礼金がまだ支払われていないか、額が少な過ぎるということだ。すべての関係は婉曲な言葉と現実的な金、という二重構造になっているのがアラブの文化だから、現実的には5人は日本政府の出した金(つまり国民の税金)で贖(あがな)われて帰って来たのである。
|
|
|
|