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著者: 歌川 令三  
記事タイトル: UAE紀行 ドバイ(下) 石油が出なくなったなら・・・  
コラム名: 渡る世界には鬼もいる  
出版物名: 財界  
出版社名: 財界  
発行日: 2004/03/23  
※この記事は、著者と財界の許諾を得て転載したものです。
財界に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど財界の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
  ≪ 世界一高い「アラビアの塔」 ≫

 ホテル中東の海のシルクロードの交易港、ドバイ首長国の沖から石油が噴出したのは1966年であった。だが150年分もの埋蔵量を持つ隣のアブダビに比べると、決して豊かな石油資源とは言えない。

 毎年、アブダビの4分の1に相当する石油をせっせと掘っているが、あと15年で枯渇する。だから、この国はいま、石油なしでも生きていけるドバイの建設めざして、駆け足で走っている。なけなしの石油輸出代金を大方つぎ込んで、めざすは、貿易・商業・海運・航空・観光立国だ。

 ドバイのガイド免許を持つセルビア人、デヤン君の案内でドバイの中心部を歩く。アラビア湾に沿ぐドバイ・クリークをはさむ東西と南北それぞれ4キロ四方、ちょうど山の手線の内側の広さだ。

 「東京と比べてどちらがモダンな都市かね」デヤン君に聞かれた。「まあ似たようなものだな」。一応、そう答えておいたのだが、この狭い土地によくも巨大でぜいたくな高層建築物を並べたものだ、と内心びっくりだった。それは世界中から派手な建築物のアイデアを集めてコンペをやり、当選作だけここに集めたような街並みだった。

 巨大な港湾施設は東京や横浜の比ではなかった。世界120の都市向けに中継港が2つある。「人工衛星から見て特に目立っているのが、第一は万里の長城、次がドバイの世界最大の港湾用埋立地なんだ」とデヤン君、その目と鼻の先に「ドバイ・メディア・シチー」と銘打ったマスコミ団地ビルがあり、テナント募集中。CNNとロイター、そしてSONY放送なるチャンネルがすでに入居済みとのことだ。

 世界で一番高いホテルに案内された。宿泊料もビルの高さも世界一なのだという。以前、ドバイ空港の乗り継ぎでイランに出かけたとき、離陸直後、眼下の海岸にヨットの帆のような三角錐の形状をした高層建築物を見た。「あれがウワサに聞く世界一高いホテルではないのか」と思っていたが案の定だった。

 ホテルの名はBurj Al Arab(バージュ・アル・アラブ=アラビアの塔の意)。高さ321メートル、風をいっぱいに受けたアラブ民族文化の船、ダウ船の帆をイメージしたビルでパリのエッフェル塔よりも高い。地上200メートルのところにメインレストラン、海面下にも、もう1つレストランがあり、ガラス越しに海の中の光景が楽しめるのだという。

 以上の情報は私の取材ではなく、案内役のデヤン君の説明だ。「ホテルの宿泊客もしくはゲスト以外は入館禁止」とのことで、私は門前に待機する3人の武装ガードマンに追い返された。カタログによると202室すべてがスイートルームで、フロントを経ずに直行できるという。値段を見てまたもやびっくり。7つのタイプがあり、最低でも1泊3300DH(ディルハム・11万5000円)、最高2万5000DH(87万5000円)だった。

 先祖伝来の苫屋とレンガで建てた土着の住居の文化から、一足飛びに超モダン建築に変身したドバイ。そのスピードたるや世界史の新記録ではあるまいか。ドバイの面するアラビア湾に巨大な人工島の工事が進められていた。おびただしい数の鉄の杭が打たれ、工事のトラックやブルドーザーが群れをなして作業しているのが見える。東京湾のお台場10個分ぐらいの埋立てと思っていたが、そんなチッポケなものではなかった。やしの木を形どった2つの人工島を建設し、ドバイの海浜を120キロメートル分、新規に造成する壮大な工事とのことだった。2つの島にはリゾート住宅や、マリーナ、ゴルフ場、そしてショッピングセンターからなる巨大なウォーターフロント村が出現するのだという。サッカーのベッカムなどの有名人や世界中の金持から入居の申し込みが殺到しているという。

 こうした一連の大工事、もちろんオイルマネーがそれを可能にした。「ドバイよ、前進せよ。いつでも、どこでも可能な限り」。これが首長のシエイク・マクトウムの近代化スローガンだが、これを底辺で支えているのが、低賃金の外国人労働者だ。

 1985年、ドバイの人口は40万人だったが、今日では90万人。人口の80%は、ドバイの商業、レジャー建設などのビジネスで働く下積みの出稼ぎ外人だ。

 「おじいさんはラクダに乗っていた。お父さんはキャデラックに乗った。俺は自家用ジェット機に」

 「石油がなくなったらどうなるんだ」

 「何? あわてることはない。またラクダの背中に乗ればいいのさ」。

 湾岸の産油国で聞いたジョークだ。ドバイの建設ラッシュは、そうならないための準備である。この国の建設は究極の工法(Extreme engineering)、建物のみならず、沖に全市街の3倍の新しい土地を造成している。首長が夢を見れば、それが現実のものとなる。少なくとも今日のドバイはそのように見える。石油を掘りつくしたとき、この国はどうなっているか。是非、その頃この国をもう一度訪ねてみたいものだ。

 ドバイ国際空港は、発着便の数において成田と関空と合わせたよりも多い中東最大のハブ空港だ。ドバイ?日本の関西空港間をご自慢のエミレート航空ノンストップ直航便が飛んでいる。
 



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