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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 新聞の投書?非常識を採用する不可解  
コラム名: 透明な歳月の光 88  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2003/12/12  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   新聞の投書というものは、もちろん何を書いてもいいのだが、最近朝日新聞に載った投書2つは気になってならない。

 1つは11月29日に掲載された千葉県松戸市のフリーライター(40)の書いたものである。

 内容は、この方のうちに、最近泥棒が入った。戸のガラスを切って鍵を外した。幸いものはとられなかったが、警察が来て、家族全員の指紋を取ることに協力して欲しい、と言った。しかしこの人は「腑に落ちなかったので断りの電話をする」。

 「私の疑問はまず、被害者なのに指紋を採られることへの不条理感がある。その時に感じるであろう屈辱感や恐怖感は想像してあまりある。人権侵害の恐れさえあろう」

 実に不思議な怒り方である。当然家の中からはいくつかの指紋が検出されたろう。その中から家族の分を全部排除して、残ったものの中に犯人のものかもしれないものがあれば、他の犯行現場との繋がりなどから犯人割り出しができるかもしれない。警察のやり方の1つの典型で、推理小説を2、3冊読めばわかることだ。

 指紋を採るというだけで、何をそんなに恐れるのだろう。昔は運転免許証を取る時にさえ、全指の指紋を登録させられたので、私は自分が死体になった時も指紋がわかっているから判別がつき易いだろう、拉致されて偽者が現れた時にも、すぐに見破れていい、と昔から指紋登録に賛成である。外国人だけに指紋登録を求めるから無礼なので、国民全部が指紋でもDNAでも個人判別の方法は確実に国家に登録しておかねばならない時代になった。それが国家の義務というものと私は思う。

 「被害者なのに指紋を求められ」ることが、これほどの怒りの種になる人が、フリーライターなのである。

 もう1つは同じ新聞の11月30日に投書している東京都小平市の会社員(61)の「武装しない自衛隊をイラクに送れ」という文章である。武装していなければ「テロ組織にもゲリラにも日本人は敵ではないということ」をアピールできるのだそうだ。また非武装の「自衛隊を襲えば、自分たちが世界的非難にさらされることはわかると思う」とも書いている。反撃しなければテロリストは徹底して自衛隊の機能を破壊するだろう。それに対して拍手喝采してくれる勢力がどこかにいるのが世界というもののすさまじさなのだ。

 この方は61歳にもなりながら、世界には実に違ったものの考え方をする人がいるということを理解してない。

 しかし何より、非常識な投書を採用する新聞社の選び方が不可解である。朝日新聞は、自社の読者の中に未熟な人々が多いことを示したくて、子供のような投書をしきりに載せるのだろうか。
 



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