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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: アフリカの暮らし?水も電気もない世界の知恵  
コラム名: 透明な歳月の光 84  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2003/11/14  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   毎年のようにアフリカの奥地へ入る前後に、私のお喋りはついアフリカのことになる。

 数百キロの奥地へ入る前に、私たちは通常、首都で1人6リットル程度の水をペットボトルで買うことにしている。そして「それ以外の水は、1滴も飲まないようにしてください」と私は同行者に言うのが決まりである。

 「しかしもし水が買えなかったらどうするんですか」

 という質問が出たことがあった。

 「その時はどうします?」

 と逆に私が聞くと、若い人たちは誰も答えない。

 「煮沸して飲んだらどうでしょう」と私が言うと、「煮沸したら飲めるんですか」と言われたこともあった。それが天下の秀才の集まりでである。

 「じゃ泥水みたいなものしか手に入らなかったら?」

 と私が追及すると、今度も答えがなかった。

 「バケツでも何でもいいからその中に水を汲んで、しばらく腕組みして待っていると上澄みができるでしょう。それをあなたたちが着ているシャツとか、その辺のおばさんが身につけている腰巻きとかでごみを漉してから、煮沸すればいいんです」

 それからさらに私は聞いた。

 「煮沸するにも、電気とガスはないんですけど、どうします? 薬罐(やかん)か鍋はあるとして」

 1人が答えた。

 「薪を燃やします」

 「薪の上にじかに鍋や薬罐を載せますか?」

 「廻りに石をおきます」

 「石は何個?」

 少し考えてから、

 「4個」

 「そうですね。4個でもいいけど、原則としては石3個です。大きさがあまり違わなければ、それでひっくり返らないはずです」

 アフリカの田舎では入院する時、病人とつき添いの家族たちは、ふとん、鍋、食料(穀物や薯)、薪、それに必ず石3個を、タクシーがなければ牛車に載せてやって来る。石3個が見つからない時もあるから、とにかく石3個持っていれば、即座にキッチンができるのである。牛車はもちろん牛歩の歩みだが、それが救急車である。ほんものの救急車は有料で高く、料金を払えない人はその場において去るのが普通だ。

 ついでに英語のテストをすると、「停電」という単語を知らない人が実に多い。私など絶対に入学を許可されない理科系の、天下の秀才たちの集まりでもそうである。

 「停電」は「パワー・フェイリュアー」とか「パワー・カット」というのが正しいらしいが、このごろの英字新聞では「ブラックアウト」と書いているのが多いような気がする。これは消費者側から見た表現だ。

 世界の3分の1は、電気がないか停電ばかりしている。そういう場所での人の暮らしが視野にないと、それを表す単語も知らないままになる。
 



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