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10月30日に、アナン国連事務総長はバグダッドに滞在する国連の外国人職員を「一時的に」キプロスに再配置した。つまりバグダッドを一時的にせよ撤退したのである。この背後には、イスラム過激派が赤十字国際委員会や警察署に対して「無差別の」自爆テロを繰り返したからだ、ということになっている。
この問題について、誰かが解説を書いてくれるだろうと思って待っていたが、今のところどの新聞も書かないようなので書くことにする。
これらのテロ行為は決して「無差別」だったりはしない。そもそも日本人は赤十字に対する盲目的な信仰があるが、赤十字がキリスト教的世界を反映したものだ、ということは考えない。イスラエルで急病人や怪我人がでれば、2種類の救急車のうちどちらかが呼ばれる。怪我人がユダヤ人なら、「青いダビデの星」をつけた救急車。イスラム教徒の急病人に対しては「赤新月」と言われる赤い三日月の印をつけた救急車が来るのが原則だ。もっともイスラム教徒の中にも、設備や技術のいいユダヤ系の病院に行きたがる人もいる、というが。
日本人は、赤十字といえば世界的に認められた人道的医療活動をする団体だと信じこんでいるが、パレスチナ人やイラクに住むイスラム教徒にとっては、それは自分の国に侵入した異教徒の団体のシンボルだ。当然攻撃の目標にもなる。イラクで警察署が標的になるのも、終戦後に、米英が他国に依頼してイラク警察官を訓練したから、これも米英の息のかかった裏切り者の拠点、と見られたのだろう。
日本人は寛大だから、仏教徒でも神道でも赤十字を受け入れる。赤十字の関係者にお宅の印はキリスト教のものです、と言っても認めない。国際的感覚が薄いのである。
現在、赤十字はイラクにおける「侵略者としての米英」を象徴するものとなった。だから日本の平和維持活動のための部隊がイラクで医療行為をする時には、赤十字ではなく新たに「赤鳥居」か「桃色桜」のマークでも作って掲げる方がまだしも安全であろう。もっともそれとてもイスラム教徒にとっては、異物だが。
ラムズフェルド米国防長官は10月30日の記者会見で、人々を惨殺したフセイン政権の残虐を暴いたフィルムをアメリカが放映した「功績」を語り、「幸運なことにフセイン政権派はいなくなり、2300万人のイラク国民は解放された」と語ったという。
この人はまだわかっていないのだ。サダムに数千人の同胞を殺されたクルド人自身が言っていた。「サダムは敵だが、イスラム教ではないアメリカは、もっと信用ならない」。サダムはイスラム教徒によって倒されなければ人々は納得しなかったのだ。
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