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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 高齢者労働力?制度と場所を官民一致で  
コラム名: 透明な歳月の光 81  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2003/10/24  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   ますます高齢者の人口比率が高まるにつれて、現実的な高齢社会の具体案がそろそろ示されてもいいのに、まだあまり眼に触れない。

 それどころか、老世代が遊び達者になることばかり褒められているのが事実のように思う。マージャンは手と頭の体操になるとか、絵手紙は若さの秘訣、と言ったような話ばかりである。

 しかし高齢者でも、遊んで暮らすことは次第に許されなくなるように思う。しかも日本のように、外国から労働力を輸入することに未経験で、ためらいも多い国としては、自国でできる限りの労働力を捻出することは基本である。

 しかし一方で、せっかく会社勤めから解放されたなら、今までできなかった旅行や趣味を思う存分楽しみたいと願うのも当然だ。ましてや人生の持ち時間は若者と比べて短いのだから、その希望が叶えられることも大切である。

 私は、定年後から75歳くらいまでの健康で働く意欲のある人たちに対して、週に2日、ないしは3日働く制度と場所を、官民一致して作ることが急務と思う。

 例えば月火水の3日働く組と、木金の2日働く組と、それぞれを体力に応じて選んで登録してもらう。3日働く組でも休みは4日、2日組なら5日の休日が続けて取れるわけだから、そこで旅行も趣味も休息も充分にできる勘定だ。もう少し長くかかる検査や入院、子供の家を訪問する企画、海外旅行などに行きたい場合には、事前に届ければいつでも遠慮せずに行けることを特徴にしなければならない。

 当然そこで働く人たちは、いささかの収入を得ることになる。もう一応基本的な生活のめどは立っているはずの人たちだから、労働に対する報酬もさして多くなくていい。しかし毎月、1、2泊の温泉行きの費用くらいは、貯金を減らさずに行ける収入があれば、誰もが安心するだろう、と思う。

 健康な老人が、弱っている老人の介護をすることも、その1つの目的だ。その場合は1日中でなくても、数時間でも役に立つ。掃除をし、洗濯機を廻し、夕食の支度をして帰る。或いは外廻りを片づけ、伸びた植木の枝を払うなどという作業もある。それだけでも手伝えば、家の中は生き生きとし、臭気も溜まらずこざっぱりとし、助かる人がたくさんいるはずである。

 老後でも、「社会」と触れてい続けることが、健康にも老化予防にも絶対に必要なのだ。そこで新しい友だちもでき、知らない世界にも入れてもらい、新しい趣味道楽を見つけることもあるだろう。

 「日日に新たなり」というのは、勉強中の若者にとっては当たり前のことである。高齢者がそれを味わう時に、それは妙味となるだろう。
 



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