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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 自治体のむだ遣い?「自分のお金」ならできぬはず  
コラム名: 透明な歳月の光 68  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2003/07/25  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   地方自治体が財源を自分で持ちたいと願う気持ちはよくわかるが、一方で地方自治体ほど、むだなお金を使っているところはないと思う。

 私は時々地方自治体の或るセクションが主催する講演会に講師として出るが、交渉はほとんどと言っていいほど、代理店に任されている。

 講演会の交渉など、簡単なものだ。できるだけ早めに、目的、主催者の名前、日時の希望、会場の場所、謝礼の額などを明示して、「後日お目通し頂いたころ、電話します」と書いて送ればいいのだ。紹介者が要るなどと考えるのは、とんだ見当はずれである。どなたの口ききでも、私の日程に合わなければお許しを願うほかはないのである。

 後は講師が会場に到着するための乗り物の時間、切符の手配、駅から会場までどうするか、などを適当な日にちに講師側と打ち合わせるだけである。講演会の交渉くらい、素人でもできるのである。

 自治体が代理店に交渉させたら、必ずそこで手数料を取られている。複雑なこと、特殊な技術のいることだったら、素人が手を出せない場合もある。しかしできることは自分でしなければいけない。

 私は今働いている財団で、どんなに安上がりになろうと、決して職員にさせないことがある。それはコンピューターの画面などの処理である。このような画面には必ず専門のデザイナーの手を入れないと、どことなく垢抜けない。一口に字と言っても、どのような活字体を使うのか、同じ活字でも並べ方をどうするかで、全く魅力的な紙面が生まれるからだ。

 先日愛知県の依頼で、腰を抜かしたことがあった。やはり名古屋にある代理店からの依頼なのだが、私に1000字で20万円の原稿料をお払いになるという。これは大雑把に言って、私の常識の10倍の原稿料である。敢えて名前を出したのは、愛知県庁が今後もこのようなべらぼうな出費をして、県民の払った貴重な地方財源をむだ遣いされないことを祈るからである。

 私からこのような額の原稿料を要求したことは一度もないが、個人企業が高額な原稿料をくださるというなら、それは先方の自由だから受けておくことにしよう。しかし公共の機関からは取れない。原稿料が高いのは、中間利潤を多く取るためだろう。こんなずさんな請け負いを許しているというのは、県の広報課の怠慢である。

 私は代理店に電話して「2枚半で3万円になさるなら書きます」と言った。これでも少しもらい過ぎだが、17万円は愛知県の出費が少なくて済むことになる。

 自治体の財源を大切に生かすことは、関係者が、お金を自分のものだと思えばできることだ。しかしその簡単なことをほとんどの人がやらない。
 



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