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日本の知的コミュニティーは、国内でも、国際社会でも貢献している姿が見えにくく脆弱だ。様々な社会的、国際的課題に的確な分析と解決策を示す人は限られ、常に同じ顔ぶれだ。特に、国際社会で活躍する知識人の数が少ないのが懸念される。
日本財団では3年前から、日本を含むアジア地域の「パブリック・インテレクチュアル」を対象にした研究交流を支援するため、「日本財団アジア・フェローシップ」を運営している。私たちが定義する「パブリック・インテレクチュアル」とは、公益を増進する活動に自らの知識、経験、専門性を通じて具体的な貢献をする人々のことだ。学者、研究者のほか、政策立案者、政府・自治体職員、ジャーナリスト、NGO活動家、作家、評論家、芸術家など官民の区別なく幅広い職種を包含する。
彼らには従来の知識人とは異なり、より実践的、行動的な知的リーダーであることが期待されている。山積する諸問題に的確に対応できる人材の発掘、養成と組織化が必要だ。
このような人材が必要なのは日本だけに限らない。グローバリゼーションの進展とともに、我々の杜会が直面する問題には、国境を超える共通の課題が増えているからだ。一国だけで対応できない共通課題に対して、自らその解決策を実践するか、的確な政策提言をして、「動かない政府・官僚機構」を動かしていく原動力になるような人材が、国際社会にも必要だ。
こうした問題意識から組織された日本財団の「アジア・フェローシップ」は現在、アジアの5カ国(マレーシア、インドネシア、日本、タイ、フィリピン)を対象に、毎年各国から6人ずつ合計30人(3年間の累計では87人)を選抜、彼らに他のアジア諸国で最長1年間学び、活動する機会を提供している。
彼らが取り上げるテーマは、政治、経済、環境、人権、文化的アイデンティティー、民族対立、宗教紛争などと広範で、人々の視点に立った改革を目指すプロジェクトが大半を占める。
例えば、宗教対立に悩むミンダナオ島にマレーシアのような連邦制を取り入れようという研究や、移民労働者の法的保護や環境改善についての地域共同事業、日本の青少年法を模範にフィリピンの青少年法改正を図る研究、森林資源の保全と共同体の発展の両立を目指す研究などが代表的なものだ。
問題は日本だ。人材は圧倒的に少なく、彼らを組織化するうえで手助けになる公共空間も機関も存在していないからだ。彼らの提案や議論が広く公開される場としての「知的フォーラム」や、彼らの活動を支援する多くのシンクタンクの存在が不司欠ではないか。
そのためにも、彼らの養成と組織化は、国家的事業としてとらえられるべきだと思う。その手段として、専門教育、留学、研修などを幅広く創設して、社会的認知度を高め、知的活動を支援するための財政的、制度的な枠組みを整備することが必要だろう。
彼らを中心に、日本の知的コミュニティーを再構築して、「知的パワー」を活性化し、アジアとも太いパイプで結ぶことは、日本の国際貢献としても、新たな局面を切り開くのではないだろうか。
≪朝日新聞 2003年1月26日朝刊「私の視点 サンデー」より転載致しました≫
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