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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: ゴーン型思考?改革へ情熱持ち活性化を  
コラム名: 透明な歳月の光 31  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2002/11/01  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   経済の世界とはあまり関係なく暮らしている私は、日産自動車の社長であるカルロス・ゴーンさんの話を10月25日付け毎日新聞の「余録」欄で読んで、深く同感した。

 毎日が伝えているのは、1つの逸話で、ゴーンさんが部品の単価が高いと言った時、担当者が「ずっとこの価格でやって来た」と答えた。するとゴーンさんは「私が聞きたいのは、これからどうするつもりかということです」と答えた。これは『ルネッサンス?再生への挑戦』の中に書かれていることだという。

 ほんとうに今まで世間に溢れていたのはこの「最も悲しいタイプ」の答えだったことを私も体験している。事業を伸ばそうという意欲もなく、事態の分析力にも作戦にも欠け、改革に対する情熱や矛盾を何1つとして感じていない人の反応である。

 ただそこにあるのは、保身の情熱だけである。前の人もそうしていたのだから、自分もそうしているだけだ。はっきり言うと、それで責任逃れをしようというのである。役所にも銀行にも会社にも、この手の人がうようよしていて、国民や組織はそういう人たちに高給を払っていたのである。

 しかしゴーンさんならずとも、そんな人にむだな金を払える時代ではなくなった。そういう人は今後、年功序列からどんどん脱落していくように、組織を改革すべきだろう。

 「そういう人」の典型は次のようなものである。

 (一)言わなければ自分からは義務的仕事以外何もしない。

 (二)その人がいなくても、組織や部署は少しも困らない。

 (三)独創性の代わりに、必ず規則や前例を言い訳に使う。

 (四)なぜそうなっているのか、ほんとうに効率的かという機構上の疑念を根本から独自に考えたことがない。

 (五)何より勇気がない。

 秀才だらけのはずの霞が関の高級官僚にも、このタイプの人がたくさんいる。私は何度もこういう答えを聞かされた覚えがあるのだが、最近少し空気が変わって来たような気がしないでもない。そんなことでは、まずボーナスはうんと下がり、出世も絶望、世の中を変えることなどできるわけがない、と身にしみて思ってもらうべきだろう。

 視角を変えて考え、両方にとって利益になる方法はないものかと策を練ることは、実に創造的な作業なのである。私は今までにしばしば、両方が得をする結果が生まれることにびっくりしたことがある。一方が儲ければもう一方は損をする、と決めてかかる方が頭が固いのである。

 これからもゴーン型思考が吹き荒れて、日本の社会が活性化することを願いたい。日本人はそうした「切瑳琢磨」に耐え、それによって充分に伸びる人たちがほとんどなのだから、アメリカン・ドリームならぬ日本ドリームが出現する社会にしてほしいものだ。
 



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