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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: NEPAD計画?農業こそ「開発の王道」  
コラム名: 新地球巷談 15  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2002/10/28  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   さる7月、アフリカにとって画期的なことが起きました。53カ国が加盟する「アフリカ連合」発足と、アフリカの人たち自身による「アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)」計画の発表です。

 アフリカ開発の歴史の中で、アフリカの人たちが「自らの手で」こうした形の意思表示をしたのは初めてのことです。アフリカの農業開発に永年携わってきた私は、大きな期待と関心を持って計画書を開いてみました。しかし、読了後は、「やっぱりそうなのか」という、いささか苦い思いが残りました。

 計画書は全58ページ、「平和と紛争解決」「民主主義とガバナンス」「経済協力と地域開発」「インフラ整備」といった課題が並んでいました。それらはいずれも、アフリカにとって深刻な問題であり、その解決は地域の明るい未来にとって不可欠なものであることはいうまでもありません。しかし、農業問題に割かれていたのはわずか1ページに過ぎません。「やっぱり」と思った通りの結果でした。

 アフリカの人口の70%ちかくは農民、それも大多数は零細農民です。彼らの農業生産性は、先進農業国の3分の1から5分の1という低いレベルなのです。アフリカの農業に飛躍的な発展がなければ、NEPAD計画など絵に描いた餅になってしまいます。

 アフリカ、とりわけサハラ砂漠以南の農業は、そのほとんどを天水、つまり雨水に依存しています。灌漑用水を使うことのできる恵まれた農民はわずか数%に過ぎません。従って、少ない降雨量は人々に破壊的な結果をもたらすことになってしまうのです。

 1984年、エチオピアを襲った飢餓はまさに典型でした。この時、日本財団は、稲や小麦、トウモロコシの品種改良により南アジアの食糧不足を改善し飢餓を解消した「緑の革命」の生みの親でノーベル平和賞を受賞した米国の農業学者、ノーマン・ボーローグ博士を招聘し、米国のカーター・センターと共同で農業生産性向上のためのSG(笹川・グローバル)2000プログラムを立ち上げました。

 このプロジェクトは畑に綱を渡し、一列、等間隔に掘った穴に種を植え、5センチほど離して若干の肥料を施していくことを教えるだけの簡単なものです。しかし、零細農家の伝統的な農法にほんの少し近代的な知識を与えるだけで、トウモロコシや小麦など主食作物の収穫量を確実に2倍から3倍に増やすことを証明し、いまではサハラ砂漠以南の14カ国で導入されて、世界銀行や国際機関から大きな信頼と評価をかちえています。

 そのアフリカの食料増産運動の立役者であるボーローグ博士は今年88歳、「学者は現場に出ろ。農民の立場で考えろ」との主張通り、いまも元気に農業指導にあたられています。

 先日、日本大学から名誉博士号をうけるために来日された折、日焼けした顔をほころばせ、「貴方のお父さんの迫力にはかなわない」と話されました。18年前、70歳という年齢を理由にアフリカ行きを固辞する博士を説き伏せたのが、当時88歳だった亡父、笹川良一。博士は、「齢88歳に比べれば70歳はまだまだ青年」との父の言葉をうけてアフリカでの農業指導を手がけたのでした。

 この9月、私はSG2000プログラムを国の農業政策の柱にと計画しているモザンビークの村々を訪問しました。零細農民の生産性をあげ、家族が腹いっぱい食べることができるようにならなければ、社会の発展も国の発展も有り得ないと改めて思いました。

 世界のどの国であれ、農業生産性が致命的に低いまま経済発展に成功した国は存在しません。その「開発の王道」を日本は来年開く「東京アフリカ開発会議」で提唱し、NEPADにおいて、農業こそが最重要課題であるとして、あらゆる政治意志を結集してもらいたいものです。アフリカの零細農民が「ひもじいまま眠りにつく」ことのないようにするのが、アフリカ開発の原点なのです。
 

アフリカに農業革命を!「SG2000プロジェクト」について  
「SG2000の活動内容」(笹川アフリカ協会のホームページ)へ  


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