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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: アフリカの旅?危機意識に欠ける霞が関  
コラム名: 透明な歳月の光 28  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2002/10/11  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   再び私は、何回目かのアフリカの旅に出た。各省庁とマスコミから集まった青年と若い中年たちの混成グループである。ガーナ、シエラレオネ、コート・ジボワール、カメルーン、中央アフリカ諸国の、首都だけでなく、数百キロ奥まで入る予定である。

 これらの国々は、いずれもマラリアとエイズ、常に存在する政情不安定、電気・水道などの生活基盤がまだほとんどできていない広大な地方を抱えている。

 世界的レベルの貧困や遅れがどのような形で存在するかを知ってもらうのが旅の目的なのだが、それをほぼカードを揃えて体験してもらえたことに、私は満足を覚えている。

 長い間内戦の続いていたシエラレオネでは、首都から東に直線距離で約80キロのルンサーという町の修道院に泊めてもらった。反乱軍によって内部をすべて破壊され略奪に遭った建物の床に、若い人たちは寝袋をおいて寝たのである。それでも日本人のシスター根岸美智子さんが母親のような心遣いで、水だけのシャワーを浴びられるように、その日だけ発電機の運転時間を長くしてくれた。しかし私たちは暗闇に備えて、両手が使えるような懐中電灯を携帯していた。

 シエラレオネにいる間に、コート・ジボワールの情勢は悪化していた。アビジャンを経由してカメルーンのドゥアラに行くことは内戦で既に外国人の国外退去が始まっていて不可能になっている。

 チャーター機は、シエラレオネでは不可能。ナイジェリアのラゴス経由を考えた時、同行の公務員たちの公用旅券の渡航先国名の中にナイジェリアがないことがわかった。ヨーロッパに出て再び南下するルートを使うこともすぐ考えたが、彼らの旅券ではサベナ航空を使ってベルギーに出ることも同じ理由でできなかった。アフリカの基本的ルールは、あらゆる手段を使ってあらゆる方角に脱出できるよう、常に備えておくことだが、霞が関はその程度の危機に対する意識もないのであった。

 果たしてパリ空港では、2時間しかない無理な乗り継ぎで7個の荷物が積み残された。私は預けた荷物はなくなるものと思っていたから、手荷物にすべて必要な品を持っていた。しかし用意がなければ汗だらけの衣服のまま熱帯の夜を寝るほかはない。

 グローバリゼーションというようなことを言う人々は、すべて今度の私たち程度の甘いアフリカ体験でもするべきだろう。なぜ選挙監視が必要かというと、電気のない土地では民主主義は全く不自然で、昔ながらの族長支配が合っているからなのだ。

 マラリアの危険も、電気のない夜空にひしめき合う星の壮絶さも、一切の電気的通信の不可能な土地のあることも体験せずにグローバリゼーションを語ることは、何という虚構だろうと、改めて私は考えている。
 

アフリカ貧困視察2002(第1回〜)  


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