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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 食料支援?ものを出したら口も出す  
コラム名: 透明な歳月の光 26  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2002/09/27  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   小泉訪朝によって残酷な拉致事件の結果だけが明らかになった後、事件の真相究明もできないまま北朝鮮に対する支援などに踏み切る必要はない、という論調が随所に見られた。

 拉致は犯罪だから、事件の解明は国際社会の常識だし、北朝鮮で、たとえば食料支援が実際に必要かどうかも、調べてみなければわからない。しかし仮にほんとうに子供たちが飢えているなら、やはり救援はすべきなのである。なぜなら、北朝鮮の政権は許せなくても、子供たちは日本人の拉致事件の被害者と同様、政治の被害者なのである。

 ただしその場合には、厳しい条件をつける必要がある。つまり贈った食料を幹部が闇流ししないように、厳密に監査できることが条件である。食料の搬入と同時に監視員を送り、すべての食料がほんとうに飢えた子供の口に入るように完全に現場で見ていることが必要だ。なぜなら、過去に人道援助の名の元に入った食料を、政府が自分勝手に分配しているという噂は後を絶たなかったからだ。

 アフリカでは、栄養失調児用の食事を作ると、その場で食べさせる。家に持って帰らせれば、それが別の人の口に入る恐れがあるからだ。

 同じように栄養失調児に粉ミルクを与える時には、子供には隔週くらいに体重測定を行い、理由なく体重が増えない場合には、ミルクの支給を絶つ、というやり方が取られている。それは貧しい母親が、支給品の粉ミルクを小さじ一杯幾らで市場で売ってしまい、その金で上の子供たちを食べさせている無言の証拠だからである。それを許せば、ミルクは結局は栄養失調児の口に入らないことになる。

 私はフジモリ前ペルー大統領が、山岳地帯に建てた主にインディオの子供たちのための学校を訪問するのに同行したことがあるが、大統領はヘリに積んで来た新品の衣類を自分も手伝って村人に渡した。寡婦に男ものの上着、老人に女児用のセーター、という具合のめちゃくちゃな配り方である。それでいいのですか、と聞くと、とにかく村人の手に渡せば、彼ら自身が後で何とでもする。まちがいなく、彼らの手に渡ることが大切なのだ、という返事だった。誰かにまとめて渡せば、結局は貧しい人たちに届くかどうかはっきりしなくなるからだ。

 もう何十年も前のことになるが、インドでは、ハンセン病ではないかと心配してやってきた初診患者が、病気ではないと言われると、ドクターに交渉して、何とか病気だという認定をもらおうとしていた。ハンセン病患者としてただの薬を貰えれば、すぐにそれを市場に持って行って売れるからである。

 飢えに対するシンパシーと、ものを出したら口も出す義務とは、おそらく対で果たさねばならないのである。
 



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