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人間は年を取ると共に、その人なりに賢くなるはずだ。いわゆる老人だけでなく、20代も30代も、それなりに10年前よりは知的成長をしていなければおかしいのだが、時間を無為に使っていてはとてもそうならない。賢くなる方法は哲学などの本を読むことと、人間に興味を持つことだが、この2つともできていない若者が多くて気の毒になる。インターネットでは知識は増えるが、知識と知的判断とは全く別のものなのである。
81歳になるサウディアラビアのファハド国王は眼の手術を受けるためにスイスのジュネーヴに滞在していたが、この程飛行機12機に分乗した側近たちと、休暇を過ごすためにスペインの海岸の保養地マルベラにある離宮に到着した。英字新聞はアメリカのホワイトハウスを真似したこの離宮のことを「けばけばしい」といささかの悪意を込めて表現している。身分が違い過ぎることはあっても、王の生き方は私たちに多くのものを思わせてくれる。
国王は年齢もあって、ずいぶん前から衰えているという記事はどこかで読んだことがある。車椅子の国王は土地のスペインの役人と警察に迎えられた。マルベラにとっては、なおざりにできないお客なのである。数十台のぜいたくなリムジンとバスが、王とその側近のために借り上げられたし、町の商店は随員のためだけにも高級品を揃えている。何しろ随員は数千人。マルベラ市の計算によると、サウディ王室は1日に約7億円を使ってくれる。前回1999年の滞在の時には、この地方都市経済に70億円から100億円の金を落と してくれた。
日本人はすぐ特権階級の悪口を言うが、こういう話を読むと王室そのものが1つの企業で、数千人の従業員を食べさせていると考えれば理屈が合うことになる。
しかし王個人のこととなると、私は別の感慨に捕らえられる。王は石油によって使いきれないほどの金を得ていても、実は金の生かし方を知らなかった人なのかもしれない。
同じ頃、ペルーのトレド大統領夫人エリアーネ・カルプさんが、銀行の顧問料として毎月1万米ドルを受け取っていた話も報じられた。大統領は「これは全く正規の透明な契約に基づいたものだ」と語ったが、問題は貧しいペルーにおいて月収1万ドルという金が、どれだけの重さかを夫人が忘れていた点である。これは警察官や学校の教師の実に4年分の収入なのだ。
賢く生きて、金と知識を十分に使い尽くすということは、国王や大統領でもむずかしいことだったのだ。貧しさを忘れず、バランス感覚を失わず、自分にとって必要な金はどれだけかということをわかるだけでも、至難の業なのである。
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