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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: まあ、そんなものか  
コラム名: 曽野綾子の楽な地点  
出版物名: 財界  
出版社名: 財界  
発行日: 2002/08/20  
※この記事は、著者と財界の許諾を得て転載したものです。
財界に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど財界の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
  ≪ 女性の再就職は家族にも社会にもプラスだ ≫

 最近、企業が、子育てをするために退職する女子社員の再雇用を保証する動きがあるというが、大変いいことだと思う。

 私の家では3人の秘書がそれぞれ約10年間ずつ勤務してくれた。最初の秘書がお嫁に行って、下の子供もそろそろ手がかからなくなった頃、3番目の秘書が結婚することになった。すると最初の秘書が戻って来てくれた。

「私の頃は、コピー機だって素朴で、ガリ版刷りのようなものでした」と彼女は怨むが、とにかく我が家の気風は知っている。

 私が無給の財団会長として働くようになって少し忙しくなると、彼女1人では手が足りなくなって、2番目の10年を勤めてくれた秘書が、1日置きに来てくれることになった。彼女のところは子供たちがまだ中学生と小学校の高学年だったから、毎日の出勤は少し無理だったのである。こうして1.5人のオフィス要員は、家族のような昔馴染みばかりになった。

 再就職ということは、雇用者側から見ても、大変にありがたい。つまり「会社」の気風を知り尽くして、再び働きに来てくれるのだからである。「まあ、そんなものか」という日本語があるが、恐らく彼女たちの感慨は、その言葉に尽きるであろう。

 夢を描けば、世の中にはもっといい勤め口がいくらでもあるだろう。運がよければそうなるだろうが、運が悪ければそうでないのに当たるのだ。この確率は5分5分であろう。とすれば敢えて危険を犯さず、嫌なところも知り尽くした以前の職場に勤める方が無難ということになる。そういう計算や分別ができるようになることが、人が年を取ることのよさなのだろう、と私は図々しく考えている。

 前から書いているが、私は乳幼児のいる女性に働いてもらうのは願い下げにしたい。子供が熱を出したといえば、当然、お母さんは帰さなくてはならない。しかし私の家程度の家内工業的職場でも、秘書が突然早引けされると困るのである。ましてや子連れで勤務先に出てくるなどもっての他だ。

 どちらの側から見ても、子供が生まれたら女性は一端、退職して、少なくとも10年か12年くらいはべったりとうちにいてやる方が自然で無理がない。

 しかし女性たちがそのまま家にいることもない。子供が少し大きくなった頃外へ出て働く方が、世間が見られておもしろいに決まっている。子供たちの自立心も育つ。しかもその年代は、家のローンや子供の学費などもっともお金の要る時期だ。その時、再雇用の道が開けていれば、皆があせらず無理せず、気持ちのゆとりをもって人生設計ができるはずなのである。
 



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