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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 北朝鮮の食糧問題?国連は独自調査で実証を  
コラム名: 透明な歳月の光 19  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2002/08/09  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   大島賢三国連事務次長らは、8月5日北京で記者会見をし、国連がただちに大量の食糧を確保できなければ、北朝鮮で9月以降、数100万人が飢えに直面する、と発表したという。大島事務次長たちは4日間北朝鮮を視察した。

 北朝鮮の人口は、私が調べたところ2255万人となっている。「数百万」が飢えるという言い方はアヤフヤすぎるが、200万人としても10人に1人だから、大島事務次長一行は恐らく町で、そうした栄養不良に陥りかけた人々をいくらでも見られたろう。写真も撮れたはずである。

 しかし私の見た新聞に出されているのは、7月31日に撮影された、元山にある孤児院の子供たちのいわば最新の写真で、出所は世界食糧計画だというから、これは一種の正確な、合目的的資料写真と見ていいはずである。しかしそこに写っている子供たちは、笑ってはいないが、痩せてもいず、浮腫もなく、髪の金髪化もみられない。どこにも栄養失調の気配はない。

 私はアフリカでたくさんの栄養失調の子供たちを見た。今働いている財団の職員たちにも、子供の栄養失調の見分け方を覚えてもらっている。

 カロリーの不足を示すものはガリガリに痩せて、骨は節々が大きく見え、他の部分はマッチ棒のようになる。顔は皺だらけで老人様顔貎という症状になり顔だちはしばしばガイコツに皮が張っただけのように見える。腕にも皺がよって皮膚が余って来る。これがマラスムスと呼ばれる徴候である。

 これに対してクワシオコルと呼ばれるのが蛋白質不足である。これは一見太って二重顎になり、腕もお腹もぱんぱんに張り切ってお腹いっぱい食べているように見える。私はこうした孤児の1人を、将来お相撲さんにおなりなさい、などと膝の上であやし、後でその病状を教えられてほんとうに恥ずかしくなった。太って見えるのは危険な浮腫が来ているからなのである。クワシオコルの患者は、さらに人種のいかんにかかわらず、髪が金髪になる徴候もある。

 しかし世界食糧計画から提供されたという孤児の写真には、それらの徴候は見えないのである。国連もほんとうに北朝鮮の食糧の不足を訴えたいのだったら、写真という最も真を写すのに簡単な手段で、現実を証明しなければならないだろうが、そういう写真はまだ提示されていない。国連は状況説明を取りつぐだけでなく、独自の調査によって実証する責任がある。

 しかし、もうこれ以上、「証拠写真」を請求してはなるまい。そんなことをすると北朝鮮は、資料写真を作るために人為的な栄養失調児を作らないとも限らないからだ。証拠を求めて子供を犠牲にすることはできない。
 



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