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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: 「海国日本」の現実?縦割り行政最大の犠牲者  
コラム名: 新地球巷談 12  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2002/07/29  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   7月20日は、祝日として制定されて以来、7回目となる「海の日」でした。世界広しといえども「海」を国家の祝日として制定している国は、日本だけです。いかにも「海国日本」を象徴しているといえますが、国民の「海国」への思い入れと現実には大きなギャップが存在しています。

 日本のエネルギーの対外依存率は90%に近く、食料の対外依存度も60%を超えており、これらはみな、船舶によって運ばれます。日本は、船舶による輸出入が95%と宿命的に「船舶依存度」が高い国なのです。

 今日、わが国商船隊のうち2000トン以上の外洋船の日本籍船舶はわずか134艘、日本人船員は10%に過ぎません。こうした日本国籍の船舶および日本人船員の激減は、便宜置籍船の増加と船員供給の国際化など、海にロマンを求める思いとは裏腹の、経済効率のみを重視した結果といえるでしょう。

 こうした外国籍船舶、外国人船員への過度の依存は、国家安全保障といった改まった幟を立てるまでもなく、日本の存立そのものを他国に委ねざるを得ないリスクを増大させています。とくに船舶の巨大化、高速化と船員の多国籍化の進行の中で、船舶の安全航行の確保は「海国日本」にとって喫緊の課題となっています。だからこそ、開発途上国の優秀な海に関わる幹部職や船員を養成することが急務、不可欠になるのです。

 世界海事大学は、スウェーデンのマルメ市にある国連の国際海事機関(IMO、本部・ロンドン)が運営する大学院大学です。航行の安全管理や海洋環境保存を図るため、開発途上国の海事行政職や幹部船員養成を主たる目的として20年前に開校されました。日本財団ではこの大学に奨学金制度を設け、支援を続けています。

 これまでに37カ国226人に上る卒業生を送り出し、帰国後は、それぞれの国で海事行政や船員教育にかかわり、国会議員や大臣の地位についているOBも珍しくありません。

 卒業生は海を共にする仲間として強固な同窓会を組織し、活発な意見や情報の交換を行っています。私は彼らにより同窓会会長に推挙され、地球規模でのネットワーク構築を目指しています。

 6月中旬、日本財団が寄付したマラッカ海峡の安全航行に必要な設標船「ペドマン」号の引き渡し式出席のためマレーシアを訪問、奨学金を受けた卒業生たちの歓迎をうけました。マレーシア海事大学前学長など多士済々な人々と冬は零下30度にもなるマルメでの2年間の寮生活の思い出話に花を咲かせましたが、彼らが異口同音、後継人材の育成に意欲をみせていたのが印象的でした。

 一昨年、日本財団がお手伝いして世界33の商船・海事系大学が集まり、国際海事大学連合が発足しました。各国でばらつきのある商船・海事系大学の教育カリキュラムの均一化と質的向上を図り、世界の海上交通の安全性を高める目的の組織です。

 「我こそは」との自負が強い各国の商船・海事系大学が連携することは画期的で、世界海事大学も参加しています。日本での世話役は神戸商船大学が担ってきましたが、行政改革の一環として本年度をもって神戸大学に吸収されます。東京商船大学もまた東京水産大学と合併、わが国から「商船」の名称をもつ大学は姿を消すことになりました。これも日本の現実の姿なのです。

 地球の4分の3を占める海、私たちの生存権はすべからく海、船にかかっています。隣国の中国や韓国も含めて、主要国には海に関する主務官庁があり、海洋の総合的管理に熱心に取り組んでいます。米国では、「海の日」に特別に大統領声明も出されます。

 しかし、日本は「海」を総合的に司る主務官庁もなければ、海洋政策もない世界でも珍しい国です。「海」は縦割り行政の最大の犠牲者なのです。かつて「海の日」を祝日とすべく奔走した私ですが、「海の日をやめたら」とさえ思う昨今です。
 

世界海事大学(IMO)のホームページへ  


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