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4月から始まったNHK朝の連続テレビ小説「さくら」は、ハワイ生まれの日系4世「さくら」が主人公。中学校の英語指導助手として訪れた父祖の国、日本での出会いや思いを描きます。
広辞苑(第5版)によると、日系人とは日本国籍はないが「日本人の血統を引いている」人を意味し、大方は移民によって生まれました。アメリカ大陸を例にとると、南北合わせて250万人、新潟県の人口とほぼ同じ数の日系人がいます。
私の勤める日本財団は長年、海外の日系人支援を活動の1つの柱としてきました。ロサンゼルスのリトル・トーキョーにある全米日系人博物館も、そのひとつです。
かつて邦画のポスターや歌謡曲であふれたリトル・トーキョーは、近代的なビル群に変わりました。その一角にある博物館の本部、旧西本願寺羅府別院ビルはカリフォルニア州の歴史保存建築に指定されています。
米国の日系人は、日米開戦と同時に敵性外国人として連行されたり、強制収容所に隔離されるなど厳しい生活を強いられました。博物館は、その苦難の歴史を後世に残すものです。当時の写真や日常生活用品など展示品は、深く重いものを語りかけてきます。収容所経験のある日系2世はボランティアの「語り部」となり、来館者に民主主義の本山、米国で起きたおぞましい人種的迫害の歴史を、説得力をもった語り口で伝えています。
そこでは、課外授業の小中学生の団体をしばしば目にします。真剣なまなざしから、自国の負の歴史を真摯にとらえようとする米国の姿勢を垣間見る思いがします。
日本財団では昨年までの3年間、博物館が実施した「国際日系人プロジェクト」を支援してきました。これはアメリカ大陸における日系移民の歴史と実情を調査研究し、後世に伝えようというものです。各国の学者を動員、徹底した聞き取り調査をした結果は、このほどスタンフォード大学出版から『新世界・新生活?アメリカ大陸の日系人たち』として、英語、スペイン語、ポルトガル語で出版されました。8月をめどに『アメリカ大陸の日系人百科事典』にもまとめられます。
日本人移民は、明治元年、通称「元年者」と呼ばれたハワイ移民が最初といわれています。当初は北米が主な移民先でしたが、20世紀に入り「黄禍論」の高まりとともに米国が移民禁止令を発令、移民先がブラジルを中心とする中南米へとシフトしていきました。
私は2月にブラジルを訪れた折、多くの日系人と懇談する機会を得ました。ブラジルの日系人は現在140万人、総人口の1%程度。うち1世は8万人、大正、昭和期に移民された人々です。数理統計学の大御所、林知己夫氏は「調査統計では、ブラジル日系人は日本人以上に義理人情を尊ぶ」と記していますが、60代以上の人々はみな純朴かつ折り目正しく、わが国がどこかに置き忘れた「古き良き日本人気質」を思いだしました。
今日、ブラジル日系4世の60%は混血です。日本的なものに背をむけた人の多い2世とは対照的に、3世以降の世代の若者は日本への親近感を強くしています。「日系人は優秀」との評価が定着したことが大きいようで、日系社会の古老によれば、若い世代の日系人のアイデンティティーは教育の分野において顕著だそうです。例えば、名門サンパウロ大学の学生数四万人のうち20%、教員4000人のうち10%弱が日系人です。この数字こそ日系人の教育への熱意を表しているでしょう。
われわれはとかく「移民」や「日系人」を裏面史としてみがちです。そして「移民」「日系人」の言葉自体もわれわれの語彙から消えつつあるようにも思われますが、一片の些事(さじ)と思われがちな事柄から、われわれが歴史の教訓を学ぶことは多々あるのです。(日本財団理事長)
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